第13話 温泉にて 幼なじみたちとの昔と今と未来
「お待たせしたですぅ!」
なんだか居たたまれない雰囲気を一気に吹き飛ばす覇気。
一般浴場とエメフィー専用浴場の間の通路から現れたのは、裸のシェラ。
なんだかいつも持ってる、水に浮く水鳥の模型を両脇に抱え、無邪気に笑っている。
髪は洗った後なのか下ろしており、小さな身体に青い髪がぴったり張り付いている。
もちろん、両腕は塞がっているので、その身体は隠されていない。
もし、両手が空いていたとしても、シェラが隠すとも思えないが。
「うにゃぁぁぁっ!」
シェラは走り始めたと思ったら、水鳥を抱えたまま、水面に飛び込んだ。
ざぶん、と大きな水音と、大きな水飛沫を上げて飛び込むシェラ。
「シェラ! あなたはもうっ!」
叱るような口調で、マエラが立ち上がり、湯船に向かう
「身体を洗う前にお湯につかる人がいますかっ! 上がってきなさい!」
「で、でも、向こうでみんなと洗いっこして来たですぅ……」
シェラは怯えて、立ち上がりはしたが、出ようとはしない。
「それならいいけれど、髪は結びなさい? こちらに来なさい?」
「ふぁ……、自分で出来ますぅ」
「いいから来なさい?」
「はいぃ……」
叱られ、お仕置きをされると怯えているシェラは、マエラの顔を窺いながら風呂から上がってくる。
「ほら、後ろをお向きなさい?」
「はいぃ……」
シェラはおとなしく後ろを向く。
マエラは彼女の長い髪を後ろにまとめ、いつものポニーテールよりも高い位置で縛る。
「髪は温泉に付けると傷みやすくなります。これだけ長くて綺麗な髪なのですから、大切にしなさい?」
「はぁい……」
マエラは、エメフィーの髪の時のように愛おしく、優しくその髪を撫でてやる。
エメフィーは、この三人の関係は大好きだ。
子供の頃から一緒に育って来たが、いつも年長のマエラがまとめ役になっていた。
マエラはもちろんエメフィーに仕えているのだが、シェラも分け隔てなく愛しているようで、それを見ているのもまた楽しい。
「エメさま! 一緒に入りましょー!」
シェラがエメフィーの腕に抱き着きながら言う。
「うん、入ろうか……」
エメフィーは、マエラもシェラも大好きだ。
こうしてシェラに抱き着かれるのも可愛くて仕方がない。
無邪気で全く気付いていないが、その腕には、大きく育って来たその胸がくっつけられる。
エメフィーは女の子の身体の柔らかさ、特に胸とお尻の感触が大好きだ。
それは鍛え過ぎているエメフィーにはない。
だから、周りの女の子たちの成長を一番見て取れる、身体のその部分が大好きだった。
何より触り心地が最高なのだ。
この気持ちは、羨ましさからなのだろうか。
「どうして僕だけ女っぽくならないんだろう。背もどんどん伸びるし、最近鍛えるたびに筋肉がついてくるし。そのくせ全然脂肪もつかないし」
「そ、それはぁ……」
シェラは苦笑いしながら、マエラをちらちらと見ているので、エメフィーはそうつぶやいたことを後悔した。
これは、言わない方がよかったか。
シェラは自分で答えに困ることをエメフィーに言われると、マエラに助けを求めるのだ。
「殿下、先ほども申しましたが、私は殿下のお身体が誰よりも美しいと思っておりますし、私はそのお姿を愛しております」
「あ、あたしもですぅ!」
取ってつけたようにシェラも続く。
そう言ってくれるのは本当に嬉しい。
しかも、おそらくお世辞などではなく、本気でそう思ってくれているのだと思う。
だけど、いつまでもこの三人の世界ではいられないのだ。
騎士団は今ではかなり大きくなっており、エメフィーはその団長であるし、尊敬されなければならない。
だから、必死に頑張って誰よりも強く、を目指してきた。
騎士団のみんなも、それを認めてくれていて、ある程度の尊敬はされていることだろう。
だが、世界は時間が経つにつれて、範囲は更に広くなっていく。
エメフィーが従える者の数は、果てしなく増えていく。
いつか母の後を継いで女王になる日が来るだろう。
そうなれば、全国民が配下になる。
この三人だけの世界の期限は、もう長くはない。
エメフィーは、王族であり、他の二人も貴族だ。
次世代にその血を継がせるために、殿方との結婚は避けられない。
特に女王になるエメフィーは、婿を迎え添い遂げなければならない。
その時に、この二人の事を、今と同じように見られるだろうか?
この二人は同じように見てくれるだろうか?
不安は積み重なっていく。