第10話 エメフィー女騎士団
最初は王女と貴族の子女だけの、お遊びのような集団だった。
だが、強くなっていくエメフィーやシェラ、運営能力を発揮するマエラ。
更に、鍛えれば強くなりそう、という少女を王宮内から探してくるエメフィー、それまでの人生から分析して強くなりそうな庶民を採用するマエラによって、強く、大きくなっていった。
最初は嘲笑された女だけの騎士団は、いつしか団員も増え、部隊も分かれ、もはやジュエール王国の一戦力と言っても支障のないレベルに育っていた。
だからこそ、宮廷の奥に、彼女らのみの空間、男子禁制の庭園を勝ち取ることが出来た。
何と言っても集まったのは十代の少女ばかりだ。
殿方の目の届くところで、勇ましく気合を入れて訓練することを恥ずかしく思う者もいるだろう。
そういうところまで配慮して、男性の目を排除したこの庭園を用意したのだ。
と、エメフィーは聞いている。
実際それは正しくもあるし、それで恥ずかしがり屋の少女や、殿方の前では淑やかでいたい貴族の子女などはそれで同性の目だけの中で頑張っている部分もある。
だが、それは、エメフィーがマエラからそう聞かされているだけで、本当のところは、エメフィーの過度なスキンシップを世間の目から隠すためだ。
エメフィーは人懐っこく、特に自分が仲間と認めた者には、周囲から見れば過度のコミュニケーションを取ろうとする。
それは先ほどの槍剣隊長の胸を遠慮なく揉んだり、弓隊長の脇を抵抗する意思を喪失するまでくすぐったり、魔法隊長のお尻を捲り、叩いたりなどの事だ。
エメフィーにとっては普通の事であるし、される側も本心からの拒絶はない。
前に弓隊長のパンツを脱がそうとしていて、流石に涙目になっていたが、特にそれ以降も嫌がられることもない。
それに乗じているのか、特に最近はどんどんエスカレートしている。
エメフィーを良く知っている者が見れば、「また殿下はあんなことをして、しょうがない人だな」と微笑ましく眺めるだけだが、何も知らない者が見ればどうなるか。
第一王女で次期女王たる者が、臣下である彼女たちに日常的にそのようなことをしていることが世間に広まってしま
えば、我儘な暴君と称されることもあるだろう。
エメフィーは会えば生まれながらの王族ということが分かるし、話をすれば敬愛の念を抱かれるほどの人物であることも分かる。
過ぎたスキンシップも許し、逆に嬉しく思われるほど、愛されている人物なのだ。
だが、もはや広大な領地を持つジュエール王国全ての国民と会って話をするわけにもいかない。
だから、マエラはその行為を世間から隠すために、この庭園の独占を手配したのだ。
エメフィーは親しい者に親密なだけではなく、仲間になりたい者へも踏み込んで親密になろうともする。
その、最たるものが、エメフィー女騎士団専用の大浴場だ。
これが目当てでこの騎士団に入ろうという者もいるくらいの規模で、ゆっくりと長く入れる、最高の施設だ。
山脈の畔から湧き出ていた温泉をここまで引いてきて作った、大掛かりでこの国の王宮にすら他にない施設だ。
庶民の娘、それどころか下級貴族の娘ですら、場合によっては毎日の水浴びすらままならない中、この騎士団にいれば、毎日温かい風呂に入ることが出来る。
これにより、王宮で働くことを希望する少女の希望職種の第一位が、メイドから騎士団へと変わったくらいだ。
この施設だけで、エメフィーの騎士団内での人気が最高になったと言ってもいい。