第1話 本人の驚愕
この小説には第二章から戦闘があり、多少残酷なシーンが含まれますが、回復魔法があるため、数話以内に心身とも健全に回復します。
敵が死ぬことはありますが、主要キャラは死にませんし、取り返しの付かない状態にはなりません。
敵キャラでもヒロインは死にません。
「エメフィー・ラルナ・シャルティク王太子」
いつもより厳かな、女王の口調。
それは儀式であるから当然であるだろう。
「これまであなたを王女として育ててまいりましたが、あなたはこの国で唯一直系王子です」
参列者からのどよめき、そして、この中で最も動揺しているのが、エメフィーその人だった。
王太子になる儀式を終え、あとは女王である母親の祝辞を聞いて終わりだという時に、とんでもない発言が飛び出して、呆然としていた。
何しろ今の今までエメフィーは自分をジュエール王国の第一王女だと思っていたし、周囲もそうだと思い込んでいた。
「十六歳を迎えた今、あなたの能力は顕現しているはずです。唯一、魔姫に対抗できる希望があなたなのです」
母である女王の話は続くが、もう頭に入ってこない。
自分が王女ではなく王子で、つまりは男だった。
それは、自分が女だと信じて疑わなかったエメフィーにはあまりにも衝撃的で、そして驚異的だった。
だが、納得出来たこともいくつかある。
自分だけが周囲よりもどんどん身長が高くなり、食べれば食べるほど、腕や脚が太ってくるのでどれだけ食事制限してきたか分からない。
おかげで今も細身のままでいられているが、これは常に鍛錬を欠かしていないエメフィーに男の子らしい筋肉がついてきたからなのだろう。
そのくせ胸も育たず身長だけは伸びていき、いつの間にか長身細身の美女と呼ばれるようになっていた。
自分はまだ少女と呼べる年齢のはずなのに、何故だか周囲の少女たちに比べ、まったく少女らしさがなかった。
ずっとどうしてかと思っていた。
理由は簡単だ、自分は男だったのだ。
そして、自分はもちろん王女だと思っているから周囲も少女たちで固め、彼女たちとコミュニケーションをはかるとき、彼女たちの身体に触れ、興奮していたのも──。
「ああぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
エメフィーは思わず叫んでしまった。
「…………」
目の前で話をしていた母、女王が怪訝な表情をする。
会場も多少ざわざわする。
そうだ、ここはエメフィー十六歳誕生日を記念し、公人になり、かつ、王太子になる儀式の厳粛な会場だ。
そんなところで当の本人が、女王陛下からお言葉を賜っている最中に大声を上げるなど、本来あってはならない事だ。
「失礼いたしました!」
エメフィーは慌てて頭を下げる。
「構いません、王太子も混乱しているのでしょう」
女王はそう言ってエメフィーの行為を許す。
だが、それでもエメフィーはもう話を聞いてはいなかった。
自分はこれまでずっと女の子だと思っていた。
しかもエメフィーは王女であり、周囲の少女たちは全員自分の配下で、ほぼ何をやっても許されたのだ。
自分がこれまで女の子だと思って、周りの女の子たちにやってきたこと。
それは、女の子同士でもやり過ぎだと思っていたくらいなのに、あれを男がやっていたのなるとどうなるだろう?
胸を揉む、スカートをめくる、パンツを下す、一緒に風呂に入って髪を洗ってもらう、更に風呂で、全裸同士で──。
それ以上は考えただけでも恐ろしい。
だが、それが日常だった。
それが楽しかった。
自分が何をしでかしてきたのか、王族という誰も逆らえない身分で、男という立場で、どんなことをやってきたか。
これから反省しなければならないだろう。
自分がこれまでやってきた、様々な所業を。