夜道の占術師――または徘徊老人と自殺志願者の怪談
私が書いてるファンタジー作品「エルゲネコンの墓狼」と連動しています。この作品の世界は、おそらく現代の日本だと思います。多分、きっと。
けど、完全なるオフザケなので、真面目に受け取らない方がいいのと、これだけ読んでも、ちょっと意味が解らないんじゃないかなーと思います。
あと堂本光一氏にはなんの怨みもありません。むしろ好きです。
その叫び声に目をやると、犬の引綱を引っ張っている男が見えた。
普通なら散歩でもしているのかと思うが、そうではない。その怪しい風体の陰気な輩は、庭先に繋がれた犬を無理に引っ張っているのだ。犬の方は、とても大きく見栄えが良いものだが、激しく怖がっているようで、仔犬のように泣き叫んでいた。私の耳に届いたのは、その哭き声だったのだ。
「これこれ、そこのお前さん。そんなところで何をしているんだい」
「見て分かりませんか? 私は首を吊ろうとしているのです」
そんなもん、見て分かる訳ないだろ。
「首を吊ろうとしている人間が、どうして犬なんて引っ張っているんだい?」
「私は犬と云う、人間の愛玩動物に成り下がった無為な家畜など、眼中にありません。お尻を噛まれたことがあるからです。私が欲しいのは、この引綱です。そこに、見事な枝振りの木があるでしょう? そこの、私の頭よりもちょっとだけ上の方に、太い枝があるやつです」
確かに、立派な犬がいる庭先には、これまた立派な枇杷の木がある。
「しかもその真下には、木製の箱なんてものがあります。御誂え向きではありませんか。しかし遺憾なことに、首を吊るための丈夫な紐がない」
確かに、それは木製の箱だけどね、ちゃんと犬小屋って云う名称があるんだから、それを使っておやりなさいよ。
「そこに転がっているホースじゃ駄目なのかい?」
「私は荒縄やナイロンなんて安っぽいもので死にたくありませんから、高そうな皮製の紐が欲しいのです。そこで、これです」
何が「そこで、これ」なのか、皆目、理解できない。なんだか、頭のおかしいことを言う人だね。今にも死のうってのに、いやに饒舌だ。
「なんで吊ろうなんて、浅はかなことを考えるんだい。きっと、親御さんも悲しんでおられるよ」
「今しがた、私はそこの通りを歩いていたのですが」
無視かい。
「こんな夜更けにかい?」
「時間なんてどうでもいいでしょう。あなたに、なんの関係があるのですか? 大体、こんなところで、意味もなく惚けっとしているあなたに言われたくなどありません。徘徊老人ですか? ポリスマン呼びますよ」
まぁ、あたしゃ確かに年寄りだし? 怪しい風体をしていることも認めますよ。だけどね、流石に徘徊老人はないんじゃないかね。
「ええ、そうです。ポリスマンなら今しがた、そこの道を対になって二足歩行してました」
何が「ええ、そうです」なのか理解できない。それに大抵の場合、あの人達はツーマンセルだと思うよ。だけどね、今はそんなこと、別にどうだっていいじゃないの。
「勝手に話を進めるのは、よしなさい。あなたは一体、何と喋っているんだい? 物事にはね、順序とか順番なんてものがあるんだからね。それはとても大切なことなんだよ」
「そこで私、税金を貪り食うことを生業にしている賤陋なる治安維持機構の下僕めらに、男に間違われたんです。いくら道が暗かったからって、あまりにも非道な行いだとは思いませんか?」
この男、女だったのか……。
「だからね、他人の言葉に少しは耳を傾けなさいって。あたしも、今までの人生、色んな人を見て来たけど、あんたみたいなのは初めてだよ。世の中は広くて、嫌になる」
そのおと……女は、あたしのその言葉を受けて、満面の笑みを浮かべた。いきなりどうしたというのか。気味が悪い。しかも笑みだというのに、その全体的に陰気な様が晴れることなんて全くなく、更に色濃くしていた。この女、人間の目には見えない、何かを出してるね。
女は「そうでしょう。そうでしょう」と、満足気に二回言った後、一気に引綱を引き千切って、到頭、それを手中に収めた。
「だから、犬めの引綱が必要になるのです」
哀れ、犬。おそらくは柴犬。彼か彼女か知らないが、犬小屋にかかっている板を見るに、コターという名の――なんだこの名前は――犬は、ガクガク震えて失禁し、犬小屋の奥に逃げ入って行った。
「これで、私は現世とお別れです。さようなら、俗世。全て、あの若い眼鏡のポリスメーンが悪いのです。好みの顔だったのに。堂[作者の意図により一部の文字を伏せます]一に似てたョ」
知らないよ、そんなこと……。
そんな奇っ怪な言動の女だったが、どうもその決意は本物らしく、今に首を吊っても不思議ではない状況だった。ポリスメーンを呼ぼうか。しかし、それをすると、余計に彼女は意固地になってしまうような気もしてくる。そのポリスメーンから、男に間違われたのだ。
ここは一つ、あたしが阻止しないといけないのかもしれない。このままここを去ると、この女、夢枕に立ちそうだし。
「嫌なことを安易に忘れようとしてはなりません。辛いことと向き合わなければ、大成できませんよ。さぁ、この幸福になれる鏡を買いなさい」
「妙ですね……。この鏡、どの角度から見ても気持ち悪い」
女は諭吉を三枚、あたしの手に握らせる。と同時に、鏡を私から引っ手繰ると、不思議そうな顔をしたまま、夜道に消えて行った。
追伸:エルゲネコンの墓狼の次話は、都市伝説の日の午前9時になります。
骨々からのバレンタインカードだよ☆(ゝω・)vキャピ
冗談で「爆ぜろ」とは言う場合はありますけど、最近ガチで言ってる人もいるみたいで、ちょっと引いてます。
あっ、私、チョコ大好きなんで、贈りたいと思っている全国200人くらいの女子高生のみなさんは、どうぞ遠慮せずに。
……一度、本当に「変なもの」渡された経験があるので、マジでチョコにしてください。私以外の人に贈る場合でも本当に。しかもそれが本命だったってんだから洒落にならねー。
「それでも貰えただけ良いだろ……」なんて思う人は、一度あの恐怖を経験してみやがれ!
小5で女の子からプレゼントを貰って「断ったら呪い殺されるかもしれん」なんて普通は思わんでしょう。
あれほどまでに女の子に恐怖を感じたことは、それ以来ないです。