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フェバル~チート能力者ユウの異世界放浪記~  作者: レスト
剣と魔法の町『サークリス』

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間話1「首都に潜む闇」

 同日夜。議会所の応接間。

 首相は、男に踏みにじられていた。

 側で主人が苦痛を味わっているというのに、コクランは無表情で控えている。

 彼はユウを案内していた時とは、別人のように虚ろな目をしていた。

 首相を踏みにじる男は、身長は二メートル近くもあるだろうか。

 天を衝くように逆立った金髪が特徴的だった。歳は三十代ほどに見える。

 岩をも砕きそうな、非常に逞しい身体つきをしていた。

 金髪の男が、コクランに呼びかける。


「例の小僧は、何を寄こした」

「はい。こちらになります」


 首相へ内密に渡るはずだったメモ書きは、コクランによって金髪の男へと手渡された。

 ユウの心を読む能力でも、見抜けなかったのだ。

 それもそのはず。彼が受け取ったときは本心で、首相に渡すつもりだったのであるから。

 金髪の男は、メモ書きに目を通した。


『本音があるなら聞こう。誰が裏にいるのか教えて欲しい』


「ほう――もう感付いてきたか」


 ユウによる魔法の効果で、少しずつメモが消滅していく。

 だがその前に、男はメモを首相の顔に押し付けて、燃やした。

 痛々しい悲鳴を上げる彼の顔を、燃えかすごと無表情で踏みにじる。


「いかんなあ。二ケルブ。こんなへまをするようでは」

「ひうっ……!」


 金髪の男は、ほくそ笑んだ。首相に向けて手をかざす。

 すると突然、首相は自分で自分の首を絞め始めたではないか。

 何かを喋ろうとするが、自分の手が喉を押さえつけるせいで、声が出て来ない。

 首相は目を血走らせ、必死に足をばたばたさせていた。酸素を求めて苦しみもがいている。

 それを金髪の男は、愉快な顔で見下ろしていた。

 いよいよ生を渇望する手足の動きが鈍ったところで、金髪の男は手を緩める。

 ようやくのことで死の苦しみから解放された首相は、息も絶え絶えになって、ぐったりと地に身を投げ出した。


「私を、殺さないのか……?」


 死ぬほどの痛みと屈辱を受けても、首相はまだ一国を預かる身としての矜持を捨ててはいなかった。

 金髪の男は、しかしそんな矜持など一切意にかけぬと嘲笑う。


「フン。生かす価値のあるうちは、生かしておいてやるさ。賢明な道具は、嫌いではない」

「ぐ……!」


 歯ぎしりする首相を見下しながら、金髪の男はパチンと指を鳴らす。

 間もなく現れたのは、二人の男だった。

 やや腰の曲がった背の低い男と、筋骨逞しい男。


「エグリフ。バッサニア。引き続き調査を続けろ。例の魔法を探し出せ」

「「はっ」」


 エグリフとバッサニア。

 二人ともそれぞれ国家に忠誠を尽くす親衛魔法隊長と親衛剣士隊長として名高い者であったが、既に正気を失っていた。

 首相の顔が、みるみるうちに絶望に歪んでいく。


「そんな……お前たちまで……!」


 首都ダンダーマに、もはや首相の味方となる人間は誰一人としていなかった。

 軍人一人一人に至るまでが、彼の命じるままに反逆の徒と化すであろう。

 首相だけが、未だに正気を保っていた。しかしそれも彼の戯れに過ぎないのである。


「ところで。あのユウという者は、いかがいたしましょうか」


 バッサニアが虚ろな声で進言する。

 金髪の男は、鼻を鳴らした。


「しばらく泳がせておけ。案外素敵なお土産を持って帰ってきてくれるかもしれんぞ」

「承知」


 二人が虚ろな足取りで退出する。

 人間味が感じられない、まるで操り人形のようであった。


「く、くそっ! 貴様、こんな真似をして許されると思うのか!?」

「許すだと?」


 金髪の男は笑ったまま、首相の腕を容赦なく踏み抜いた。

 骨の折れる音が、静かな薄暗い部屋に響く。


「うぎゃああああああーーっ!」

「お前たちなど、すべては戯れに過ぎない。そしてオレが、盤上の神だ。神に許しが――要ると思うか?」


 嘲りながら、もう一方の腕も踏み砕く。

 再び上がる汚い悲鳴を心地良い音楽の代わりにでもするかのように、男は愉しげだった。


「なぜ、なぜだっ! なぜ貴様は、この国を利用するのだ……!?」

「たとえできるからとして、盤を簡単に引っくり返しては愉しみが少ない。ただそれだけのこと」


 金髪の男はひどく冷めた目で、至極当然のように言い放った。

 つまりこの男は、国民の命など何とも思っていない。

 気分次第で一切を引っくり返しても構わないと、そう言っているのだ。

 首相は絶望のあまり、何も言い返すことができなかった。

 気が抜けたのか、そのまま意識を失ってしまう。

 無様な格好でくたばる首相を、もう興味もなさそうに一瞥した金髪の男は。

 応接間の窓際まで歩き、外の景色を見つめた。

 その視線の先――遥か彼方に、サークリスがある。


「小僧。貴様がもし本物なら――久々に面白くなりそうだ」


 男は静かに嗤う。

 その目は氷のように冷たく。そして瞳に宿す意志は、それにも増して冷酷で残忍だった。

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