怪しいガールズトーク
「はぁ……。今日も明智くん素敵……」
「はぁ……。今日もナベがキモい……」
「ちょいちょーい! 酷いよ宇野っち」
「酷くない。事実を言ったまで」
「でも、そんなSな君が、好・き・だ・よ」
「はぁ……マジでキモい。なんでこんなのと友達やってるんだろう」
昼休み。
周囲を拒絶するように窓際一番後ろの席に座って読書する、愛しの明智くんをうっとりと眺める。
ああ……なんとお美しい……。眼福じゃ。
神様、今日もありがとう。
お母さんが寝坊してお弁当が白飯に梅干し一個だけど、明智くんのおかげでおかずいらずです。
白飯を頬張り、明智くんをチラリ。
うむ、美味でございます~。ただの白飯を高級弁当に変えるとは、恐るべし、明智くんのスペック。
頬張ってはチラリを繰り返す私をマイフレンド・宇野っちは珍獣を見る視線(冷ややか)を向けてきます。
それは決して友人に対して向けるものではないのですが、むしろありがとうございますとお礼が言いたい。
その冷え冷えした視線が突き刺さるたび、ゾクゾクっとしたものが身体中を走る。
もっと、もっと、その眼差しをおくれ~。
「期待すんな、このドMが!」
「あうっ……あ、ありがとうごぜーますだぁ」
宇野っちはボーイッシュでさっぱりした性格で言葉も容赦ない。
その心底嫌そうな顔もたまりませぬぞ。
「はぁ……もう友達やめていい?」
そうは言いつつ、離れていかないこのマイフレンドが大好きです。キャッ。
「もうさー、さっさと告っちゃえば?」
「なんでなんで?」
「キッパリとフラれてくれたら、あんたのそのキモい行動に付き合わなくて済むから」
「あうっ……酷過ぎるけどむしろ興奮してきた」
「……もう黙って食え」
「あい」
宇野っちのお弁当のおかずをチラ見しつつ残りの白飯を平らげ、再び明智くんを見てうっとり。
そんな私を見る宇野っちは呆れ顔だ。
「あんたいい加減飽きない?」
「飽きない。24時間365日見つめていたい」
できることなら『明智密着24時』をしたいぐらいに。
「さっきの話に戻すけど、マジで告らないの?」
「う~ん」
もちろん告白しようと思ったことは何度もある。
だけど、だけど……勇気が出ないのだ。
私なんぞが明智くんに話しかけるなど、恐れ多い。
農民が将軍様に直訴するのと同じぐらい、恐れ多いのだ。
そう言うと納得してくれた。
「まぁあれだけバッサリフラれてるのを見ると、躊躇するのもわかるけどね。そういえば隣のクラスの相田も駄目だったって」
「うん。『あんたみたいなヒロイン気取り、虫唾が走るよね』って言ってた」
相田さんってか弱い系だったな。男が守りたくなるようなさ。
「三年のバスケ部の部長とか、すごかったらしいね」
「うん。『熱意が暑苦しい。火薬担いで導火線に火でもつけた? 消火剤ぶっかけていい?』だって」
あの人、恋も部活も熱血って感じ。青春してるね~。
「あとは四組の佐藤とか」
「あーあのギャルギャルしい人ね。確か『今日は仮装パーティーでもあるの? 目に五月蠅いよね、存在が』だったかな」
「……あんた、ストーカーでもしてるわけ?」
なんと! 聞き捨てならない発言!
「酷いよ、宇野っち! 恋する乙女をストーカー呼ばわりなんて。たまたま明智くんが呼び出されるのを見たから、なんとなーく見に行っただけだもん」
「嘘くさい」
くすん。酷い。
「あいつのすごいところは女だけじゃなく男も虜にしてるってところだよね。二年の野球部のエースとか三年の柔道部の主将とか」
「明智くん、女子には言葉だけだけど男子には容赦ないからな~。『臭い』って言ってホースから直接水ぶっかけたりとか、肩掴まれたのが嫌だったから巨体ぶん投げて足蹴にするとかね」
つい「いいな~」とか呟いたら、宇野っちが引いた。ドン引いた。
「いやいや、引かないで~!」
「ごめん、引く」
こ、これだけは言っておかなければっ。
「あのね、私は痛いの嫌いだから、そっちのM気質ではないから。あくまで精神的Mだから。羨ましいなって思ったのは、明智くんに触れたことだけだからっ!」
「大声で言うな、恥ずかしい」
でも大事なことだから。勘違いされたくないし。
それより、
「告白かぁ……」
今のようにただ見ているだけでも十分満たされている。
でも明智くんのあのぞくぞくするような鋭い目に、私を映してもらいたいという気持ちもある。だけど……
「明智くんと面と向かって話したら、興奮しすぎておかしくなりそう」
「言えてる。そんであんたの変態さを目の当たりにして引かれて、ガツンとフラれる」
「フラれること前提!? だがしかし、それもものすごく興奮する」
明智くん、どんな残酷なことを言ってくれるのかな。
あの冷たい視線で、冷たい言葉を……。
「ふぉおおおおおっ!」
聞きたい。私への、私にだけのキツーイお言葉を。
思い立ったが吉日。
「宇野っち、決めたよ。私、明智くんに告白するっ!!」
「なんかそれって、付き合いたいとかそういう意味の告白じゃなくない? 明智語録を聞きたいがための告白だよね?」
「動機がおかしい」とため息交じりに首を振った宇野っちをよそに、私はメラメラ闘志を燃やす。
目の体操して、素敵な彼の冷え冷えしたお姿を目に焼き付けなければ。
耳掃除して、耳の穴かっぽじってしっかりお言葉を聞かなきゃ。
心のアルバムに、余すところなく永久保存しなければ。
今日の放課後、いざ決行っ!!