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モテ男が嫌われた理由

息抜きです。

中身はないです。

軽~く読んでくださいませ。

 ピカピカの(高校)一年生な私は、絶賛恋する乙女であります。

 相手は同じクラスの明智くん。

 茶色のサラサラな髪はフローラルな香りを醸し出していて、女の子みたいにいい匂いがする。

 歩けば何の変哲もない道がキラキラ輝き、あまりの眩しさに目が潰れそう。

 眼鏡の奥の少し鋭い目は、狙った獲物は逃さない獰猛さを兼ね備えている。

 長くて綺麗な指は、ピアノを優雅に弾きこなす。

 細身の割には筋肉質な身体は、女子を軽々お姫さまだっこできそうなほどたくましい。

 少し低い声は聞いた者を悶えさせ、幼児・老婆ですら欲情させる。

 教室の席に座り読書をしている様は、そこにいるだけで芸術作品である。

 憂い顔すら鑑賞に値し、その存在が貴公子もしくは王子である。

 ――――以上が入学した当初の、校内での明智くんのイメージである。

 


 そして二学期が始まった、今現在――――


「えっ、渡辺さんってあの明智のことが好きなの? やめなよ、あんな男」

「ナベちゃん男の趣味変わってるねー。あんな酷いことする人のどこがいいの?」

「まぁ確かに見た目はパーフェクトだからね。でも中身は最悪。遠くから鑑賞する分にはいいけど」


 私が明智くんを好きだとわかると周囲は口々に彼の悪口を言い、私に考え直せと忠告してくる始末。

 だが言わせてもらいたい。私はすべて承知の上で彼が好きなのだから放っておいてくれ、と。

 そして過度な王子的期待感を彼に押し付けておきながら、事実が違うとバッシングするほうがよっぽど酷いではないかとも思う。わたしに忠告してきた全員が例外なく彼に憧れていた人物だった。


 私の明智くんのイメージは、他の人たちとは全く違っていた。

 サラサラの髪の毛は、油分を嫌う潔癖さを感じる。

 歩くだけで周囲に軽い威圧感を与える。

 眼鏡の奥の少し鋭い目は、視線を合わせたものを恐怖に陥れる冷酷さを持っている。

 長くて綺麗な指で、他人が触った部分(肩とか)を嫌そうに掃いそう。

 細身の割に筋肉質の身体は、いざというときに他者を力づくで排除するためのものである。

 低い声で恫喝、毒吐き。

 教室の席に座り読書をしている様は、周囲を拒絶するようなオーラを感じる。

 憂い顔は本当に心底嫌なんだろうなぁって思っているときに多い気がする。

 こんなマイナスイメージしかない彼を、私は好きなのである。

 だから一緒にしないでほしい。マジで。



 さて、入学時には学校一のモテ男だったのに、なぜここまで彼の評価が地に落ちたかをご説明しましょう。

 遡ること入学式。

 明智くんが校門をくぐった途端どよめきと悲鳴が起き、近隣の住民が「何事だ」と警察に通報しようとして電話に手を伸ばしたとかいないとか。

 それほど彼の第一印象は最強だった。


 サラサラで栗色の髪、女の子のようなきめ細かい肌、すっと伸びた鼻筋。

 しかしそれに似合わぬ鋭い眼光だがとても綺麗で、視線を合わせた人間を硬直させる。

 ほとんどの人間を見惚れさせ、一部の人間に畏怖を与える。まるでメデューサのように(彼は男だが)。

 成長期真っ只中らしい身体は女の子でも通用しそうではあるが、何かスポーツでもしていたのだろうか、服の上からでもほどほどの筋肉が窺い知れる。

 そんな外面からは想像できない声は艶めかしく、想像妊娠した人がいたとかいないとか。


 それからすぐに「あの新入生は何者だ」と噂が校内を駆け巡る。

 ファンクラブが設立され、彼と同じクラスになれた人間は一生の運を使い果たしたとさえ言われた。

 入学当初、彼は誰もが認めるイケメン王子であった。


 そんな彼は夏休み前までのわずか四か月弱の間に「イケメン王子」から「観賞用イケメン(ただし半径三メートル以内に近寄るべからず)」に変貌した。


 事の発端は入学して三日目の朝だった。

 彼の下駄箱には数多のラブレターがギュウギュウに詰め込まれていた。

 それに直面した彼は無表情な顔が一気に不機嫌となり、その中の一枚を取り出して封を切る。

 無言でサッと目を通したかと思ったらボソッと呟いた。


「字が汚い。誤字脱字あり。こんな短い文面でありえない。読む価値なし」


 それからすべての手紙を近くのゴミ箱に突っ込み、何事もなかったかのように教室へ向かった。

 彼が去った後の昇降口は騒然となった。

 どうやら彼が読んだラブレターの作者はその場面をバッチリ見ていたらしく、その場に崩れ落ちて号泣。

 連帯責任で読まれることなく捨てられた手紙の差出人たちは怒り顔で泣き崩れる少女に詰め寄る。

 まさに修羅場である。

 私が彼に恋をしたのは、このときである。



 それから数日後。

 手紙は捨てられる可能性があると知った恋する猛獣女子は、直接告白するように決めたそうだ。


「明智くん、好きです。私と付き合ってください!」


 彼の目の前には校内一の美少女と名高い、二年女子。

 メイクバッチリ、髪型バッチリ、服装バッチリ。ふわっと香るバラの匂い。

 潤み目上目使いで彼を見つめる美少女は、断られるとは微塵も思ってもいないのだろう。

 周囲に野次馬がいるのもお構いなしに告白をした。

 誰もが、さすがの彼でもかの美少女を振るようなことはないのだろうと思っていた。

 しかし、彼はある意味期待を裏切らない。


「何であんたみたいな化粧お化けと付き合わなきゃいけないわけ?」


 「化粧お化け」という言葉に美少女の顔が凍りつく。

 それを気にする素振りもなく彼は爆弾を投下し続ける。


「それにそのくっさい香水で空気が汚れる。存在自体が不快。同じ空間にいたくない」


 容赦ない言葉の羅列に美少女の顔が般若と化す。それを見て、彼はせせら笑う。


「ああ、化けの皮が剥がれたな。いくら外面整えたって性格の悪さ滲み出てるから。もう二度と話しかけないでくれる? 心底不愉快」


 絶対零度の冷たさで場を凍らせた彼は、そのまま何事もなかったかのように去って行った。

 校内一の美少女との一件は、瞬時に校内を駆け巡った。

 かの美少女が駄目なら自分など……と諦める女子、美少女が駄目でも自分なら……と奮い立つ女子、もしや男色なのかと密かに心躍らせる男子――――その反応は様々。

 それからも明智くんにアプローチする勇者は後を絶たなかったが、彼は魔王が如くすべての女子(時に男子)を絶対零度の冷酷さで瞬殺し、倒していった。

 その振り方があまりにも酷く、彼の評判は日に日に地へ落ちていった。

 しかし私の恋心は周囲の反応と反比例に、日に日に熱く激しく滾っていった。




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