発見したもの。
ここから内藤実咲ちゃんのルート(笑)へ。
実穂ちゃんになっていたら、温かい目でスルーするか
こそっと教えてくださると嬉しいです……。
新しいクラスにも慣れ(そもそも大して変化がない)、少しだけペースの速くなった授業にうんざりしていたある日。
俺は壁にぶち当たる。
やばい、宿題忘れた……。
校門に立ったときに、不意に思い出せたのは不幸中の幸いだ。
提出期限は、確か明日。最悪なことに殆ど手をつけていない。
いつもなら学校でやろう、と思うところなのだが、今回はそうはいかない。
その宿題は、量が多い上に朝のホームルームには回収されてしまうのだ。
それじゃあ、間に合うわけがない。
今は3年、受験生だ。こんなところで単位を落としている場合では、多分ないはずだ。
取りに行くか……。
そう決意し、小さくため息をついて俺は踵を返した。
あー、めんどくさい。
幸い、まだ昇降口の鍵はしまっておらず、簡単に入ることができた。
教室は……、と思い手をかけてみたが、案の定鍵がかけられている。
面倒くさいながら、職員室に出向こうと、階段を下りようとしたとき、不意に声がかけられた。
「はーちゃん……じゃん?」
「?」
振り向くと階段の上のほうから不思議そうな顔で俺を見下ろしている女子がいた。
――――実咲だ。
でも、なんでココにいるんだ? 今日は部活はないはずだ。 それに委員会もない。
……忘れ物か? 俺と同じで。
そんな考えが思い浮かんで少し笑ってしまう。
……にしても、コイツが忘れ物を取りにくるなんて珍しい。いつもだったら「メンドイ」の一言で終わらしてしまいそうなのに。
俺と同じく、“省エネ”がモットーらしい実咲は、はたから見れば“省エネ”を超えて“OFF”のようで……まぁ、つまりはかなりの面倒くさがり屋だ。
「何してんの?」
「それはこっちのセリフじゃないか? てか“はーちゃん”って……」
「可愛いから、いいの」
「あー……そう」
無邪気とは言いがたい、毒のある笑顔で言い返され、ため息が漏れる。慎重の因縁がここにまで発揮されてるのか?
まぁいいや、シュガーじゃないならなんだって。
「で? どうしたの?」
「宿題、取りに」
「あー、提出が明日の?」
「……そう」
忘れ物を取りに来た、と知って愉快そうに笑う実咲を横目で睨んでいると、実咲が階段から降りてきて、目の前に来た。
「?」
ポケットに手を突っ込んだと思ったら、出したときには教室の鍵が握られていた。
あれか? ぼう猫型うんぬんの未来のロボットか? コイツ。
呆然と見つめていると、俺の前に鍵を差し出して実咲は言った。
「ほい」
「ほいって……なんで持ってんだよ?」
「私もねー、忘れ物したんよ」
「んだよ」
教室に入るとすぐに俺は机の中に手を入れた。ノートを忘れるなら、ここしかない。
……あった。引っかかってやがる。
鞄の中にノートをしまいながら実咲のほうを見ると、彼女も机に手を突っ込んでなにやら取り出している。
一瞬、見えたそれは……ポーチ?
「何忘れたの?」
「救急ポーチ? 女子力高いでしょー」
「いや忘れてる時点でダメだろ……つか、別に明日でも良くないか?」
「……まっ、そだね」
俺の言葉を聞いて、いつもの笑顔を苦笑いに変えた実咲はさっさと鞄にポーチをしまう。
本当に、変なやつ。
呆れながら実咲を見ていると、目にかかった前髪を少しずらしていた。
その時、少し下がった制服の隙間から、普通ならないはずの物が見えた。
――――左手首の、赤色の線。
すぐに実咲は手を下ろしてしまったから、よく分からないが、あれは多分……。
「葉月?」
「!? なに?」
「教室、閉めるよ?」
気づけば実咲は既に外に出ており、鍵を指にかけて回しながら俺を見ていた。
残念だが、今は右手だ。アレを確認することは出来ない。
急ぎ足で教室を出て、職員室に鍵を返しに行った実咲を少し待つ。もう一度、確認したかったのもあるが、流石に置いていくのはどうかと思ったのだ。
あいにく、俺と実咲の家は真反対なので一緒に帰る、なんてことは出来ない。なので校門前まで他愛のない会話をし、そのまま別れる。
残念ながら、そのときも彼女の左手を見る機会はなかった。まぁ、そう何度も前髪を直すわけじゃない。
そういえば、あいつは階段の上のほうから俺を見下ろしたわけなんだけど……何故、上にいたのだろうか。
だって、昇降口は一階。鍵を借りる職員室は二階。そして――――教室は三階じゃないか。