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俺のトモダチ事情。  作者: 日向栞
【日常、春。】
5/19

後輩の裏⇔表。

 笑い声が聞える、後ろからも横からも。目の前以外全ての方向から。


「…………」

「お願いします、先輩!!」


 また、笑い声が大きくなる。


 とりあえず土下座している後輩を引っ張り上げ、爆笑するクラスメイトを遮るようにドアを閉める。急に起こされた後輩はキョトンと俺を見上げているが、とりあえず無視。

 そのまま引きずるようにして階段のほうへ歩き出す。ちょうどすれ違った先生が驚いた目で俺達を見たが、会釈する余裕は無かった。


「ちょっ、待ってください先ぱ」

「お前なぁ」

「はい、なんでしょう」


 腕をつかまれ引きずられ、言葉を遮られても尚、後輩……一年生らしい無邪気な笑顔を向けてくるのは、さっきの会話で分かったかもしれないがバスケットボール部所属の、津田吉宗(ツダヨシムネ)だ。

 だが、騙されるな。こいつはそんなに可愛らしい奴じゃない。その証拠に――――


「わざと三年フロア(ココ)に来ただろ」

「え、何でですか先輩」

「とぼけるな、吉宗」

「……怖いなぁ……シュガーさんは」

「っ……!!」


 ……見えただろう? こいつの本性。

 先輩に対してあだ名で呼ぶ……ていうか俺のトラウマ並みに嫌なあだ名だと知っていて(・・・・・)平気で口にする真っ黒な性根が。

 思わずイラッとしてしまい、腕を掴む手に力が入る。


 すると、無邪気な笑顔から一転、片方だけ口角を上げてシニカルな笑いを作り、俺の手を払うと、吉宗は会談のほうへ歩き出した。


「でも、時間を延ばしてほしいって言いに行きたかったのは本当です」

「じゃ、教えてもらいたいって言うのは?」

「半分は本当です」

「残りは」

「俺はいいんで、他の奴らに教えてやって下さい」

「言うと思った」

「なら聞かないでください」


 この憎たらしい言い草。怒りを通り越して呆れてものが言えなくなるから不思議だ。


 でもまぁ、確かにこいつに教える必要は無い。とにかく、一年生の中でずば抜けて上手いのだ。

 ただタッパが足りない分、ブロックされやすいため、先生の目にはあまり秀でた選手には見えないのだろう。レギュラーにはまだなれないらしい。

 ……二年生の意地もあるのだろう。この間見た練習試合のときの吉宗のガードはイジメじゃないかと思うくらい強固だった。


 注意したほうがいいのかと思ったが「逃げられるもんなら逃げてみやがれー吉宗ー!!」と叫ぶ二年生を見たときに、その必要はなさそうだなー、と思った。存外、楽しそうだったから。仲良いんだよな、本当。

 俺以外には、いい奴だから。


「まぁ? 叫んだり土下座したのは全力で嫌がらせのつもりですが」

「マジで性格悪いよな、お前」

「中学生になった途端、背が伸びた貴方を妬んで子供じみた悪戯をしたくらいで怒るような器の小さい先輩だと思ってませんから、部長のこと」

「ちなみに、それは俺限定なんだよな」

「はい!! 僕が怒らせたいのは、貴方だけですから!!」


 振り向きながら、満面の笑みで笑う姿は、理想と言ってもいいほど可愛らしい後輩そのものだ。……会話の内容を聞かなかったら。

 俺以外にも背が伸びた奴らは沢山いるのに、怒らせたいのは俺だけ。

 保育園の頃からの友達だったというところが、他の奴らとの差なのだろう。……それが、嫌がらせをされる理由になるのかは、深く考えないようにした。


 ――――弟が同じ中学校にいたら、こんな感じかな。


 そう考えて、思わず笑った俺を不思議そうに見ていた吉宗は、不意に思い出したかのように目を見開き、今度こそ背を向けて「では」というと、振り向きもせず走り出した。


「おい、吉宗ー!!?」

「時間延長と一年生の監督の件、よろしくお願いしますー」


 階段に反響する声が止み、取り残された俺は、小さくため息をついた。

 ……何だかんだで、部活熱心だから恨みきれない、タチの悪い奴だ。

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