面倒なこと、その2。
お次は委員会決めなのだが……悪いが省略しよう。
残念ながら特別書きたいこともなく平和に決まってしまった。委員会は成績に影響しないから。委員長になれさえすればいいのだ。争うことはない。
そんなの書いても面白くないだろう。決して面倒になったわけじゃない。
委員会は男女一人ずつだ。
ちなみに種類は……書くのが面倒だから割愛させてもらおう。
結果だけいうと、
俺と菜乃花が放送委員。
実咲と一樹が奉仕委員。
……随分綺麗に分かれたと思う。
何より実咲じゃなくて菜乃花が一緒でよかった。
これで係りと委員会が実咲と一緒になったら笑えない。
……俺とアイツじゃ活動が成り立たない。二人ともやる気がないだろうから。
さて、省略しまくった結果、既に休憩時間だし面倒なことは全て終わってしまったのだが……。
折角だから、このクラスの副担任の話でもしよう。
名前は榊原弘史。担当教科は国語。年齢は確か二十五歳。
俺の第一印象は、とにかく黒い。服からズボン靴にいたっても全て黒。髪も黒いし眼鏡も黒縁。
眼鏡の奥の瞳はいつも眠たそう。だけど、そこが何故か女子はそこが良いらしい。あぁ、モテるのなんの。
そりゃ若いしルックスだって悪くないてか良い。それに男子にだって人気だ。俺も例外ではない。年が近い分、親近感もわくのだろう。
と、まぁ大体こんな感じだ。
……担任より副担のほうが詳しい? いや別に知りたくて知ったわけでは……。
「ねぇっ!! 聞いてるの!?」
「ぅおっ!?」
目の前を凄い勢いで手が横切り思わず叫ぶ。
俺を見下ろすように睨む目は気強そうに吊り上がっている。それ以外は本当に平均的な容姿の、この少女は――――姫島菖蒲だ。
補足するなら、さっき学級委員長に決まった奴。そして俺の幼馴染。
……どうせなら、もっと可愛い子が幼馴染だったら良かったと思う。こんな乱暴じゃなくて。
確実にさっき横切った手は俺の顔を狙っていた。一樹もそうだったが、なんで顔を狙うのだろう? 安くないんだぞ、これは。
「ぼんやりしてんじゃないわよ」
「……榊原先生のときはぼんやりしてても『かっこいい~』とかいってるくせに」
「何ソレ。あんた榊原先生と同じ位にいるとでもいいたいわけ? 身の程を知りなさい。てか今の私の真似? 止めてよ似てない気持ち悪い」
……なんて酷い奴だ。なんで少し言っただけでこんなに罵倒が返ってくる?
じゃなくて、これで分かっただろう。俺が榊原先生のことをよく知ってるわけ。
菖蒲が大好きだから何度も聞かされたんだ。てか恋バナなら女子でやってくれよ。なんで俺に話すんだ嫌がらせかよ。
「で、なんのようだよ」
なんて言う勇気はない。仕方ないから本題に戻した。
すると、教室のドアを指しながら、ニヤリと菖蒲が笑った。
……嫌な予感がする。
「後輩サンが、『佐藤先輩はいらっしゃいますでしょうか!!』ですって、待ってるわよ」
俺と違って、今のはとても上手い声まねだと思う。きっと緊張しながらも、頑張っていたのだろう。その後輩は。
……余談だが、嫌な予感は当たるもの、って言うよな。
小さくため息をついて、席を立ち、未だニヤニヤと笑う菖蒲に追い払うように手を振って後輩のところに向かう。
「あ、せ先輩!!」
まだ小さく無邪気な瞳が、俺を見て輝く。
……ものすごく、嫌な予感がした。汗が背中を伝う。おかしいな、暑くないのに。
びしっと音が聞えそうなほど姿勢を正した後輩は、俺の挨拶の声を遮って頭を下げた。
……止めろ、待て、嫌な予感が当たってしま、
「部活動の時間を増やしていただけませんか!! 部長!!!!」
小さい身体から想像できない大きな張りのあって、よく通る声が大音量で響いた。
教室にいた生徒が全員、こちらを向く。他の教室からも「何だ何だ」とざわめきが聞え、野次馬達が顔を出した。
談笑していた一樹でさえ、キョトンとしている。廊下にいた実咲は何故だか楽しそうだ。菜乃花は……座ったままいつも通り微笑んでいた。
「あー……えっと」
場所を変えようか。そう言いたかったのだけれど、ガバッと顔を上げた後輩に気圧され声が出ない。
次の瞬間、バッと屈みこみ、……そう所謂“土下座”をして後輩は更に叫ぶ。
「僕に、いえっ僕達に、バスケットボールを教えて下さい!!」
次の瞬間、教室にいた奴らが大笑いした。
本当に、嫌な予感はあたるものらしい。
さて、目の前の後輩を黙らせ、立ち上がらせる方法を考えないと。