新たなナゾ。
「じゃーねー」
校門前に来たとき、実咲は俺を見て言った。右手で手を振りながら、何事も無かったように。
そして自然に背を向ける。そりゃ俺と反対方向に行くんだから、当然だ。
だから、俺はその背中に言う。
「なんかあったら、電話しろ。……なんかあったら、な。」
実咲の足が止まる。振り返らず、ただ止まる。
何も喋らない。僅かにさえ、揺れもしない。呼吸する音さえ聞えない。
もう一度、何か声をかけようとした瞬間、実咲が振り向いた。
「イラズラでもかけたるわー!! ばぁか、ヘタレのくせにーー」
ニッ、と笑って、駆け出す。
俺は何か言おうと、開きかけた口を閉じた。その代わりに、笑う。
ガキか。コイツは。バカって……。
駆けた実咲は、すぐにある曲がり角も曲がりきれずに、ふらふらと減速し、後ろからでも分かるくらいに、膝に手をつき、露骨に疲れていた。……そういえば、体力なかったな。それに荷物もあるし。
そんな微笑ましい光景に、頬が緩みそうになった瞬間――――目を見張った。
あの、ガキくさい実咲が、どこか諦めたような、泣きそうな、顔で腕を眺めながら笑っていたから。
あんまりにも、俺の中では異様な光景に、目が離せないでいると、すぐに元の顔に戻り、そのまま実咲は真っ直ぐに前を向き、曲がり角を曲がって行った。
なんなんだよ、アイツ……。
一瞬の怒涛な精神的疲労に、力なく笑うと、今度は大きなため息が出た。人って実はそうそうため息なんてつかないと聞いたけれど、最近はやけに多い気がする。
わけわかんねぇ、本当に、マジで。
それでも、実咲の知られざる一面? を見れたのは、……なんだろう、少し、距離が近づいた気がして嬉しかった。
たとえ、その距離が、いい意味でなかったとしても。