新学期、初めの初め。
桜舞い散る春――――では残念なことにない、四月。前日の大雨のせいで散った桜をバックに、俺は中学三年生になった。
まぁ、たいした心境の変化もないし、どうでもいいことなのだけれど、周りにいる新一年生の笑顔や緊張した面持ち、進級して二年生になった後輩の誇らしげな顔を見るのは、少し楽しいのかもしれない。
そんなことを思いながら昇降口に張り出された紙を見る。
人が多いから時間がかかるのを覚悟していたかが、すぐに名前を見つけることができた。
3-1 佐藤葉月
別にクラスなんか、どうだっていい……と言いたいところだが、今回は違う。
一組、というのは何故か問題児が必ずいるクラスで、その問題児を制御す出来る先生が担任なる……が、そんな人はそうそういないから、同じ人になる。
ちなみに、一年、二年、と一組を担当していた先生は那賀川だった。
そして、俺は去年も……一組だった。
先生が同じだと、尚更変わった気がしないな。
「また一組か……」
別に物凄く嫌なわけではないが、クラスにいるであろう問題児の顔を思い浮かべ、ため息が漏れる。
あれは少し厄介だ。関わらなければいい、と言い切るには距離が近すぎる。
そもそも俺は、クラス替えや担任替えを、どうでもいいなんて思っていない。
誰がいるのか、誰と一年過ごすのか、ましてや今年は三年生。修学旅行や最後の体育祭、文化祭の盛り上がり度も、クラスメイトと担任にかかっている。
そんな教室に期待や不安が入り混じった心境で行くのが――――ではなくて、そんな心境の友達を見るのが、楽しみだった。
俺は、まぁ……うん。周りほど気にはしない。どうでもいいわけじゃないけど。
学年が上がったせいで増えた階段を黙々と上り、[3-1]と書かれた教室に入って、名前の張られた席に座る。
周りを把握しようと首を動かした瞬間、机の上に手が勢いよく置かれた。
「なぁっ!!」
「っ、ぅお!?」
「同じクラスになんの初めてだろ? 話したことはあるけどさ。改めまして、俺は近藤一樹って言うんだ。よろしくな!!」
「あ、あぁ。俺は佐藤葉月だ……よろしく」
勢いよく、しかも満面の笑みで自己紹介をされ、俺は少したじろいだ。
ていうか、コイツ眼鏡ギリギリのところに手を振り下ろしやがった……。壊す気なのか?
ずれた眼鏡を直しながら、未だに笑顔なそいつを改めて見る。
染めたのかと思うほど、明るい茶髪に、まだ冬服の奴が殆どで、入学式&進級式なのにもう半袖を着ている。流石にまだ寒いだろ。
こんなやつ、中学生……ましてや三年生でもいるんだな。そんなの小学生までだろ。
そんなことを考えつつ、苦笑いをしていると、後ろから控えめに背中を突かれた。
「……葉月君、葉月君」
「ん?」
「同じ、クラスですね……よろしくお願いします」
「あぁ、菜乃花」
振り向くと斜め後ろに、こげ茶の髪を二つ結びにした、小学校からの友人――――斎藤菜乃花がいた。
色白で華奢な身体に、どこかのお嬢様を思わせる穏やかな微笑みを浮かべる菜乃花。噂によれば男子にモテるらしい。
そんな彼女の名前を呟くと、座ったまま深々と頭を下げられた。
……相変わらず、菜乃花は礼儀正しいようだ。
しばらく他愛のない会話を続けていると、ガラガラッとドアが開けられ、先生が入ってきた。
――――那賀川だった。
がっしりとした体系でいつもジャージ姿。少し背が低いけれど、鋭い目は威圧感抜群だ。
「今から集会だぞー、全員集まれー」
その声に、小さくため息をつくと、急に重くなった腰を上げ、イスをしまう。
さて、長い長い地獄のスタートだ。
……なんてったってウチの校長の話は長いことで有名だから。
そのあと、校長が代わったと聞いて、三年の全員が廊下で喜び、そのせいで那賀川に集会の倍の時間説教をされたのは、また別の話。