表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣の民と華の少女  作者: ナナヤ
第一章 ティル・ナ・ノーグ編
9/21

第九話 反撃

更新が遅くなって申し訳ないです……。

定期試験が近くてまともに書けないのが理由です。

……十七教科はマジ鬱です。

誤字脱字があるかもしれませんが、読んで頂けると幸いです。


真っ黒だった空が瑠璃色に変わり始めた頃、シュク砦内部は静かだが慌ただしく人が行き来していた。

「第六小隊から第十小隊までの第二中隊は待機、砦の防衛だ!!」

「馬、馬が足りないぞ!!」

「矢の補給はどうなっている!?」

「開門の準備は!?」

色々な言葉が飛び交っている砦はまるで市場で競りをしている商人にも見える。

レオは独り自分の装備を確かめながらその光景を懐かしそうに見ていた。

「レオ」

凛とした声にレオは振り返る。

「ウィーナどうした?」

「少しいいでしょうか?」

「別に大丈夫だけど」

返事をしてレオにウィーナは付いて来て欲しいと目配せする。

レオは黙って頷き、後に続いた。

「で、話は?」

人の居ない廊下で立ち止まったウィーナに話しかける。

「……レオに頼みがあります」

「頼み?」

ウィーナが申し訳無さそうな表情で言った言葉をレオはそのまま聞き返した。

「レオには一足早く砦を出て欲しいのです」

その言葉だけでレオはウィーナが言おうとしている事が理解出来た。

同時にウィーナが不安と悲しみを織り交ぜた顔をしている意味が分かり、レオは暖かな気持ちが心に広がる。

「勿論、最初からそのつもりだよ」

「……レオ」

「ウィーナは指揮官だ。利用できるモノは最大限使う義務と責任がある」

「すみません。でも、私はっ!!」

そこまで言って悔しそうにウィーナは言葉を止めた。

「ウィーナは正しい」

「でもっ、私はレオに死ねと言っているのですよ!!」

ウィーナは苛立ったように大きな声を出す。

レオはそれを首を横に振って否定する。

「俺は死なない」

「根拠がありません!!」

ウィーナはレオの言葉を真っ向から否定した。

それは当たり前だろう。いきなり死なないと宣言されても何の根拠も無く信じれる訳ない。

ウィーナの台詞を予測していたレオは真面目な顔で話を続ける。

「いや、俺は死ねない」

決してふざけている訳ではなく、真剣にそして真摯に言葉を紡ぐ。

「誓いがあるから俺はどんな事をしても生き延びる」

その台詞を聞いたウィーナはこの人はどんな騎士より騎士らしいと感じていた。

何故なら、騎士とは誓いに生きて誓いの為に死ぬという者だからだ。

今の時代、そんな考えを持つ騎士が幾人居ようか。

「わかりました。もう謝る事はしません」

「ウィーナ……」

「しかし、心配はします。死んだら怒りますよ」

「ああ、ありがとう」

礼を述べたのと同時にレオはウィーナに背を向けて門に歩き始めた。

「本当に怒りますからね」

小さな声でそう呟いたウィーナの顔はまるで恋する乙女のように真っ赤になっていた。






レオはウィーナと会話した後すぐに砦を一人出て木などの影に隠れながら敵陣に近付いていった。

敵の数は最初に見た時よりかなり減っているが、自陣の七倍はざっと数えて居る事を確認したレオはまず見張り役の場所を把握しようとする。

──木組みの物見が五か。

横一列に等間隔で並んでいる物見の一つに狙いを付けて音も無く忍び寄る。

「はぁ、なんで俺がこんな事してんだよ?」

「ぼやくな。これが終われば金が貰えんだ」

物見には二人の傭兵が居るらしく話し声が聞こえてくる。

レオは細心の注意をはらって物見に登る。

「ダルいモノはダルい」

だらけている傭兵の後ろへ瞬時に移動する。

「ん?」

気配に気がついた傭兵が振り返るのと同時に補助武器として持ってきたナイフで喉に深く突き刺した。

「──ぁっ!!」

「どうし──」

もう一人が異様な気配にこちらへ近付こうとした瞬間、首と胴体が永遠に離れた。

「……ふぅ」

まずはうまくいってため息を吐き、二本のナイフを取り出して隣の物見に投げつける。

隣の物見までの距離は五十メートルほど離れているが、レオはそれを物ともせずに投擲をした。

──残り三つか。

暗闇でも良く見える視力を持つレオは隣の物見に居た見張りが倒れるのを確認すると物見から飛び降りて走り出す。

次の物見に着いたレオは同じ要領で見張りを殺し、そこからの投擲で同じように隣の物見に居た兵の息の根を止めた。

「あと、一つ」

最後の物見に気配を消して近付き、駆け上がって見張りの兵士を一息で殺した。

後はウィーナが手はず通りに夜明けと共に奇襲すれば相手に大打撃を与えられる。

そのはずだった。

「誰だっ!?」

「──っ!!」

役目が終わって気を抜いたレオは背後から近寄ってきた兵士に気がつかずに接近を許してしまった。

「くそっ!!」

振り向き様にナイフを投げて殺そうとするが。

「ぐぁ!! て、敵襲っ!!」

突然の事で狙いの定まらなかったナイフは相手の左肩に刺さっただけで息の根止めるには到らなかった。

ナイフが刺さったままの相手を慌ててレオは紫竜で斬り捨てたが、時は既に遅く辺りの兵は慌ただしくレオの居る物見に集まって来ていた。

レオは舌打ちをしながら持っている全てのナイフを取り出す。

「やられる訳にはいかないっ!!」

後少しでウィーナ達が来るといってもレオ一人で七百人の兵士達を相手にする事は不可能だ。

ましてや、今レオが居る場所はほぼ平原と呼んでいいほど障害物が少ない。

そんな場所では圧倒的に数的有利な敵の方が勝つに決まっている。

「まずは二人」

レオは両手に持ったナイフを投げて勢いよく物見に走ってきた兵士二人を殺した。

残りのナイフは四本。

「今はまだ使えないか」

呟いたレオは助走を付けて物見から大量の敵がいる大地に飛び降りた。

「シッ!!」

着地点に居た兵士を居合いで首を斬り落として着地し、同時に体を円形に一回転させて近くに居た兵士達を斬った。

レオはそのまま動きを止めずに正面で唖然としている兵士の腹を蹴り飛ばした。

「がはっ」

蹴り飛ばされた兵士は何人かを巻き添えにして五メートルほどで止まった。

兵士は鎧で体を護っていたが、レオの蹴りが当たった部分はくっきりと足の形に陥没していて無事ではない事が分かる。

レオは蹴り飛ばして出来た隙間を縫うように駆けていく。

──マズい、数が多すぎる。

走りながら数人斬り捨てたが、相手の数は一向に減る気配がない。

「うおぉお!!」

「敵は一人だ、殺せっ!!」

雄叫びと共に兵士が数人斬りかかってくる。

それをレオはしゃがんだり体を反らしたりして避け、刀を振るう。

熟し過ぎたトマトを地面に叩きつけるような音と短い絶叫が虚しくこだました。

「ちっ、はっ!!」

四方から斬りつけてくる敵に避けては斬って、斬っては避けてを繰り返して少しずつ数を削っていく。

──重騎士は機動力の問題で居ない。弓兵は味方が多すぎて矢を放てないか。

戦場を分析しながらレオは時を待つ。

「ひぃぃ!!」

「化け物だっ!!」

レオの嵐のような強さに数人の傭兵らしき人物達が剣を捨てて逃げていく。

「貴様等、逃げるのではない!!」

その様子を見ていた騎士が慌てて制止させようとする。

「アイツか」

命令していた騎士を戦いながら確認する。

その騎士は明らかにレオと戦っている騎士達より頑丈そうな鎧を着ていた。

「邪魔だ。どけぇっ!!」

周りにいた兵士を一瞬で切り刻み、残していたナイフを命令していた騎士の顔面に投げつけた。

「あがぁ……」

ナイフが突き刺さった瞬間、何とも間抜けな声を出して騎士は絶命した。

「だ、大隊長!?」

周りに居る兵士達の顔色が真っ青に変わっていく。

それを見てレオは自分が考えた事が正しかったと悟る。

レオが考えた事とは、正規の兵士ではない傭兵を部隊に入れている時点でそれをまとめる隊長クラスの騎士が必要である。

もし、その騎士が何らかの理由で指揮が出来なくなる。そうすると、まとめ役の居なくなった傭兵と騎士達はどうなるか。

「やってられっか!!」

「おい、貴様等」

「騎士だからって上から見てんじゃねぇ」

「とんずらするぞ」

「ま、待てっ!!」

指揮をする人物が居なくなった彼らは烏合の衆と化していた。

が、この作戦はほとんど意味がない事を知っていた。

理由は殺した騎士が指揮官ではないからだ。

「この規模だと大隊長が七人、それをまとめる連隊長が一人か?」

大隊長とは百人からなる大隊を指揮する役職で、連隊長とは千人からなる連隊を指揮する者だ。

ちなみに、連隊の上には三千以上から旅団がある。騎士団はこの旅団が二つ以上ある組織の事を言う。

ウィーナ達が少ないのはシュク砦に居る理由が訓練で、騎士団のほとんどがグネルヴァに居るからだ。

レオは混乱して邪魔な兵士達をなるべく殺さないように蹴りや投げ、峰打ちで叩きのめしていく。

「っ!! そこまでするか!?」

十数人を気絶させたレオは逃げ惑う兵士達の隙間から見えた光景に絶句する。

そこには弓矢を構えた弓兵が五十人ほど列を作って並んでいた。

「放てっ!!」

隊列の横にいる小太りの騎士が命令するのと同時に矢を引っ張っていた手を離す弓兵達。

それを見てレオは焦りと怒りを覚え、とっさに叫んだ。

「仲間を見捨てるのか外道!!」

レオの周りにはさっきまで戦っていた騎士や傭兵がまだ沢山居た。

それを無視して矢を放つ事はレオにとって腸が煮えくり返るような気分になる。

しかし、レオ個人の力ではどうする事も出来ない。

レオは怒りを理性で抑えて、飛んでくる矢に集中する。

「ハッ!!」

矢が降り注ぐ瞬間、レオは紫竜で空中を薙ぎ、矢を斬り落とした。

たが、それだけでは全てを防ぐ事は出来ない。

レオは頭と胸、腹以外の防御を捨てて避けたり紫竜で防いだり腕で守ったりしてやり過ごした。

「ぃっつ、今の内に」

左腕に二本、右太腿に一本、右肩に一本、それぞれの場所に刺さった矢で激痛が走る体を無理矢理動かしてレオは三秒ほどで小太りの騎士の居る所に移動する。

「ひっ──!!」

冷めた目で紫竜を振るい、相手の膝を斬りつける。

「いだいぃぃい!!」

不快になる声に眉をひそめたレオは無言で騎士の肩に紫竜を突き刺し、手首を捻る。

「アァガァァァアア!!」

戦場で敵をなぶる行動は時間を無駄にしているとしかいえない。

しかし、レオは一連の動きを一秒ほどで行い、近く居た弓兵はその間動く事も出来なかった。

最後にレオは騎士の腹を全力で蹴り上げた。

「ぶひゅ」

気絶した騎士を横目で確認したレオは同時にそれほど遠くない距離から地鳴りのような足音が聞こえてくる。

「やっとか……」

日が東の空に昇り出して援軍が訪れた事に安堵したレオ。

だが、まだやる事が残っているレオはすぐに気合いを入れ直して紫竜を構える。

「敵襲、敵襲!!」

「弓兵構え!!」

「隊列を組めっ!!」

レオが起こした騒動により浮き足立っている敵はまともに機能していない。

逃亡と命令系統の混乱によって戦況を維持できるとは思わないレオは更に追撃をかける為に痛む体を酷使して弓兵の隊列に突っ込んだ。

それと同時にウィーナ率いる国王騎士団の第二中隊が前線に居た敵と衝突した。

そこから一時間後、グネルヴァ騎士団の援軍が到着し、ダルタニア騎士団は敗戦を余儀なくされた。

余談だが、矢の刺さったまま砦に帰ったレオはリアとウィーナに怒られるわ泣かれるわで戦よりも大変な思いをしたのであった。








最近バトルしか書いてない気がする。

そんな訳で次回はバトル無しでいきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ