第八話 叫び
遅くなって誠にすいません。
休日の暇つぶしにでも読んで頂けると幸いです。
開戦から幾刻の時間が過ぎたか、辺りは暗くなり砦の外も嵐の前のように静かになっている。
レオは壁に背を預けて座り込んだ。
「今何時だ?」
「二十三時を回った所だと思います」
ウィーナは腰に付けているポーチから干し肉と乾パンを取り出してレオに渡す。
それをレオは受け取って口に運んだ瞬間。
「レオ、ウィーナ。スープ持ってきたわよ」
「リア!?」
「リアーナ様!?」
いきなり現れたリアに驚いて二人は声を荒げた。
その声に驚き、リアは体をビクッと震えさせる。
「二人共驚き過ぎよ。びっくりしたじゃない」
リアはスープを渡して二人のそばに腰かける。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
二人は礼を言ってスープを喉に流し込んだ。
辺りに死体が転がっている状況で食事ができるのは流石としか言いようがない。
「…………」
「リアが悪い訳じゃない」
リアが無言で死体の山に目を向けて悲しい表情をしているのを見てレオは優しく声をかける。
「そうです。リアーナ様が悲嘆する事ではありません」
続けてウィーナが諭すとリアはポロポロと涙を流し始めた。
「この人達だってこの国の国民だわ」
泣きながらも気丈に凛として言う。
「王族として彼らを守る使命が私にはあるのよ」
「……リアーナ様」
「なのに助ける事も出来ず、ただ隠れているだけの自分が悔しい……」
レオは何も言わずに天井を見上げる。
「それに二人にばかり嫌な事を押し付けている自分が情けないっ!!」
悲しみは自分に対する怒りに変わり、リアは大きな声で叫ぶ。
「私に全てを守る力があれば、誰も傷付かないでいい幸せな国を作る力があったのならっ!!」
「作ろう」
聞き手に回っていたレオが唐突に言葉を挟む。
「誰も傷付かないでいい幸せな国を」
まるで自分の願いのようにレオは真摯な声で誓う。
「そうですね。リアーナ様、作りましょう幸せな国を」
「レオ、ウィーナ……」
呆然としているリアにレオは跪く。
「世界がそれを拒んでもリアーナ・サ・ティルナノーグが望むのならば俺は世界とも戦う」
レオが誓った後にウィーナも跪き誓う。
「我が槍はリアーナ様の願いと共に全て守る力となります」
人一人が世界を変える事は出来ない。しかし、一人が二人、三人と変えようと願い働きかける事で世界は変わるかもしれない。
「……ありがとう。二人がそう言ってくれるのなら私も戦うわ」
さっきまで泣いていたのが嘘のようにリアは堂々と宣言する。
「攻勢に出るわよ」
その言葉にウィーナとレオは度肝を抜かれた。
というか、ウィーナは自分が聞き間違いをしたのかと疑っていた。
そんな二人を見て満足そうにしたリアは説明をする。
「今から夜明けまで門を閉じて二人共中でも休んでもらうわよ」
「門の守護は?」
疑問に思った事をレオは口に出した。
「相手には破城槌も無かったから夜明けまでは保つはずよ」
「なるほど」
レオが納得して頷くと次にウィーナが質問をする。
「なぜ、このまま防衛戦に撤しないのですか?」
ウィーナの言っている事は尤もだ。
防衛戦であるならば勝つ事はできなくても負ける事はないからだ。
「相手もそう考えているからよ。その隙をつく事が出来れば被害を少なく相手に大打撃を与えられるわ」
「そうする事が出来れば敵も撤退するという事ですか?」
「そうよ」
リアの言う事は可能性としてあるだけで今一つ決定打が無い。
「もしも、敵が撤退しない場合は?」
その言葉にリアは待ってましたと言うようにニヤケる。
「大丈夫よ。夜明けなんだから」
「そうだな。夜明けだからな」
リアの言っている事を理解したレオは同じように唇を吊り上げた。
「えっ? どういう事ですか?」
一人分からなかったウィーナがオロオロとリアとレオの顔を見比べていた。
「今日から見ると夜明けは明日なのよウィーナ」
「あっ、なるほど。わかりました」
やっと理解したウィーナは頷くが、すぐに険しい表情になる。
「しかし、すぐに来るとは限らないのではありませんか?」
「だからこそ隙をつく明け方なんだろ?」
「そうね。いざという時はすぐに砦に戻るか、グネルヴァ領に逃げればいいわ」
納得したウィーナは早速砦に戻り、命令を出しに行った。
それを横目で見ながらレオはリアに最後の疑問を聞く。
「リア、なんで今頃こんな作戦を?」
レオの質問にリアは複雑な顔をする。
「私が弱いから。自分に味方してくれるみんなに傷付いてほしくないのよ」
すがるようにリアはレオの胸に抱き付く。
「この作戦はうまくいっても誰かが怪我をするわ」
「最善だけど最良ではないか?」
「でも、多くの人間を傷付けないのはこれしかないのよ」
砦で防衛戦をすれば味方は傷付く事無く勝つ事ができる。
しかし、相手は違う。良くて全滅、悪くて反逆者として刑に処される。
ちなみに反逆者として罰しられるとただ処刑されるだけではなく、数々の拷問の後に処刑される。
「今はまだ誰も捕まっちゃダメなのよ」
リアはまだ何の力も無い王女だ。
もし、誰かが捕まっても免罪にするだけの力は無い。
「私が王都を奪還してその功績があれば……」
功績を足掛かりに権力という力を持つ事ができる。
「……レオ」
「大丈夫、被れる泥なら俺が被るから」
その台詞にリアは再び涙を流して嫌がるように首をしきりに横に振る。
「違、う。私はそんなつもりじゃ!!」
「俺は大丈夫だから」
「そんな事無い!! レオは泣いてたじゃない!!」
狂ったようにリアは声をあげる。
「ガリレクスに居た時に宿でレオ泣いてたのよ」
宿でレオを起こしに来た日、リアはベットで寝ながら涙を流していた姿を見ていた。
「レオ、私はあなたに傷付いてほしくない」
リアの言葉にレオは悲しそうな表情をして応える。
「……昔、守れなかった人達がいるんだ」
「守れなかった?」
「そう。誰にも負けないように、誰にも貶されないように、誰かを護れるように強くなったはずだったのに」
懐かしそうに目を細めてレオは遠くを見る。
「結局俺は誰も護れなかった」
悲しそうな表情から一変、怒るようにレオは顔を歪めた。
それは自分の不甲斐なさを表したモノだった。
「それどこか俺は逃げ出した」
その日の自分を観ているようにレオは空中の一点を睨み付ける。
そんなレオの手をリアは優しく両手で包み込む。
「レオは悪くないわよ」
「……今でも夢に見るんだ。あの日の光景と真っ暗な闇を」
大切な人達を護る為に強くなった。
しかし、実際は護る事も出来ずに逃げ出す事しか出来なかった。
何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、とレオの思考は壊れたビデオのように繰り返し再生される。
「今のレオは違うわ」
リアの声にレオは後悔の泥沼から引き上げられる。
「初めて会った時も騎士に追われていた時も森で騎士団に追い詰められた時も守ってくれたじゃない!!」
リアはレオに救われた。
だから、今度はリアがレオを救う番だ。
「今もこれからも無力な私を護って。レオ」
この言葉にレオは救われ、覚悟を決めた。
──今度こそは護り抜く。
レオはそう心の中で誓ってリアに礼を言った。
「ありがとう。今は戻って明日に備えよう」
リアは頷き、先に砦へ戻ろう歩き出したレオの隣に寄り添った。
これから約六時間後、レオ達は出来るだけ多くの人間が傷付かないように傷付く戦いを始めた。
最近新作を書き始めて方向性にちょっと悩んでます……。
投稿が遅れたのもそれが原因でもあります。
けれど、頑張ってこの作品を続けようと考えているので次の話も読んで頂けると嬉しいです。
誤字脱字あれば連絡を頂けると幸いです。