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剣の民と華の少女  作者: ナナヤ
第一章 ティル・ナ・ノーグ編
6/21

第六話 訓練

前回リアが活躍するなど言っていた気がしますが、何の手違いか全く活躍しません。

リアの活躍は次回に持ち越しになります。

期待していた方々、誠にすいません。

そんな第六話ですが、最後まで読んで頂けると嬉しいです。


二日後。

「レオはもう大丈夫なの?」

「ああ、怪我をしていたといっても軽いモノばかりだったし、動けなかったのはほとんど過労だったし」

リアはレオの部屋に来て椅子に腰をかけていた。

「後で体を動かさないとな」

そう呟いた瞬間、扉がノックされてウィーナが入ってくる。

これから訓練に行くのかウィーナの手には二メートルほどの長さがある槍が握られている。

「レオ、体の調子はどうですか?」

「もう大丈夫だよ」

心配そうに見つめてくるウィーナにレオは出来るだけ明るい声で答える。

それに安心したウィーナだったが、すぐに真面目な顔になる。

「では手合わせをお願いしたいのですが」

この頼みには理由がある。

 それは女性にもかかわらず国王騎士団の団長を務めているウィーナに少しでも太刀打ち出来る人物が居ないからだ。

「わかった。少し待っててくれ」

レオは綺麗に洗濯し、破れていた所を修繕した黒のジャンバーを羽織り立ち上がる。

「私も一緒に行くわ」

「わかりました。リアーナ様こちらに」

二人が並んで歩いているのを後ろから見たレオは姉妹のようだと感じながらついて行った。

そして、三人は兵舎の前にある小さめの訓練所に辿り着く。

「ウィーナ、レオ。二人とも頑張って」

リアは二人に激励の言葉をかけ、少し離れた木陰に座った。

リアが離れるのを待ってウィーナは槍を構える。

「それではレオ、いきますよ」

「いつでも」

レオは紫竜の柄を掴み、左足を半歩だけ後ろに下げる。

「……ハッ!!」

正確に心臓を狙うウィーナの槍。

それをレオは冷静に体を横向にする事で避ける。

「流石ですねレオ」

言葉と共に素早く槍を引き、再び狙いを付けて突き刺す。

「ウィーナもなかなか」

レオは後ろに跳んで攻撃をやり過ごす。

「次は俺からいく」

ウィーナはとうとう来るかと体を緊張させる。

レオが動き出した瞬間にカウンターをくらわせようと腰を低くして構える。

しかし。

「っ!?」

ゾワッ、という氷水に全身をつけたような感覚に捕らわれ、急いでその場から飛び退く。

次の瞬間、ウィーナの居た場所には紫竜の刃が一閃されていた。

「……今のは結構本気だったんだけど。自信無くすなぁ」

「いえ、普通の騎士では避けようがありません」

「避けたウィーナに言われても嫌味にしか聞こえないんだけどっ!!」

言いながら一瞬でウィーナの目の前に移動したレオは紫竜を振るう。

キンッ。

ウィーナはその一振りを槍で防ぎ、同時に紫竜に当たっている部分を中心に槍を回す。

「ちっ!!」

舌打ちをしてレオは横に跳んで避ける。

「セヤッ!!」

レオは着地した反動で曲がった膝に力を込めて伸ばし、ウィーナに突っ込んで突きを放つ。

その行動に対してウィーナは槍の一番下を持って横薙に振るって攻撃する事で防ぐ。

槍に邪魔をされたレオはすぐに腕を戻して紫竜でガードする。

「…………すごい」

その一連の斬り合いを見ていたリアは感嘆のあまり息を呑む。

もはや眼で追うことがほとんど出来ないリアだったが、二人のレベルが一般的な騎士とはかけ離れていると感じていた。

「はぁ、はぁはぁ。そのスピードは何なんですか?」

肩で息をしながらウィーナは不思議なモノを観る眼でレオを見つめる。

「純粋な脚力と懸命な努力の賜物?」

「何故、疑問形なんですか……」

呆れたような表情をするウィーナ。

「もういいです。私は本気を出させてもらいます」

「それじゃあ俺が本気になっていないみたいじゃないか?」

「違いますか?」

その質問にレオは苦笑いをする事で答える。

「いきます」

ウィーナはレオを睨みながら咳払いをして口を開く。

「精霊よ、世界を自由に駆け巡る風の精霊よ」

詩のようなウィーナの台詞。

それを聞いたレオは驚いたように目を見開く。

「我が声を聞き、我が願いを叶えたまえ」

祝詞。

それは本来、魔法使いが高度な魔法を使用する時にだけ使う呪文。

「私に世界を駆ける力を!!」

祝詞の終わりと共に風がウィーナを中心に吹き荒れる。

それを見ていたレオは幽霊にでも遭ったような顔をする。

「ティルヴィング流剣術」

世界に存在するとされる精霊の力を借り、精霊と同等の力を得ようと生まれた今は無きティルヴィング王国の剣術。

「そうです。よく知っていますね」

「大陸最強と言われていた剣術位は知ってるよ」

曰わく、ティルヴィングの兵は一人で十の兵を容易く葬る。

「でも何でウィーナがそれを?」

レオがそう疑問に思うのは当然だった。

何故なら、ティルヴィング流剣術は国の民以外には伝えられていないはずだからだ。

国王騎士団の団長であるウィーナがティルヴィングの出身のはずは無い。

「祖父が昔ティルヴィングの剣士を助けた時、お礼にと幼かった父が教えて頂いたモノです」

「なるほど。義を重んじるティルヴィングの民らしいな」

納得したレオは紫竜を構え直し、瞳を閉じて瞑想する。

「では、いきます」

ウィーナの凛とした声が響くとレオは瞳を開いた。

同時にウィーナの体が淡く緑色に光り輝いたのを視認したレオだったが、光がブレたと感じた瞬間に姿を見失う。

「速いっ!!」

気がついた時にはレオの眼前に槍が迫ってきていた。

しかし、レオも瞬時に横へ移動して回避する。

「本気でないと怪我をしますよ」

お互いにバックステップで距離をとり、構え直す。

「……そうだな」

レオは息を吐いて集中する。

「ハアァ!!」

気合いと共に縦に斬りかかるが、ウィーナは難なく槍を横にして防ぐ。

防がれたレオはあえて後ろに下がらず距離を狭める。

「くっ!!」

レオは縦や横、斜めや下から連続で斬りつける。

だが、その連撃をウィーナは器用に槍を動かして自身を守る。

何十回ものレオが放った斬撃を全て防御したウィーナは一瞬の隙をつき、後ろに下がると同時に槍で穿つ。

「私の槍を全て防ぎきれますか、レオ?」

「ちっ、……まだまだ」

右太腿、左腕、首、心臓、右肩、左のわき腹、鳩尾、眉間、下腹、それら全ての場所にほぼ同時で槍が迫ってくる。

レオは十分の一秒ほどの誤差を的確に見極めて全部の攻撃を時には逸らし、時には叩き、時には紫竜で防いだ。

およそ百近い攻撃と防御で斬り結び、二人は一時離れる。

「流石ウィーナ、速いな」

「いえ、レオの一撃の重さも流石です」

二人は楽しげに口の端をつり上げて笑う。

レオは腕を上にあげて紫竜を上段に構え、ウィーナは姿勢を低く下段から心臓を突き刺せる構えをする。

「私の速さに勝てますか?」

「さぁね。でもウィーナは俺の力に勝てるのか?」

「やってみないとわかりません」

「同感だ」

先に動いたのはウィーナだった。

ウィーナは渾身の力で地を蹴って凄まじい速度で突撃して来る。

それを見たレオもほぼ同時に動き出す。

「ハァッ!!」

刀の刃渡りでは決して届く事のない距離でレオは紫竜を振り下ろす。

同時にレオは紫竜の柄を手離す。

「ッ!!」

予想外の行動にウィーナは立ち止まり、槍で紫竜を叩き落とす。

ドコッ。

「……ぐふっ」

ウィーナの足が止まった瞬間にレオは左手で槍を抑えて右肘で相手の鳩尾を抉った。

人体の急所にダメージをくらったウィーナは手の力が抜けて槍を落とした。

「……やはりレオは強いですね」

普通の人間なら意識を失ってもおかしくない威力の攻撃だったが、精霊の力で強化されているウィーナは手足に力が入らない程度で済んでいた。

しかし、体を支える事は出来ないらしくレオは抱き締めるようにウィーナを支えた。

「大丈夫か?」

「少し安静にしていれば治りますが、この格好は……その、少々恥ずかしいですね」

視線を下げると頬を真っ赤にしているウィーナが恥ずかしそうに眼を伏せているのが見えた。

その可愛らしい姿にレオはちょっとした悪戯心が芽生えた。

「ちょっと、ごめん」

「えっ!? レオっ何するんですか!!」

彼女が動けないのを利用し、右腕を膝に、左腕を肩に回してウィーナを抱き上げる。

いわゆる、お姫様抱っこだ。

「怪我人は黙って言う事を聞く」

「うぅ、でも」

「言う事を聞かないともっと恥ずかしくなる事するよ」

レオの台詞に顔を紅くしたウィーナはコクリと黙って頷く。

それは恥ずかし過ぎて言葉が出なかったウィーナの精一杯の行動だった。

「……重くはないですか?」

「重い」

「そこは重くないと言うべきです」

ウィーナはジト目で恨めしそうにレオを睨む。

「人一人が乗ってれば誰が乗っても重い」

「それでも女性はあえて重くないよと言われるのが嬉しいんです」

「そういうモノか?」

「そういうモノです」

どこが面白いか分からないが二人は一斉に笑い出す。

ほがらかな雰囲気でリアの居る木陰に向かう。

そこで般若が待っているとも知らずに。

「二人とも凄くいい雰囲気ね」

無表情で無感情にリアは二人を迎える。

「リアーナ様!!」

「リ、リア?」

ウィーナは驚き、レオは戸惑ったような顔をする。

「お姫様抱っこねぇ」

まず、リアはウィーナに狙いを付けたらしい。

「良かったわね、ウィーナ。嬉しそうに頬が緩んでるわよ」

「なっ、ち違います!!」

何が違うのか分からないが思い当たる事があるウィーナは目に見えて動揺する。

「殿方に初めて抱き上げられて恥ずかしいですし、それがレオなので嬉しさの方が多いですが、ドキドキもしていてレオの顔が近いですけれどにやけてなんていません!!」

パニックに陥ったウィーナは意味不明な文法で話し始めた。

「この前もレオのテレた顔が可愛らしくて抱き締めたくなったのですが我慢しましたし、そんな嬉しくない訳ではありませんでして」

「十九にもなって可愛らしいって……」

「……からかい過ぎたかしら」

リアとレオはどうしょうと考えながら顔を見合わせる。

和やかな空気が流れているその時。

カンカンカンカン。

「何だ、この音は?」

突然の鐘を叩く音にレオは訝しむように、リアは訳の解らなさそうな表情をする。

「レオ、これは敵襲の鐘です」

いつの間にか復活したウィーナが二人の疑問に答える。

「敵襲!?」

「はい、相手の規模は分かりませんがリアーナ様を狙っているのは確実です」

ウィーナは悔しそうに歯ぎしりをする。

「この砦にはどの位兵がいる?」

「元々新兵の訓練の為に小さいな砦を使っていますからまともに戦えるのは百以下ですね」

ウィーナから聞かされた事実にレオは絶句する。

そして、怒ったように声を荒げる。

「リアが狙われているのは分かっていたはずだ。なら何故、違う砦へ移動しない!!」

レオの疑問は尤もだ。

これでは腹を空かせた猛獣を檻に入れず、野放しにするのと同意だ。

「ここはグネルヴァ領の東に位置していて今はダルタニアに対する重大な防衛拠点です。私はここを留守にする事は出来ません」

ここまでウィーナの話を聞いてレオは理解した。

要約すると、戦力にならない新兵なら動かす事は出来るが護衛にはならず、護衛の出来る騎士達は防衛に駆り出され動く事が出来ない。

「大声を出してすまない」

「いえ、こうなるのなら無理にでも移動するべきでした」

「ウィーナのせいじゃないわ。……私のせいよ」

リアは泣きそうな表情をして歯を食いしばる。

「悔やんでいても仕方ない。今はこの砦の防衛を考えよう」

「そうですね。そろそろ物見からの報せが来ると思いますし」

そう言うのと同時に一人の兵士が走り込んでくる。

「で、伝令です。敵軍勢までの距離は約二キロ、一時間以内にこの砦に到達する予想です!!」

「敵の数は?」

一番気になっていた事を問う。

「敵兵数は約千。こちらの十倍の兵力です」







ご意見、ご感想があればどしどしどうぞ。

あまりきついことを言われると心が砕けますが、頑張って改善していく所存です。

次話は四日後に投稿します。

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