第五話 シュク砦
一休みという感じになってます。
レオのキャラが……
「これがシュク砦です」
ウィーナが用意した馬に乗って走っていたレオは視線を上げて砦を見渡す。
シュク砦の外見は岩で出来た壁で四方を囲んでいて四つ角には物見の高台があり、内部には石造りの塔と木造の兵舎があるのが見えた。
「警備もしっかり配置してあるな」
「ええ、唯一の出入り口の正門には常時八人の兵を。物見には一カ所につき交代制で常に一人以上は居ます」
「周辺の警備は?」
「二時間毎に十人を。一時間経っても戻らない場合は第一次戦闘隊形を組むようになってます」
警備の会話をしながら二人は砦の門をくぐる。
ちなみに門は馬が二頭並んで通るとほとんど隙間が無いほど小さかった。
「こちらです」
ユニコーンを降りてウィーナは早足で兵舎の方に歩いてく。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
急いで降りようとするレオだったが、体の節々が痛みを発してうまく降りれない。
それを見たウィーナはため息を吐きながらレオに近付く。
「大丈夫ですか?」
「ごめん、脚が上がらない」
「まったく、仕方ないですね」
ウィーナは馬の横で両腕を上に上げて万歳のようなポーズをする。
「支えるのでこちらに倒れ込んで下さい」
「ありがとう」
「いえ、気にしないで下さい」
言葉に甘えてレオはウィーナの方に倒れ込む。
が、この行動は間違いだった。
「あ、れ?」
過度の出血をし、尚且つ体位を変えたことによる立ちくらみが起こった。
「え? きゃっ!?」
手伝おうと上げた手とは違う所に倒れた為、レオはそのままウィーナと共に地面にダイブする。
「んぐ!!」
倒れる瞬間に地面と激突する痛みを予想していたレオだったが、その痛みはなかなか訪れない。
代わりに柔らかく弾力のある何かが顔全体を包み込むような感触がした。
すなわち。
「な、ななな何をしているんですか!?」
ウィーナの平均より大きい胸に顔面ダイブをしていた。
それに気がついたレオは慌てて上半身を起こす。
「ごめ」
ん、という前に乾いた音が響き、レオが吹き飛ぶ。
「……こんな事をするなんていい度胸ですね」
レオが退き、自由になったウィーナは幽鬼のように立ち上がる。
「わ、わざとじゃない!!」
「盛りのついた犬はちゃんと躾しませんとね」
レオは痛む体を無理矢理酷使して脱兎のごとく兵舎に逃げ込んだ。
「……ふぅ、どうやら悪人という訳ではなさそうですね」
ウィーナは先ほどとは違い安心した声を出した。
「まぁ、リアーナ様を護って下さった人物が悪人のはずないのですけれど」
レオはウィーナが怒っていたと思い逃げ出したが、実際彼女は全然怒ってなかった。
──平手打ちは反射的にしてしまいましたが……。
ウィーナはただレオがどういう人物か試したかっただけだ。
ただし、胸にダイブされたのは誤算だったが。
レオは百人もの兵士を相手に出来るほどの強者だ。そんな彼がもしも悪人ならばリアに恨まれようが、この場で首をはねるつもりたった。
「その必要は無いようですね」
助けてから今までの行動を見てそう結論付けたウィーナは嬉しそうに微笑む。
「……慌てた顔は意外に可愛かったですし」
レオの慌てた顔を思い出したのかウィーナは顔を真っ赤にし、照れたように笑った。
その頃レオはというと。
「思わず逃げたけど……ここはどこだ?」 あまりの怒気に我を忘れて一目散に逃げたレオだったが、初めて入る兵舎で場所も分からずさまよっていた。
しばらく歩くと質素な扉ばかり並んでいた壁に一つだけ立派な扉を発見した。
「ここで行き止まりか」
立派な扉の目の前で少し考え、ドアノブに手を伸ばす。
「失礼します」
中に居る気配を感じたレオは一応無礼の無いように声をかけてから開ける。
ノックをしない時点で失礼にあたるが、長年傭兵をやっているレオは気付かなかった。
「レオッ!!」
「え?」
ドアを開いたのと同時にレオの視界いっぱいに白い布が映り込む。
そして、人に体当たりされたような衝撃がレオを襲った。
「うわぁ!!」
「きゃっ!?」
過度の疲労と出血で脚に力の入らないレオは廊下に押し倒される。
「うぐ、いた……」
「ご、ごめんなさい」
床に倒れたレオが痛みで悶えると押し倒された人物は慌てて彼の上から退く。
その人物に文句を言おうとレオは視線を上げる。
しかし、視線上げた瞬間に言葉が出て来なくなる。
「……リア」
言葉と同時に熱い何かレオの心を満たしていく。
「良かった、護れたんだ」
自然と口に出た言葉。
だが、レオはその台詞に嬉しさを感じた。
「良くなんて無いわ」
リアは俯いて言葉を紡ぐ。
「知っているんだからね、レオが百人の騎士と戦って死んじゃいそうになった事」
リアの頬に涙が流れる。
流れた涙は落ち、床ではねる。
「レオが死んじゃったら私は誰に護ってもらえばいいのっ!?」
止まる事無く流れ出す雫をリアは気にせず叫ぶ。
「レオのバカ。レオのバカ。レオのバカ。レオ、の……ばか」
「ごめん」
「謝っても許さないんだから」
リアは拗ねたように頬を膨らましながら泣く。
レオは立ち上がり、彼女の頭に手を置く。
「ありがとう」
言葉と共に優しく撫でる。
「もう絶対危ないことしないでよ」
照れたように微笑みながら涙を流すリア。
「断言は出来ないけれど約束する」
「確約出来ない約束なんてズルいわ」
「傭兵はずる賢くなくちゃ生きていけないんだよ」
リアはレオを抱きしめる。
「ちょっとだけこのままで居させて」
「わかった」
レオは頷き再び頭を撫でる。
心地良い感覚に二人は酔いそうになる。
「こほん、少しよろしいでしょうか」
「うわっ!?」
「きゃっ!!」
突然かかった声に二人は慌てて距離を離す。
「リアーナ様、心配だったのは解りますが殿方に抱きつくのはお止めになった方がよろしいかと」
開けっ放しにしていた扉の前にウィーナが呆れたような顔で立っていた。
「ウィーナ!!」
恥ずかしいのかリアは顔を紅く染めて抗議する。
「レオ先ほどは試すような真似をして申し訳ない」
「えっ、何が?」
視線をリアからレオに移して彼女は謝罪を口にする。
「先ほどの……アレです。事故ですしもう怒っていないですから警戒をといて下さい」
ウィーナは思い出して頬を赤くする。
それを見たリアは訳が分からなかったが直感的にムッとした。
「でもアレは全面的に俺の方が悪いから。ごめん」
「気にしなくていいと私が言っているのですし、この話はここまでにしましょう」
このままだとイタチごっこだと悟ったウィーナが話を変える。
「ここはリアーナ様が使用するのでレオは隣の部屋を使って頂いて良いですか?」
「ああ、わかった」
「レオの部屋の向かい側に私の部屋があるので解らない事があったら遠慮無くどうぞ」
「ありがとう」
レオはお礼を言って自分の部屋に向かった。
次はまたバトルになるっぽいです。
そして、とうとうリアの活躍があります