第三話 レオ
自分の文才の無さに絶望した。
出来る限り努力したので読んで頂けると幸いです。
「という事だ。ロー爺さん」
水路から王都の外へ出た三人は徒歩で南下しながらさっきまであった事をロードスに説明した。
「……ごめんなさい。私のせいでロードスさんにまで迷惑をかけてしまって」
もう訳なさそうにリアは俯く。
今三人が向かっているのは国王領から南に位置するグネルヴァ領という場所だ。
何故そこに向かっているのかというと、グネルヴァ領を統治する貴族の手助けを受け、戦力を立て直す為だ。
「昨日ダルタニア領の領主、ゲオリウス・ダルタニアが御父様に謁見を申し立てて来たのよ」
「ん? おかしいの、ダルタニアは国王と仲が悪いというはなしだったはずじゃが?」
「そうだな。この国では有名な話だと思ったけど」
曰わく、国王は兵力のあるダルタニアが気に食わない。
曰わく、ダルタニアの兵力が多いのは反乱をするためだ。
などの噂話が二つの領地からは絶えない。
「二人の言うとおりよ。特に現領主のゲオリウスは好戦的で御父様とは仲が悪かったの」
「なら何故?」
「私には分からないわ。でも、謁見は今日予定通りに行われて会食の時は普段通りだったのに……」
話していて日常が違うモノになってしまったのが哀しいのか、うっすらとリアのまぶたに涙が浮かぶ。
レオは何とも声をかけず、辺りの警戒に意識を向けた。
「レオの忠告が無かったら私も捕まってたわ」
そう言いレオに微笑むリア。
「辺りが騒がしくてこっそり様子を見に行ったら屋敷を囲むように騎士や傭兵が居て、その時レオの言葉を思い出してとっさに逃げて来たのよ」
「なるほど、逃げ出せたのはよいが、途中で見つかりレオに助けられた。という事じゃな」
そう言い放つとロードスはガリレクスの方に向き直る。
「ロードスさん?」
リアが不思議そうな顔をする。
「ワシはガリレクスに戻って情報収集をする。レオ、後は頼めるかの?」
「大丈夫だ。リアは俺が護るよ」
レオは何気なく言った台詞だったが、リアには刺激が強かったらしい。見事なほど顔を真っ赤にした。
言った本人はまったく気づかないのはご愛嬌だ。
「あ〜、愛の告白ならよそでしてもらって良いかの?」
「あ、愛の告白なんて……でもレオなら」
呆れ顔で言うロードスの言葉にリアはオーバーヒートしそうになる。
「愛の告白? 寝言は死んでから言ってもらえないかロー爺さん」
ため息を吐くレオ。
残念な事にリアの声は届かなかったらしい。
「それにたかが一介の傭兵が一国のお姫様に告白しても断られるのが関の山だろう?」
「…………鈍感」
「この手の話はレオにしても無駄じゃったな」
そう呆れたように話に区切りを付けるとロードスは闇に溶けるように姿を消す。
「魔法!?」
魔法とはこの世界に多数ある学問の中の一つで正式には魔法学と呼ばれている。
起源は大昔に暴れまわり、人口を半分までにした魔獣達に対抗しようと研究されたのが始まりだ。
今では生活の一部にもなっているが、魔法の使い手が少ないのと魔法の恩恵を受けているのが分からないという理由で一般的には珍しいモノになっている。
何より、使い処が難しいというのもあるだろう。
「さっ、出来るだけ急いでグネルヴァ領に行こう」
「そうね。急がなくちゃ」
ガリレクスを出て約三時間歩き続け、レオ達は国王領とグネルヴァ領の境目にある森に辿り着いていた。
「少し休憩しよう」
そう言うとレオは近くにあった木にもたれかかり、刀を木に立てかける。
リアもそれにならい、地面に座る。
「この森を抜ければグネルヴァ領だ。そこからグネルヴァ領主のいる街まで休憩無しで行くから充分に休もう」
「わかったわ。流石に私も疲れたもの……」
二人は月明かりだけに照らされた薄暗い森で休憩する。
何故、火を焚かないかというと追っ手をに場所を知られないためだ。
「リア、眠れるなら少しでも仮眠をとった方がいい。見張りは俺がやっておくから」
ほとんど寝ていないだろうリアにレオは優しく提案をする。
しかし、リアは首を横に振る。
「歩き過ぎて眠気なんてどこかに行ってしまったわ。それより私はレオと話していたいわ」
「はぁ~、わかった。でも無理だけはするなよ」
話しているだけで気が紛れるならと、レオは話し相手になる。
「それでリアは何を聞きたいんだ?」
「そうね……」
わざとらしく悩む仕草をしたのも一瞬だけ、すぐにリアはニヤニヤと悪戯をしようとしている子供みないな表情になる。
「レオには恋人か好きな人は居るの?」
その質問にレオは呆れ顔になる。
まさか、小さい子供がするお泊まり会のネタを聞かれるとは思わなかった。
「何でそんな話に……」
「女の子が夜に話し合うならこういう話になるのは当然よ。レオ」
何を言い返しても無駄だと悟ったレオは心の中でため息を吐く。
「恋人も好きな人も居ない」
「そうなの? レオなら恋人の一人や二人居そうだけど」
「いや、二人も居ちゃダメだろう」
今日何度目かのため息を吐く。
「……そっか、居ないならチャンスね」
「ん? 何か言ったか?」
「えっ、いや……何でもないわよ」
リアは慌てて否定する。
普通の人間ならこれまでの態度でリアがどのような感情をレオに抱いているかは明白だが、レオはそれに気づかないふりをする。
「じゃあ、今度は俺からリアに質問だ。一人でグネルヴァ領主のいる街まで行けるか?」
レオが急に真面目な声色で言う。
「いきなりどうしたのよレオ?」
「多分、騎士団だ。ざっと二十人ほど居る」
一般人には到底聞き取れないレベルの足音をレオは長年の努力や経験より聞き取って相手の戦力を分析する。
──音から察するに、馬が二頭、弓兵が五人、重騎士が五人、普通の騎士が十人か。
それはまともに戦えばいくら腕に自信があるレオでも負ける可能性がある戦力だ。
だが、あくまでも『まともに』だ。
「リア、速く逃げろ」
作戦を頭の中で考えながらリアに指示をする。
相手の狙いはリアだ。そのリアを敵が大勢押し寄せるこの場に留めておく事にデメリットは有れども、メリットは無い。
しかし。
「いやよ、絶対レオと一緒にいるもの」
「は?」
予想外の拒否にあい、レオは思わず聞き返す。
「ここは危ないからリアは早く逃げろ」
「なんで私がレオと離れなければいけないの」
「流石に無傷で二十人も相手出来ない。リア、頼むから逃げてくれ」
「それでも、レオなら大丈夫よ」
どこから出てくるのか分からない自信をもってリアは断言する。
自信で満ち溢れてる表情をするリアとは対称的にレオは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「それにレオの近くが一番安全だと私は思うのだけれど?」
言葉と同時に可愛らしい笑みを浮かべるリア。
レオにはその笑顔が悪魔の微笑みに見えた。
「わかった。でも、絶対に危ない真似はするな」
「さっすが、レオ。話が分かるわね」
リアにバレないようにこっそり溜め息を吐くレオ。
同時に近くに立てかけておいた刀に手を伸ばす。
「容赦ないな」
そう呟くのと同時に鞘から刀を抜き出し居合いを一閃。
キンッ。
頭に響くかん高い金属音が静かな森にこだまする。
「流石は国最強の騎士団だな」
ニヤリと不敵に口を吊り上げる。
「すぐ戻る。そこから動くなよリア」
「わかったわ。あなたに神の加護が有らんことを」
リアは神を信じている訳ではないが、ティルナノーグでは戦場に赴く時に騎士の無事を祈るのが常識であり、それに則った祈りをする。
「行ってくる」
その言葉と同時にレオはリアの視界から消えた。
「ハッ!!」
気合いと共に目の前に呆けていた騎士を横薙で首に一閃。
そのまま加速して近くに居た二人の騎士の腕を切り落とす。
「ぎぁああああ!!」
「うわあぁあ!!」
最初に斬った男は苦痛を言葉にする前に地面に倒れ動かなくなる。
およそ、何があったのか解らないまま人生が終わってしまったのだろう。
「まずは三人」
空中で刀を振るい、血を飛ばす。
余談だが、これを血振るいという。
「きゅ、弓兵撃てぇ!!」
隊長格だと思われる華美な鎧をした騎士がそう叫ぶと弓を持っていた五人はその声で慌てて矢を構える。
「遅い」
レオは隊の後ろにいる弓兵を片付ける為、右前方にある木に跳ぶ。
騎士達が眼で追えたのはそこまでだった。
「これで八人」
レオがそう宣言すると弓兵達は全てその場に倒れ込んだ。
「なっ……!?」
先ほど指示をしていた隊長だと思われる馬に乗った騎士が絶句する。
「騎士の誓いも誇りも忘れた愚かな騎士団よ。貴殿等がここで剣を収めて去るというのなら追いはしない」
レオは森に響き渡るような大声で問う。
それは威圧的でありながら恐怖ではなく、威厳がありながら驕らない、しいて言うなら王族のような気高い言葉。
「だが、それでも騎士の盟に反して主に剣を向けるのならこのレオンハルトが相手する」
レオの言葉と威厳に気圧されて騎士達の足が半歩だけ後ろに下がる。
「き、貴様等下がるな戦え!!」
「あくまでも戦うというのなら……。斬る!!」
重騎士と呼ばれる機動力を度外視にして防御力を徹底的に追求した重装備の騎士が隊長の命令により五人同時に槍を持って突撃してくる。
──重騎士は確かに堅い。だが、人間である以上関節部分は脆い。
レオは体勢を低くし、重騎士達の横を通り抜ける。
交錯する瞬間、レオは刀を振り相手の膝裏を斬りつけ動けなくする。
「セイッ!!」
掛け声をして気合いを入れ直し、近くの重騎士の肘を剣先で斬る。
「借りるぞ」
重騎士が痛みで手放した槍を空中で掴み、槍投げの要領で投げる。
「イガァア!!」
来ると思っていなかった騎士が突然の攻撃に反応出来る訳はなく肩に槍が刺さった。
しかし、
「くっ!!」
レオは投げた動作からすぐに横に跳び避けようとしたが、いつの間にか近付いていた騎士に左腕を斬られた。
とっさにレオは蹴りを斬りつけた騎士の脇腹に叩き込み戦闘不能にさせる。
「畳み掛けろ!!」
レオがこの戦いで初めて血を流したのを見た騎士達は志気を高めて一気に押し寄せてくる。
怪我の様子を診たかったレオはバックステップで距離をとる。
その距離は僅か五メートル。
──出血は派手だが、浅い。
追撃をかける為に重騎士三人が槍を突き出して走ってくる。
「……ふぅ」
息を吐いて力を抜いたレオは何故かわざと隙ができるように敵に背を向ける。
勿論、重騎士達は絶好の好機だと押し寄せてくる。
「さぁ、次は誰が相手をしてくれるんだ?」
その台詞が響いたときにはいつの間にか重騎士の後ろに居たレオ。
そして、彼が軽口を叩いた瞬間に三人の重騎士は血を流して倒れた。
その行動に要した時間、約一秒。
「ば、化け物」
もはや、人間の限界を超えた動きをみせるレオを表現するなら適切な言葉だった。
「残り四人か」
レオは次の獲物に狙いを定める。
右足に力を込め、跳躍する。
「ぎゃああ!! 腕が腕がぁ」
ゴトリ
それは隊長であろう馬に乗っていた騎士に一瞬で近づき、レオは相手の肩を切り落とした音だった。
「に、逃げろぉ!?」
乗馬していたもう一人の騎士が慌てて逃げて行く。
「ま、待って下さい!!」
残りの二人も一目散に逃げていき戦いは終わりを告げた。
次こそはもっと速いペースで投稿したいと思います。