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剣の民と華の少女  作者: ナナヤ
第一章 ティル・ナ・ノーグ編
12/21

第十二話 ランス

最近、何か無性に旅に出たくなる夕闇夜空です。

剣の民と華の少女ティルナノーグ編はそろそろ終盤です。あと二話ほどでティリア編に行くと思います。

稚拙な文章ですが、沢山の人に読んで頂けると幸いです。


「王様はどこに捕らわれていると思う?」

「多分、お父様の私室に監禁されてると思うわ」

「場所はわかるか?」

「もちろん、付いて来て」

 リアはレオの数歩先を歩こうとする。が。

「リア、待て」

 レオは素早くリアの腕を掴んで引っ張り、リアを壁に押し付ける。

「えっ、何──」

「静かにしろ」

 驚いたリアが声を出そうとするが、レオは静かにするように言って彼女の体を抱きしめる。

 その行動にリアは羞恥と嬉しさで顔を赤く染める。

「だ、だめ。こういう事はちゃんとしたいの」

 嬉しいが緊急時の今現在にされている事に罪悪感を感じたリアは体をよじり弱々しい抵抗をする。

「頼むリア、動かないでくれ」

「ぁ……」

 抱きしめる力を強くされリアは動くのを止めてレオに身を任せる。

 ──レオの匂いが、すごい……。

 身長差がある為、女性の平均身長程しかないリアは顔をレオの胸に押し付けられるような体勢になっていた。

 目立った疲れを見せないレオだが、ここまで一切戦闘が無かった訳ではない。

 戦闘があったという事は必然的に汗を流しているという事だ。

 そして、汗にはその人のフェロモンが含まれているという説がある。

「この匂い……すき」

 そう小さく呟くリアの声はレオの耳には届かなかった。

 息を殺している二人の間には沈黙が流れ、リアは自分の心臓の鼓動がレオに聞こえないかと心配になっていた。

 しばらく抱き合っているとレオが呟く。

「……行ったか?」

「──っ!?」

 その声で放心状態だったリアはハッとする。

「いきなり抱きしめてわるかった」

 何事も無かったようにレオはリアから身を離す。

 もっと抱き合っていたかったリアは残念そうな顔をする。

「って、大丈夫か? リア?」

「な、なな何がよ?」

「顔が赤いし、今すごく悲しそうな顔していたし」

「~~ッ、何でもないわっ!!」

 レオは訳がわからずに首を傾げる。

「……なんでいきなり、その、だ抱きしめたりしたのよ?」

「今、鎧を着た騎士が向こうの通路を歩いていたからだけど」

「……見回り?」

「いや、それはウィーナが陽動しているはずだ。それに……」

 さっきまでの雰囲気とは変わり、二人は真剣な面持ちで話し合う。

「それに?」

 リアはレオが言おうとして止めた言葉を続けさせる。

 レオは一瞬躊躇したが、言葉の続きを有り得ないと自分の中で考えながら話す。

「あんなのは見たことないけど少なくとも人間じゃなかった」

 その台詞にリアは戸惑いを覚える。

「でも、鎧を着て歩いてたんでしょ?」

「姿は見てないからわからない」

「じゃあ、何が?」

 リア以上に戸惑いながらレオはその理由を説明していく。

「まず、今居た騎士は癖が無いんだ」

「癖?」

「ああ、例えばリアなら疲れた時は右足に重心を置くとか、ウィーナなら歩き方が一定のリズムで速い」

「言われてみれば確かにそうね」

 納得したリアは頷く。

「だけど、今の騎士にはそれが無かった。まるで人形が動いているみたいに」

「その話だけ聞くと不気味ね」

「不気味で済めばいいんだけど」

 溜め息を吐いたレオは目的である王の救出を再開させる。

「出来るだけ速く王様を助けよう」

「……そうね」

「道案内は頼む」

 俺にはわからないから、と言ってレオは再び歩き出した。

 数十分後。

「……長い」

 永遠と続く白い廊下を歩き続けたレオはそう文句を言う。

 リアはそれに苦笑をする。

「仕方ないじゃない、所々家具で通れなくなっている場所があるんだから」

「わかっているけど城ってこんなに長いものか?」

「一概には言えないけどティリアはここ以上に大きかったわよ」

「……不便じゃないのか」

「ティリアはアルトリヤの姫巫女もお城に居るから広くないとダメなのよ」

 アルトリヤの姫巫女とは未来の出来事を予知できる人間の事で、神聖ティリア王国は政治にその力を利用している珍しい国だ。

 ちなみに、神聖ティリア王国の名前にもなっている聖女ティリアは姫巫女の力を使って国を救ったという伝説がある。

「姫巫女というとシェンアルトの一族か……」

「そうね。聖女ティリアの子孫で姫巫女のトップ、シェンアルト。今は確かソフィアが代表姫巫女だったかしら?」

「……代表姫巫女と知り合いなのか?」

「これでもティルナノーグの王族なのだけど」

 レオの言葉にリアはわざと頬を膨らませて拗ねている事をアピールする。

 レオはそれを見て肩をすくめる。

「すっかり忘れてた」

「……親しみを持たれて嬉しいような、私の立場を忘れられて悲しいような」

 しょんぼりとするリアだったが、角を曲がった瞬間に表情を引き締める。

「どうした?」

「レオ、そろそろ着くわ」

 その一言でレオも今までの様子から一転、敵が居ないか辺りの気配を探る。

 二人は辺りを警戒しながら進んでいく。

 距離にして百メートル程歩くと目の前に金や銀で豪華に装飾した大きな扉が姿を現す。

「この奥にある玉座の後ろの部屋がお父様の私室よ」

 リアは取っ手に手をかけ、扉を開ける。

 瞬間。

「リアッ!!」

 レオはリアを抱きかかえて横に跳ぶ。

 ゴォオ。

 轟音と共にリアの開けた扉の上半分が崩れ落ちた。

「ちっ、よけられたか」

 リアを庇うように素早く起き上がったレオに苛立った声が浴びせられる。

 声のした方向へ視線を向けると、肩まである金髪をわざとらしくかき上げている顔立ちの整った男性が立っていた。

 それを見たレオの男に対する第一印象はとても不愉快なモノだった。

 何故なら、男は自分以外のモノは全てゴミだというような目つきでレオ達を見下していたからだ。

「……ゲオリウス・ダルタニア」

 リアは今まで見た事の無いような目つきでゲオリウスを睨み付ける。

 しかし、ゲオリウスはそれを歯牙にもかけず余裕の笑みをこぼす。

「これはこれは元リアーナ殿下。あまりにも弱々しくて羽虫と勘違いしてしまいましたよ」

「この──」

「訂正しろ」

 ゲオリウスの言葉にレオが静かに激怒する。

「ふん。貴様みたいなゴミが口を出すな」

 ダルタニアの一族はこの国で武勇で有名な貴族だ。腐ってもゲオリウスは現領主、レオの殺気も意味をなさない。

 リアもたじろぐ程の殺気だったが、ゲオリウスは物ともせずに嫌味を言う。

「私は新ティルナノーグの王だ。下等な平民風情が頭も下げずに何をしている」

 ゲオリウスは再び髪をかき上げながら踊っているように両腕を広げる。

「私は王なのだ。私が、私こそが真の王」

 まるで狂ったようにゲオリウスは笑い始める。

 耳につく気持ち悪い高笑いがレオ達のいる謁見の間に響き渡る。

「……狂ってる」

 リアがゲオリウスのおかしな様子を見てそう呟く。

 すると、笑い声がピタリと止み、ゲオリウスがリアを親の仇を見るような目つきで睨む。

「そう狂っている。私はこの大陸の王になるべき人間だ。なのに何故脆弱なこの国の貴族なのだ?」

「……何を言ってるの?」

「私が王。私こそが王なのだ。ふはははは!!」

 再び笑い出すゲオリウスにリアは本能的な恐怖を感じた。

 好戦的で自意識過剰だと有名なゲオリウスだが、今の彼はリアの知っているゲオリウス・ダルタニアとはまるで別人だった。

「私が、私はこの大陸の王!! 全ては私の──」

「黙れ、耳が腐る」

 今まで黙っていたレオは冷たく言い放つと紫竜を抜刀する。

「お前には王の資格は無い」

 だから黙れ、と言ってレオは紫竜を構える。

 ゲオリウスはレオの言動に怒りで顔を歪める。

「貴様、もう一度言ってみろ。この私が何だと?」

「何度でも言う。お前には王の資格は無い」

「──ッ!! キサァマァ、王である私を侮辱して楽に死ねると思うなよ」

「寝言は死んでから言ってくれ、裸の王様」

 最後の一言でゲオリウスは怒り狂った。

「殺すコロスころす、貴様だけは塵も残さず消し飛ばしてやるっ!!」

「出来るものならやってみろ」

 レオは軽口を言いながらリアに視線で王を助けるように伝える。

 それにリアは黙って頷くと部屋の端に移動する。

 リアの場所を確認したレオは再び視線をゲオリウスに向ける。

「……貴様には王の力を見せてやる」

 ゲオリウスは玉座の横に置いてあった不思議な形をした槍を掴む。

 その槍はウィーナのような棒に刃を付けた形をしておらず、この国ではあまり使われない円錐形のランスの形をしている。

 だが、それだけではなく、ゲオリウスの持つランスは螺旋状の模様が彫られ、刃先から見ると先端部分は無く空洞になっている。

「見るがいい、これが王の力だ。……バースト!!」

 ゲオリウスが叫んだ瞬間、ランスの先端から赤い球状の物体が高速で飛び出してくる。

「──っ!!」

 背中に悪寒が走ったレオは赤い球体が自分にぶつかる寸前で右に転がりながらそれを避ける。

 目標物を失った球体はそのまま壁にぶち当たる。すると。

 ドォンッ。

 壁に命中した球体は爆音と共に爆発し、石造りで頑丈に造られたはずの壁を吹き飛ばした。

「くっ……」

 爆風でレオは吹き飛ばされ、避けていたリアの近くまで転がって行く。

「レオッ!?」

「大丈夫だ。当たってはない」

 風邪に飛ばされながらもレオは体勢を整え直して紫竜を構える。

 ゲオリウスはそれを見て愉快そうに口元を吊り上げる。

「ふはははは、見たかこれが王の力だっ!!」

 ゲオリウスの攻撃に驚いたレオだったが、すぐに思考を戦う事に戻す。

 ──発動には魔法と同じように言葉が必要なのか?

 それならば勝算は充分にある、とレオは無言で勝つまで算段をする。

 その沈黙をゲオリウスは恐怖によるモノだと勘違いしたのかニヤニヤと気分の悪くなる笑みを浮かべる。

「どうした、さっきまでの威勢はどこへいった?」

 レオはゲオリウスの挑発に対して動じる事も無く、脚に力を込める。

「行くぞ、ゲオリウス」

 そう言うとレオは脚の力を使い、一瞬で二十メートルほどの距離をゼロにする。

「何っ!!」

「ハアァッ!!」

 レオはかけ声と共に紫竜を振るう。

「なめるなっ!!」

 紫竜が脇腹を斬り裂こうと横薙に振るわれるが、ゲオリウスは寸前でランスを盾にして難をしのぐ。

 しかし、レオの攻撃はそれだけでは終わらない。

「シッ!!」

 弾かれた紫竜を引き戻すと同時に右足を軸に回し蹴りを叩き込む。

「ガッ──」

 回し蹴りを腹にくらったゲオリウスは体勢を崩す。

 その隙にレオは流れるような動きで攻撃を繰り出す。

 ガガガガガガッ。

 絶え間なく紫竜の鋭い刃がランスに当たり、工事現場のような激しい音が鳴り響く。

「うおぉぉお!!」

 時に振り下ろし、斬り上げ、横薙、突き刺す。

 だが、その全てはランスに当たって弾き返される。

「こ、の……ゴミがぁぁ!!」

 ゲオリウスは傭兵であるレオに段々と追い込まれている事実に自尊心を傷付けられ怒り狂う。

 それを冷たい眼で見ながらレオは絶えず腕を動かし続ける。

「ヌアァァァアアッ!!」

 防戦一方に痺れを切らしたゲオリウスはレオの攻撃と攻撃の少ない時間の間にランスで突きを放つ。

「……ちっ」

 予想外の反撃にレオはたまらず後ろに飛び退く。

 ゲオリウスはその行動を見て歓喜の表情をする。

「死ね、ゴミ」

 ランスの先をレオに向けるゲオリウス。

 レオはその瞬間、目を見開いて舌打ちをする。

「バースト」

 その言葉と共に爆発が起こり、吹き飛ばされた。







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