第十一話 潜入
お久しぶりです。
十七教科中八教科赤点とった夕闇夜空です。
再試に向けて適度に頑張りながら執筆スピードを上げたいと思います。
駄文ですが最後まで付き合って下さると幸いです。
「レスト騎士団は左翼、マルク騎士団は右翼、グネルヴァ騎士団と国王騎士団は中央、最後にアリアス騎士団は伏兵として街の背後に回っていただきます」
ウィーナの言葉にその場に居た八人うち壮年の四人とハリスが頷く。
ちなみに、マルクはグネルヴァ領より南に位置する領地、レストは国王領から北にあり、アリアスは西に位置する。
「作戦は事前に伝えた通りです。作戦は他言無用で以降はハイト神と名称します」
その場に居た四人は立ち上がり集まっていた野営用のテントを出て行く。
残ったのはリア、レオ、ウィーナ、それと壮年の男性が一人。
「ウィーナ。少し良いか?」
壮年の男性はウィーナの名を呼び、彼女は男性に近寄る。
「あの人は?」
「彼はウィーナの父親でアリアス領の領主、リドル・アリアス公爵よ」
「リドル? あの死霊のリドルか?」
「そうよ。その死霊のリドルよ」
死霊のリドルとは、十五年前にあったアルゼス王国の奇襲攻撃に約百の兵で戦い彼以外全ての兵が死んだがリドルだけが生き残った事から付いた二つ名だ。
「ちなみに、ウィーナには有名じゃないけど疾風っていう二つ名があるのよ」
「ああ、納得」
──ウィーナの速さなら疾風どころか光速でもいい気がするけどな。
レオがそのような考えているとウィーナが二人の前に戻ってくる。
「お待たせしました。リアーナ様、レオ、私に付いて来て下さい」
「わかった」
「早く行きましょ」
三人は今まで居た野営場所から二十人の騎士と共に近くの洞窟へ向かう。
「ここはガリレクスの地下水路に続いてますが、魔獣が多く活動している危険な場所です」
「魔獣が何で地下水路に繋がっている洞窟に居るんだ?」
「普段なら私と信頼できる部下数名で退治しているのですが……」
「なるほど、今回の騒ぎでそれが出来なかったという事か」
魔獣のいる理由がわかったところでレオは次に大事な質問をする。
「種類は?」
「主にワームやレッドバットなど普通の洞窟にいる魔獣と変わりません」
「わかった。リアは俺の後ろに」
「レオ……気をつけて」
「ウィーナ案内を頼む」
レオ達は緊張した面もちで洞窟に入っていく。
「リアーナ様気をつけてください。来ます」
洞窟に入ってから数分ほど歩くとウィーナが突如リアに注意を促す。
ウィーナは素早く祝詞を唱え、戦闘態勢に入る。
「レオ、前を頼めますか?」
「ああ、わかった」
「出来る限りフォローはします。なるべく体力を温存していてください」
会話が終わると同時に辺りからバサバサという翼を閉じたり開いたりして鳥が飛ぶような音が聞こえてくる。
レオとウィーナはほぼ同じタイミングで駆け出し、一瞬でリアの前から姿を消した。
「レッドバットが十、ワームが五か……」
「レオはワームを、レッドバットは私が相手をします」
「わかった。終わったらすぐ援護に行く」
二人はまず、人の半身ほどの大きさの赤いコウモリがバサバサと飛んでくるのを視認する。
次にその奥から人より一回り大きい芋虫のような巨大な昆虫がのそのそと這ってくるのが見えた。
「ウィーナ、援護は任せた」
「わかりました。レオ、あなたの背中は任せてください」
ウィーナの返事を聞くと同時にレオは駆け出す。
コウモリ達はそれを阻むかのようにレオへ攻撃を仕掛けようとするが。
「させませんよ。あなた達の相手は私です」
ウィーナは一瞬にして槍を十回突き出してコウモリ達の気を引く。
それをレオは横目で確認すると更に速度を上げてワームに近付く。
「ハッ!!」
まず、目の前に居た一体の体を二つに切り裂き、飛びかかって来た違う個体を蹴りで吹き飛ばす。
「相変わらず人間離れしてますね」
レッドバットの相手をしながらウィーナはレオの戦い方に呆れる。
何故なら、ワームの重さは成人男性三人分ある。それを蹴り飛ばす人間はもはや人間ではないからだ。
「負けてはいられませんね」
ウィーナは一歩だけ前に踏み込みと神速で槍を動かし、レッドバットを二体串刺しにする。
それをチラリと目を動かして確認したレオは対抗心に火が付く。
「少し本気で行くか」
まるで、今までの動きが手抜きだったように呟き、レオは姿を消す。
いや、消したように見えた。
ワーム達は消えたレオに驚いてしきりに顔であろう場所を右へ左へ動かす。
そんな芋虫達をあざ笑うかのようにレオは天井を蹴って真下に居たワームを串刺しにする。
「ハァア!!」
串刺しにしたワームが息絶えたのを確認したレオは紫竜を引き抜く勢いと共に隣に居たワームを斬る。
その慣性を利用して最後の一体を切断し、ウィーナの援護に向かう。
「遅かったですね。こちらは終わりましたよ」
「ならリア達を呼びに行くか?」
「そうですね。あまり遅くなっても心配をかけてしまいますし」
二人は武器をしまい、リア達の居る所まで歩いて戻っていった。
レオ達は洞窟を抜けて地下水路を歩いていた。
「次を右に曲がった所に街へ続く階段があります」
「ああ、わかった。それで突入する順番は俺が最初に行くんでいいんだな?」
「はい。階段を上がるとすぐに空き家にでますから私の槍だと戦闘になった場合少し動きづらくなるんですよ」
「わかった」
「上に敵は居ないと思いますが気をつけて下さい、レオ」
ウィーナの声に頷いたレオは勢い良く階段を駆け上がる。
ドカッ。
階段の終わりにあった扉を蹴り壊すとレオはそのまま室内になだれ込む。
「…………誰も居ない、か?」
意識を集中させて気配を探るが誰も居ない事に気がつき、警戒を解く。
「ウィーナ、大丈夫みたいだ」
たった今上がってきた階段に向かってレオは大きな声をだす。
返事はこなかったが、一分後ウィーナ達が階段を登ってきた。
「リア大丈夫か?」
レオは兵士ではないリアが疲れてないかと気遣い声をかける。
「大丈夫よ、森で襲われた時に比べれば散歩みたいなものよ」
「はは、頼もしいな」
「レオもリアーナ様も少しは緊張感を持って下さい……」
ウィーナは呆れ顔でそう言うと騎士達に命令をする。
位置が離れていたレオとリアには聞こえず、二人は首を傾げた。
「それでは教会に向かいます」
そう言うとウィーナは扉を開けて走り出す。
「街に人が居ない……」
「今は戦時です。皆地下室に居るのでしょう」
空き家から裏道を少し走ると教会が見えてくる。
レオ達は教会に着くと中の様子を確かめながら戸を開ける。
「大丈夫そうですね。レオ、万が一敵兵が居る可能性があります」
「わかってる。まずは俺が行く」
紫竜に手をかけ、レオは協会に飛び込む。
「大丈夫だ。誰も居ない」
レオの言葉にリア達は安心して入ってくる。
「ハイト像はあそこです。早くしましょう」
ウィーナが急かすと三人の騎士がハイト像に近づいて力一杯押した。
ズズズズ。
石と石が削れる鈍い音をたてながらハイト像がゆっくりと動き、下から人一人がやっと通れるような階段が顔を出した。
「では、三人はここに残り万が一の為の脱出経路の確保。後は階段を行きます」
ハイト像を動かした騎士達が頷く。
「突入の確認をします。まずは私達騎士団が先に行きます。レオとリアーナ様は少し経ってから出発して下さい」
レオはその説明に首を傾げるが、ウィーナはそのまま説明を続ける。
「次に城内に入った後の作戦を確認します。まず、リアーナ様とレオは城内に入ってすぐ私達と別行動をとっていただきます」
「レオとウィーナは一緒に居た方が戦力になると思うのだけど?」
リアの疑問にウィーナは首を横に振る。
「城内の戦力は解っていので、全員が集まるのは避けて私達騎士団は陽動に回ります」
「でもそれじゃあウィーナ達が……」
「騎士が主を護るのは誓いです。その誓いの為に危険を負うのは当たり前なんです」
リアはその言葉を聞いて悔しそうな顔をする。
ウィーナとレオはそんなリアの表情を見て三人で交わした誓いを思い出していた。
「リアーナ様、この反乱が終結しましたら三人で買い物にでも行きませんか?」
「そうだな。ついでに食事にも行くか?」
二人は努めて明るく振る舞いリアを安心させようとする。
「……そうね。こんな反乱なんてサッサと終わらせてみんなで食事に行きましょ」
一瞬考え込んだリアだったが、明るいいつもの調子で微笑む。
「その為にはリアーナ様が王を助け出すのが絶対条件です」
「何かあるのか?」
「はい。実は首謀者のゲオリウスが抵抗するのなら王の処刑をする、と世迷い言を言い出したんです」
「なるほど。俺とリアは別行動をして王様の救出という事か」
作戦を確かめて理解したレオ達は話を終わらして階段を下りようとする。
その瞬間。
「なんだ? やっと着いたのかのぅ」
「誰だっ!!」
突然した声にウィーナは槍を構え気配のした階段の方向へ刃先を向ける。
同時にレオはウィーナを手で制し、声の主が敵ではない事を伝える。
「随分と久しぶりだな、ロー爺さん」
「えっ、ロードスさん?」
「ん? リア嬢まで居るのかの?」
リアが居る事に驚きながらロードスはゆっくりとした足取りで階段を登ってくる。
その光景にウィーナを含む騎士達があ然とした様子でロードスを見つめる。
「久しぶりじゃの。レオにリア嬢」
何事もないようにロードスは二人に挨拶をする。
レオは溜め息を吐く。
「……何で階段の下から出てくるんだ?」
「この方が面白いじゃろう?」
「面白いを通り過ぎて驚いたわ」
「大事な大仕事の前の軽い冗句じゃよ」
「「軽くない」わ」
ロードスのボケに二人してツッコミをいれているとウィーナが慌てた様子で会話に入ってくる。
「レオ、このご老人は?」
ウィーナから見たらロードスは得体の知れない人物なのだろう。明らかに怪しいモノを見る眼で彼を観察している。
「ああ、この人はロードス。俺の傭兵仲間だと思ってもらって構わない」
「ロードスじゃ。そちらのお嬢さんはウィーナ・アリアス騎士団長で良いのかの?」
「……どうして私の名を?」
初対面の相手に自分の名前を先に言われたウィーナは体を緊張させて警戒をする。
ロードスはその様子を見ながら楽しそうに口を吊り上げる。
「この国で最強の女騎士と言われている人物の顔と名前くらい誰でも知っているじゃろ?」
そう当たり前のようにロードスは言って敵じゃないと肩をすくめる。
「ウィーナ。ロードスは情報収集が得意なんだ。怪しいが悪い人間じゃない」
「そこは怪しくないと言って欲しいのじゃがなぁ」
「無理だ」
「……年寄りにもう少し優しくしてくれんのか」
落ち込むロードスを気にせずレオは重要な質問をする。
「それで、城の様子は?」
その言葉で空気が一変する。
「うむ。城内は戦力と呼べるモノは殆ど見あたらなかったの」
「それは本当ですか?」
「嘘を言って何になるんじゃ。しかし、奇妙な事に首謀者のゲオリウスは自信満々にふんぞり返っていたのが気になるよの」
最後の話にレオは一抹の不安を覚えた。
しかし、リア達の様子はレオのそれとは正反対のモノだった。
「首謀者は自信家であるゲオリウスです。王を人質にとった時点で勝ったと思っているのでしょう」
「そうね。その自信がどこから来るのか解らないけれどあのゲオリウスだものね」
「そうじゃの。噂通りの男ならばの」
その反応をレオは不思議に思ったがあまり気にせず話を元に戻す。
「それじゃあ予定通りにウィーナ達は陽動。俺とリアは王様の救出でいいんだな?」
「はい。私達は可能ならばゲオリウスを討ちますが、レオとリアーナ様は王の救出後はすぐに城から撤退して下さい」
「わかった」
「無理はしないでね、ウィーナ」
「ロードスの話が本当ならば無理はないと思います。しかし、約束もありますから無謀な事はしません」
ウィーナはそう言ってリアに微笑むと振り返り騎士達に向き直った。
彼女は騎士達の顔を順々に見ると一言だけ声をかける。
「何があっても死ぬな。私からは以上だ」
騎士達はその言葉に黙って頷き階段を下りていく。
「レオ、リアーナ様を頼みます」
「ああ、任せてくれ」
真剣な眼差しにレオは責任の重さを感じながら首を縦に振る。
それを見たウィーナは安心したような表情をして階段を下りていった。
「ロー爺さんはどうする?」
ウィーナを見送ったレオは教会の長椅子に座るロードスに質問をする。
「ワシは少し疲れた。ここで寝てる事にする」
「わかった。そのまま安らかに眠ってくれ」
「……お前さんはワシを殺したいのか?」
「半分は冗談だ」
「そうか。ならよいか」
「いいのっ!? 確実にもう半分は本気よ!?」
レオ達はくだらない会話をして時間をつぶし、三十分たった後二人は階段を下りて城に向かった。