優ちゃんは○学生
「行くよ、優ちゃん」
「うん。陽太お兄ちゃん!はい、手を繋いでね。お母さんが言ってたの、女の子は男の子を守ってあげるんだって!優ちゃんが陽太お兄ちゃんを守ってあげる!」
「はいはい、心強い騎士だね。オークに食べられないでね」
「オーク?」
そんな事よりも、お化け屋敷には二種類あると思う。怖いのと怖くないのの二種類だ。
某夢の国にあるような乗り物に乗って展示を見ていくのは怖くない。エンターテイメント感があるお化け屋敷は楽しい。
俺が怖いのは自分の足で歩かなくてはいけないお化け屋敷。
某遊園地のお化け屋敷のような自分で歩くのはダメ無理。それにストーリー性があるのもダメ無理。夜思い出すと泣く。
古いタイプのお化け屋敷であるような、人がお化けに扮して驚かせてくるのもダメなんだよな。分かっていてもビックリしてしまう。
ここ学園祭のお化け屋敷は怖いのだろう。
自分で歩き、人が絶対に驚かせに来る。
嫌だなぁ。
「薄暗いタイプか…」
中に入ると薄暗く、狭い一本道を歩いていく古いタイプのお化け屋敷に見える。
壁には習字で書いたかのような『呪』『恐』『蝕』の文字が並んでい…
ドゴーン!
その文字を突き破るように血塗られた手が出てきた!
「うわぁぁ!」
逃げるように走り出す。
だが、小さな声にハッとなった。
「痛い、陽太お兄ちゃん…」
「ごめん。手を強く握り過ぎたよね。ごめんね、大丈夫かな?」
「ううん、大丈夫だよ。いきなりだったから驚いただけ。痛くないよ」
ごめんよ。こんな小さい子に気を使わせて。
でも早くここから出たい。
この先も何回かこうやって驚かせてくるのだろう。ゆっくりなんて歩いてられない。
「優ちゃんが怖いなら抱っこして行こうか。うん、そうしよう。ほら抱っこ」
「陽太お兄ちゃんが怖いんじゃ…」
ジト目を向けながらも両手を伸ばし首に抱き付いてきた優ちゃんを抱っこした。
お尻と背中を支えて万全の態勢だ。
「陽太お兄ちゃん!後ろ!」
「後ろ?ぎゃぁぁ~!」
さ、貞子!貞子が居た!
優ちゃんをグッと抱き締め逃げる。
優ちゃんも怖いのだろう。
「きゃあ♡」
と俺の首すじに顔を埋めている。
その後も優ちゃんは「きゃあ♡きゃあ♡」と悲鳴を上げつつも嬉しそうだ。
あれだな、怖いを楽しめる子なんだな。
ジェットコースターでも「きゃあ~」って言いそうだ。
俺?ジェットコースターで叫ばないが?
陰キャはジェットコースターで叫ぶのが恥ずかしいんだよ!意地でも我慢する。そもそも遊園地になんて行かない。
その後も「うわぁ!」「きゃあ♡」と二人で言いながらゴールまでたどり着いた。
はぁはぁ、良かった、優ちゃんが居てくれて。一人ではリタイアしていたよ。
「陽太お兄ちゃん!怖い時はお母さんがチュウしてくれるの!優ちゃんにしてくれる?」
チ、チュウ?
いやいや、ダメだろ!
こんな小さい子どもにキスとか。
現行犯逮捕だろ!
「いや、俺からキスは出来ないんだ」
「なら優ちゃんがしてあげるね!陽太お兄ちゃん怖かったよね?チュッ♡」
あわわわ、俺悪くない俺悪くない。
誰か弁護してくれるよね?
「陽太さん…これどういう状況?もしかして…立ち抱っこでスカートの中で繋がってるの?えっろ♡」
おい!受付の子!
何言ってんだ!
駅弁スタイルで…じゃなくて、こんな子どもに欲情する訳ないだろ!可愛い子なんだよ。
衆人環視の中、実はワンピースのスカートの中で繋が…
…有りかもしれない。誰かしてくれる子はいるかな?
マズい。こんな状況で起たせる訳にはいかない。
ひとまず座るか。
ドカッと廊下に座ると、またしても受付の子が止まらない。
「流れるような体位変化なんてステキ♡やっぱりスカートの中で繋がってる♡私も座り抱っこ好きなのよね、攻めてるのにギュッと密着出来てこの子みたいにずっとキスしていたいわ♡」
「繋がってる訳ないだろ!バカな事言ってないで優ちゃんを離してくれるか?ほら優ちゃん、俺もう怖くないからキスしなくていいよ」
「もっとしたい♡こんなの初めてなの!お母さんとのと違うの!優ちゃん、陽太お兄ちゃんと結婚する!」
おいおい…
あれか!吊り橋効果か!
怖いドキドキと恋のドキドキがってやつか。
はいはい。
「う~ん。あと十年、いや六年経って優ちゃんが大人になって、その時に好きな人が出来なかったら結婚しようね」
「六年?もしかして陽太お兄ちゃん…優ちゃんの事、小学生か何かだと思ってない?優ちゃんこれでも中三だよ♡」
え゛?
え゛~!
騙された!皆も騙されたよな?
「小学生を放ったらかしにするお母さんなんて居ないでしょ?確かに成長は遅れてる気はするけど…チュッ♡ほらっ、優ちゃん今日オトナになったの♡スカートの中なんて…もがもごっ」
「小学生がそんな事言ってはいけません!」
「優ちゃん中三なんだって~!」
マジかよ。
「あー、居た居た陽太様、探しましたよ。時間になったら演劇部に来てくれないと。着替えの時間があるのですから」
もうそんな時間か。このあと演劇部の舞台に立つ予定なんだよな。
正直助かる。
「じゃあ優ちゃんまたね、また会う時があるか分からないけどバイバイ」
「優ちゃん絶対試験合格してこの学園に入るから!待っててね♡陽太お兄ちゃん♡」




