夜景の見える公園でキス
時刻は夕方。
「では参ります、陽太様」
このあと最寄り駅で千春を拾いショッピングモールに向かうようだ。
俺は後部座席で目を閉じた。
なんか変な感じがしたんだ。
千春は制服から着替えていて白いシャツと黒のスカートで可愛いさの中に大人っぽさもあるコーデだった。
俺も警護官に渡された白黒コーデに身を包んでいて後部座席に並んでも違和感はない。
正直、制服で出かけるとばかり思っていたから助かったな。
「到着しました。陽太様のお好きなお店にどうぞ。私が守りますから」
何十回と聞いたいつもの聞き慣れたセリフなのだが。
あれ?
いつまで待っても右腕に柔らかい衝撃が来ない。
警護官は俺のやや右後ろに位置して辺りを警戒している。これでは普通の警護官みたいじゃないか!
どうしたんだ?
左に千春が腕を組んで来て店をまわった。
「ヨータ?大丈夫?何か他の事に気をとられてるのかな?上の空みたい」
まずい、こんな可愛い子とデートみたいな感じなのに女の子にそんな事を言わせてしまった。
ちゃんと千春を見よう。楽しもう。
「「ごちそうさまでした」」
夕飯をレストランで食べた。
この時も警護官は半個室の入り口に背を向けて立ち、辺りを警戒していた。
一緒に食べないのか。何か携帯食のバーみたいなのを口にしていた。
この後は少し小高い丘にある公園に行く。
千春は入念にリップクリームを塗っていてこの後何が起こるかは想像できる。
あそこは夜景の見える公園で有名だしな。
前に千春に言った事があったな。「夜景の綺麗な公園でキスがしたい」と。
それを覚えてくれていたのだろう。
「おぉ、すごく綺麗だな初めて見たよ、街が一望できる」
「ヨータの方が綺麗、カッコいい♡少ししゃがんでくれる?」
「うん、俺の初めてもらってくれ」
ちゅっ♡
ぎゅー。
どのくらい抱き合い何回キスしただろうか?
千春の体温を感じて愛おしくなる。
「ねぇヨータ、真理さんの事は女として見れないの?」
「え?」
「ヨータが皆と仲良くしたいのには気付いてる。だから私が独り占めはしない。他の子ともキスしてもいい。そこに真理さんも入れてあげて」
ここまで俺の行動を見てきた人ならもう分かると思うが、俺は誰かと突出して仲良くなろうとはしなかった。
ギャルゲーでいうなら千春ルートを選べばもっと早くキスまで行けただろう。
だが好感度管理をして全員の好感度を平均的に上げるハーレムエンドを目指したんだ。
だけど真理さんは警護官で。
「真理さんは俺の警護官で、最初に言われたんだ、アナタは警護対象です。男としては見ていないと。だから」
「そんなの建前に決まってるでしょ!一年近く一緒に暮らしていて女を感じなかったの?」
「そりゃ感じるよ。いつも近いしお風呂上がりなんてタンクトップにショートパンツだよ!俺の性癖全部八十点の完璧ボディを見せられてるんだ。どうにかなりそうだよ」
「今日はどう思った?右側寂しくなかった?真理さんの事考えなかった?」
「それは…」
チラリと警護官を見る。
真剣な顔でこちらを見ていた。
そりゃ聞こえてるか。
「真理さんだっていつまでも若くないの。ヨータがダメなら次は無いかもしれないの。ダメならダメで早く言ってあげて。他の男性の所に行かせてあげて」
「他の男…なんか嫌だ」
「なら真理さんの所に行ってあげて、ヨータから抱きしめてあげて。ほらっ、行くの」
背中を押されて警護官の前に立たされた。
「あの警g…真理さん、聞いてたとは思うけど、これからはその、お付き合いを前提とした警備をお願いします」
なんだよ、お付き合いを前提とした警備って。
こんな時は何て言えばいいんだ。
そっと抱きしめると抱きしめ返してくれた。
これからは家でもこういったスキンシップが増えるのだろう。
「おまかせください、陽太様。では警備しますね」
ちゅっ♡
この人の警備はおかしい…
帰りの車内では俺一人が後部座席で二人は運転席と助手席だ。千春の家まで送る。
意外と前の会話は聞こえないものなんだな。
いつも車で繋いでいた右手を見る。
今日ずっと千春がくっついていた左腕を見る。
ないやい!
寂しくなんて、ないやい!
◇◇◇◇
「ありがとうございます。千春さんにも陽太様のクラスメイトにも感謝しています」
「協力したのですからお願いしますね」
「ええ分かっています。イベントやデートの邪魔はしませんよ。そしてエッチな写真ですよね?あとはゴミ箱の丸まったティッシュの写真でしたか。良い趣味してますね」
「それは私ではなくて、それよりこれからは一緒にハーレムを目指す仲間です。抜け駆けはしないでください」
「分かってますよ。特別警護官には越えてはいけないラインがあるの、物理的に首が飛ぶような事はしませんよ」
「本当かなぁ?」




