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第五十八話 俺は風邪をひく

 寒い越前から京へと戻った俺は風邪をひいた。

 くそっ、寒気がするぜ。鼻水も止まらん。

 ハックション!

 鼻水がずるずるだわ。まだまだやることが多いので長崎に帰るわけにもいかんからな。

 土佐藩邸で休もうとすると後藤に追い出された。


「今は土佐藩の中で徳川家に対する討伐派と新政府協調派で分かれてもめとるんじゃ。政治工作をしちょる貴様が顔を出したらややこしいことになるからしばらくどっか行ってろ」


 後藤の奴め。

 後藤にそう言って追い出された。

 つーか、あいつが中心になって大政奉還を進めてたくせに反対派には俺を盾に使いやがって。

 まあ、堅苦しい土佐藩邸に泊まるのは俺も嫌だけどな!


「坂本さんは命狙われてるみたいだから気をつけませんと」


 と、陸奥に言われているのでいざとなったら助けの呼べるように土佐藩邸の近くの宿に潜伏しているというわけだ。

 俺は倒幕のために頑張っているのに倒幕派の志士からも命を狙われるってなんだよ。

 馬鹿な奴らは未だに攘夷が出来ると思ってるらしくて、大政奉還を推進してた俺は勝先生との繋がりから開国派として攘夷派が狙っているそうだ。

 更に言えば大政奉還に反対の佐幕派も俺を狙っていると言う。

 紀州藩もいろは丸の時に賠償金を奪った恨みで狙ってるらしい。


 どないしたらいいねん!

 新撰組からも命狙われてるみたいじゃねえか。京都の町をろくに歩けねぇ。

 仕方が無いから命乞いに行く。

 新撰組の屯所? そんなの口開く前に斬られるわ。

 あいつらは幕府の犬だから幕府の偉いさんに頼めばいいんだよ。幕府にも公武合体派の大政奉還容認がいるからね。俺は勝先生つながりでコネもあるし。


 そういうわけで若年寄格の永井尚志様に願い出た。

 若年寄だぜ。凄いんだぞ。幕府では老中の次に偉いのが若年寄だ。普通は大名しかなれない。

 それがまあ今の情勢だから有能な人間を出世させるということで外国奉行の永井様が若年寄となったってわけだ。

 勝先生が長崎海軍伝習所で訓練してた時の総監ということだから勝先生の先生ってところだ。

 幕府の外国通、海軍通、軍艦通、ということで勝先生との縁も深いし大久保一翁のおっさんとも親しい。

 そこを通じてのコネというわけだ。



「慶喜公を新政府の総裁に推薦しますから新撰組に私の命を狙わないように言って下さい」

「ああ、分かった。お前の意見がどれだけ通じるか分からんが今は土佐の公武合体派の手を借りんといかんからな。薩長の奴らは調子にのって上様を辞めさせようとしておる。頼むぞ」

「分かりました」


 ふう。なんとか命乞いは出来たぜ。

 新撰組をちゃんと抑えてくれよ。




 数日後。


「うぉらぁぁっ! 待ちやがれぇ!」


 俺は新撰組に追いかけられていた。

 おいっ! 永井のおっさん! 話をつけたんじゃないのかよっ!

 くそっ! とりあえず逃げるしかねぇ。

 全力で京の町を走り続ける。


「待てッと言う取るんじゃ!」


 待てと言われて待てるかっ!

 そこの草が生い茂ってる川原に飛び込んで隠れながら逃げてやる。

 いくぞーーーージャンプ!

 土手になっているところから草むらに飛び込んだ。その瞬間に追いかけてきている新撰組の奴が何かを投げて来た。

 それが俺の後頭部に当たる。


「イタッ!」


 それほど痛くない。石とかだったら頭が割れてたぜ。

 しかし、急に頭に何かがぶつかったせいでバランスが崩れて着地を失敗した。

 ザバーンと水辺に顔から落ちる。

 草むらの下は川の水があった。遠くから見たらここまで水が来てるとは気付かなかったぜ。

 つうか、今は冬だぞ。

 つ、冷てぇ!


 思わず飛び上がった。

 冬の川に飛び込んだせいで凍えて死にそうだ。


「いたぞっ!」


 声のほうに振り向くと土手の上に新撰組の男がいた。目が会う。

 ヤバイ、目が血走ってる。殺される。

 腰を落として草むらの中に隠れた。腰くらいまでの高さの草むらなので隠れながら移動して逃げよう!


「おいっ、左之助! どうした!?」

「永倉かっ! ここに坂本龍馬が逃げ込んでな」


 新手か!

 ヤバイ、新撰組が集まってきてる。


「坂本龍馬? 昨日、局長が捕らえなくて良いと言ってただろ。どうやら上の方の指示らしいが」

「はぁ? 聞いてねぇよ」

「お前が聞いてないだけだ。ちゃんと俺の横にいただろ」

「あーーー? そうだっけ?」


 ………なんだあの野郎!

 永井のおっさんはちゃんと新撰組に話を通してたのに聞いてなかっただけかよ。

 くそっ、末端の奴らだったら間違えて襲って来そうだな。

 このまま見つからないように逃げるか。


 腰を落としてゆっくり歩き出すと足元に刀の鞘が落ちているのに気付いた。


「ところでなんでお前は刀を剥き身にしているんだ」

「さっき、坂本龍馬に投げつけたからな」


 これかい。さっき頭に当たったのは。

 チッ、どうせだから拾っていこう。後で探しても見つからねぇよ。返さねぇよ。

 鞘を拾うとそのまま腰を落としまま小走りで立ち去った。




 寒い。

 すげぇ寒気がしてきた。

 風邪をひいて治りかけてたところで冬の川に飛び込んだんだからな。

 やばいかもしれない。

 あ~、熱が出てきたぞ。


 ふらふらしながらなんとか近江屋にたどり着いた。

 中から元相撲取りの藤吉が出てくる。一応は俺の護衛だ。


「龍馬さん。お客人でふ。デュフフww」


 キモいなこのデブ。

 客なんか知らん。頭がくらくらするから寝たいんじゃ。

 つうか服が水浸しで寒いんだよ。冬にずぶぬれで帰って来たんだから異常に気づけよ!


「水も滴るいい男でゅふ」


 相手してられん。

 藤吉の横を抜けて近江屋の中に入った。

 すると中に1人の侍が座っていた。


「坂本様ですか」

「あー、そうだが、誰?」


 話をするのも面倒くさい。


「私は伊東甲子太郎と申すものです。実は新撰組が坂本様の命を狙っているという情報を得まして………」


 遅えよっ! 帰れっ!

 さっきまで新撰組に殺されそうになってたんだよっ!

 …………あっ、ヤバイ。もう限界。


 目の前が真っ暗になり俺は気絶した。 

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