第五十七話 俺は大政奉還がなされたこと聞く
俺は土佐を出発した。次に帰るのはいつになるだろうか。
もし俺の身に何かあったら妻のお龍のことを頼むと実家に頼んでおいた。
千葉道場の佐那子と婚約したんじゃないのか、向こうから婚約したという挨拶の手紙が届いているぞと言われたがごまかしておいた。どうしよう。
佐那子のことも嫌いじゃないんだよな。別に複数の妻をもってもいいんだから落ち着いたら迎えに行こうかな。でもお龍と佐那子が仲良くやれるのだろうか。それに家柄でいえばお龍は妾になっちゃうよな。うげぇ、凄い揉めそうだ。
よしっ。とりあえずは大政奉還と新政府について考えるのが先だ。
私事なんて後回しだぜ。現実逃避じゃないよ。
話によると薩摩も大政奉還案に乗ってきたらしい。
裏で武力討伐を狙ってるのは土佐と同じなんだけど、どうにも島津久光公が反対しているようだ。
そりゃあね、薩摩と長州でいきなり倒幕の兵を挙げても勝てるか微妙でしょ。
立場が上の人間ほど慎重になるってわけだ。
それで薩摩の大政奉還の責任者はやはり小松帯刀がやるようだ。薩摩藩の家老だしな。
準備は全て整った。
後は将軍である徳川慶喜がどう判断するかだ。
これが失敗したらもう武力討幕しかない。
慶応3年10月14日。ついに大政奉還がなされた。
俺はその報告を京都で聞いていた。
うぉぉぉっ!
歴史が変わったその瞬間を見た!
これで徳川幕府が終わったのだ。なんて、日だっ!
「ですが、朝廷に政治や外交が出来るとは思えません。実権は徳川家が持つでしょうね」
陸奥、水をさすな。
そんなことは分かってる。だからこそ徳川慶喜も大政奉還なんてしたんだからな。
それでも徳川将軍家と譜代大名の老中たちだけの政治は無理だ。
薩摩・土佐・越前・宇和島、まずはこの辺りの賢公と呼ばれる方らが政治に加わるだろ。
それから長州の復権、そして西郷や木戸あたりの頭が切れる奴らが国を動かすと。
まずは俺のやることは新政府の青写真を作ることだな。
それで俺は「新官制擬定書」という新政府の人事案を書いてみる。
ふふふ、こういうのは早い者勝ちだ。それっぽいのを早めに提出することで主導権を握ることが出来るぜ。
俺は書き上げた新政府の人事案を陸奥にみせた。
これの見所は議長の名前を○○○○とぼかしたところだな。まあ、誰が見ても徳川慶喜公が入ることになるんだけどそこはあえて明言しない。
これから薩長の武力倒幕派は慶喜公を新政権から追い出そうとする。逆に佐幕派と公武合体派は慶喜公を要職につけたいはずだ。両者にいい顔をするための書類だ。そしてその場の雰囲気で口八丁でごまかす。どちらに転んでもいいように立ち回るのだ。
俺って天才!
「坂本さん! この擬定書・・・」
陸奥が絶句している。
ふっ、俺の深慮遠謀に気がついたか。
「坂本さんの名前がないんですけど」
書き忘れたーーーー!
しまった! つい自分の名前を書き忘れたぜ。
人数数える時に自分だけカウントしないこととかよくあるよね。俺だけじゃないよね。
くそっ、恥ずかしいじゃねえか。
「さすがは坂本さんです。これだけ頑張ったのに新政府に入るのを拒否するなんて。常人にはとても出来ないっ! そこに痺れる憧れるっ! 新政府に入らないでどうするんですかっ!」
陸奥が目をキラキラさせて俺を見てる。
自分の名前を書き忘れたなんて言えない・・・。
「おっ、おう。せ、世界の海援隊でもするぜよ」
後でこっそり名前を追加しておこう。
「ちょっくら新政府に必要な人員集めに行って来るわ」
「坂本さんにそんな権限あるんですか?」
「俺は後藤にも西郷にも木戸にも懇意やきに。ちょいと頼めばなんとかなるぜよ。今は幕府の人間以外で有能な奴に集めないと」
そう言って俺は旅に出た。
まあ、狙ってる奴は松平春嶽公の配下なんだから俺がいかなくても普通に新政府に呼ばれるだろ。
しかし、俺が直接いって口説くことにより―――――新政府で出世したそいつが俺のおかげだと勘違いして優遇してくれる!
なんと将来を見越したコネ作り!
ふふふっ、さすがに俺は抜け目がないぜ。
「久しぶりやき。二十四!」
「なんですかその呼び名は」
「ああ、違った三八や。久しぶりやの、三八」
「私は三岡八郎です」
少し呆れたように三八が言う。
こいつは経済に明るく春嶽公の懐刀として優秀なんだが、攘夷派と仲良くしすぎてたから藩内の重役に疎まれて謹慎くらってんだよな。
三八と横井小楠の2人は新政府に絶対必要な人物だから春嶽公も引き立てるとは思うが、俺からも推薦しておくぜ。
こうして中央政府に強いコネを作るのが大事なんだぜ。
そんなこんな冬の寒い越前で一晩中話をした。
商売や経済の分かる奴と話をするのは楽しいわ。
武士はそのあたりが理解できない奴が多いからな。
そして翌日に春嶽公に拝謁した。
大政奉還で新政府を作るから京都に来て欲しいと後藤からの伝言だ。
裏で大政奉還煽ってたくせに驚いたような顔をしていやがる。
なんだかんだでこの殿様も狸だわ。