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第五十六話 俺は土佐に帰る

 イカルス号水夫殺人事件がひとまず解決した。

 というか土佐藩と海援隊の疑いが晴れて無罪となった。

 イギリス公使のパークスってやつは老中の板倉公とか土佐の容堂公にも談判してたらしい。執念深い奴だ。


 犯人は見つかってないが冤罪が晴れたならどうでもいいわ。

 大政奉還に関する政治工作を続けないとな。

 後藤によると薩摩藩の態度に変化が置きたそうだ。島津久光公が武力討伐の兵を挙げるのに難色を示したことや芸州の兵が揃わないことから薩摩・長州・芸州の武力討伐は延期になったとのこと。それで大政奉還の案も再考するということで薩摩の小松が責任者となった。

 でも、薩摩は武力討伐を諦めきれていない。



つーことで。


「後藤さんよ。ライフル銃1300挺ほど購入することにしたぜよ」

「はぁぁ!?」

「土佐も武力討伐に参加するかもしれないという意思を薩摩に伝えるぜよ。武力討伐と大政奉還の戦略を平行してやれば幕府にプレッシャーを与えて成功する可能性が高まる」

「武力で脅して幕府に大政奉還を飲ませる……なるほどの」

「そして容堂公にも大政奉還を認めないと武力討伐をするとプレッシャーをかけるぜよ」

「なんだと………龍馬、おんし、乾や中岡と会ったな!」

「ナンノコトデショウ?」


 この案は中岡慎太郎の提案だった。

 中岡は上士の乾退助と協力して陸援隊という組織を作り上げている。陸援隊はいざというときの倒幕の兵であり容堂公の公武一体路線からは外れているものの存在を許されていた。容堂公は倒幕はしたくないが将軍の徳川慶喜がしている幕府単独の政治は改革したいという考えだ。雄藩連合による政治は何度も失敗したのに諦めきれないらしい。酔うと「慶喜と幕府を倒せ」といい醒めると「朝廷と幕府が協力して政治を」なんて言う。

 そんな風にはっきりしない容堂公に対して野党的立場から圧力をかけているのが陸援隊だ。

 海援隊はコネを使い武器を陸援隊に融通して協力することになった。



「勝手なことばかりしやがって。大殿と乾や他の重臣に挟まれた俺の気持ちが分かるか」


 中間管理職の悲哀だな。


「まあ、とりあえず武器を渡しに土佐に行くぜよ。なんなら容堂公を説得してみてもいいぜよ」

「ぬかせっ!」


 こうして俺は土佐に帰ることになった。

 脱藩してからだから何年ぶりだろう。四年か五年か………。





「龍馬、久しぶりじゃのお!」

「権平兄ちゃん、老けたの!」


 土佐に帰国した俺は中岡慎太郎と会いライフル銃を渡した。

 目的はこれだけでトンボ帰りとなるのだが、一応は実家に顔を出そうと思ったのだ。

 こんな時代だ。いつ死ぬか分からんからな。これが最後になるかもしれんし。


「龍馬!」


 目に涙を浮かべた乙女姉ちゃんが俺を見ていた。

 離婚して実家に帰っていたんだったか。俺は乙女姉ちゃんに育てられたようなものだ感慨深いな。


「おんし、本当に………ぐすっ………禿げたね」


 うるせぇっ!

 頭髪がちょっと薄くなっただけじゃ!

 三十歳を超えたら誰でもちょっとは薄くなるんじゃ!

 若ハゲじゃねぇ!


「乙女、龍馬は大仕事をやっとるんじゃ。苦労もしとるしハげても仕方ないぞ」

「そうですよ。龍馬さんは立派な大仕事をしているんです。ハゲくらいなんですか」

「龍馬おじちゃん、ハゲてもかっこいいよ!」


 権平兄ちゃんだけじゃなく、千野義姉さんに春猪まで!

 ハゲじゃねぇ! ちょっと薄いだけじゃぁぁぁぁ!!!!





 家族団らんを過ごした後で土佐藩の家老の家に招かれた。

 大政奉還の政治工作もあるからな。福岡孝弟という家老で薩土盟約にも参加して大政奉還の策を勧めている人だ。後藤の盟友といったところだな。何度か会っているが政治的な話は後藤とばかりしているから深い話はしたことがない。


 家に招かれて大政奉還についての話を詰めた。

 どうやら容道公は大政奉還に前向きになったようだ。

 やっとというところだ。本当にこれまで長かった。やはり武器を購入して武力倒幕の準備をしてみせたことが大きいか。


 この後で後藤や福岡が連盟で将軍に建白書を出すということまで話は進んでいるようだ。

 後は最後の詰めと言うところだな。大政奉還がなれば新政府を作るということでそこで土佐の影響力を高めて幕府の影響力を低くするという政治工作が必要になる。

 まだまだ忙しいぞ。


「坂本殿に会わせたい人がおりましてね」


 福岡孝弟はそう言って誰かを呼んだ。

 ふむ。土佐藩の家老の誰かだろうか。俺の知ってる奴かな?

 待っていると襖が開き部屋に女性が入って来た。

 ふくよかな中年女性だ。

 武家の女性らしく品はあるけれどデブ―――もといふくよかだ。

 背は俺より三十センチほどは低いけれど体重は俺の1.5倍くらいありそう。


 彼女は正座をして礼儀正しく頭を下げると俺に話しかけてきた。


「お久しぶりでございます。坂本様」


 へっ?


「ふふっ。十九年ぶりですから分からなくても仕方がありませんね。龍馬君」


 はぁぁぁっ?


「驚いたかい。坂本殿。妻の田鶴が君の幼馴染だという話を聞いて驚いたよ。子供の頃に良く遊んだそうだね。妻の初恋が君だということで少し妬ける思いだ」


「嫌ですわ。旦那様」


 丸い物体が頬を染めてクネクネしている。

 信じたくはないが子供の頃に下田屋で一緒に遊んだ家老の娘の田鶴ちゃんのようだ。

 俺の甘酸っぱい初恋で十四歳の時に政略結婚で嫁いだ田鶴ちゃん。

 美しい思い出は思い出のままにして欲しかった。

 俺の初恋の記憶を返せーーーーっ!



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