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第五十三話 俺は薩摩と土佐の仲介をする

 神戸に日本で初めてのカンパニーが出来たそうである。

 小栗忠順が商人から出資を仰いで兵庫商社という会社を設立した。

 俺は言いたい。

 亀山社中こそが日本初だと!


「亀山社中は商人の出資もありましたけど、配当とかありませんし、薩摩からの支援がほとんどでしたからね。カンパニーというのは言いすぎかと」

 長岡謙吉がそう言った。


 ぐぬぬ。

 俺は一人で歯噛みしていた。

 くそう、忌々しい。

 小栗忠順は勝先生との政敵で先生を追い落としたという噂もあるし、フランスと手を組んで討幕派を武力で押さえ込もうとしているという噂もある。フランスに借金して軍備を整えるだと。そんなことをすれば日本はフランスの植民地になってしまうだろう!


「でも、薩長はイギリスから支援受けてますよ」


 それはそれ! これはこれ!


 とにかく小栗は敵だ。俺の中ではそう決まった。





「紀州藩からいろは丸の賠償金が取れたぞ。分割だからまだ一部だがな。この金で大洲藩に新しい船を買う。そしてその船を海援隊で借り受ける」

 後藤が悪い顔で報告してきた。

 ようやく話がまとまったようだな。

 五代才助、恐ろしい奴よ。弥太郎もまあ頑張ったかな。

 全部お膳立てしたのは俺だけどな!


「これでようやく海運事業が再開できるな」

「ふん、そんなものは些事だ。いよいよ大政奉還にむけて動き出すぞ」


 ああ。そうだった。それがあった。

 いろは丸の件が片が付いたことで山内容堂公が後藤の話を聞き始めたそうだ。

 とはいえすぐにOKが出るわけではない。いろいろな根回しはこちらの仕事。失敗したら部下のせいで切り捨てる。成功の目処がたったら最後の最後に殿様が出てくるという寸法だ。


「大洲藩との契約や大政奉還の計画のために一度京都へ行くぞ」


 京都か。新撰組とかいるからや嫌だな~。

 俺はしぶしぶ京都へと向かうことにした。




「おおーーっ、龍馬か。元気ですかーっ! 元気があれば何でも出来るぜよ!」

 すげぇ暑苦しく抱きついて来たのは中岡慎太郎だ。

 こいつ前より暑苦しくなってきてる。昔は理知的な奴だったのに………。


 中岡はあれから薩摩と長州と土佐を大宰府と入ったり来たりして顔を繋いでいたという。

 土佐では乾退助という上士と仲良くなり倒幕軍を作ろうとしているとか。

 薩摩の西郷や小松と懇意にしているとか。


「そういえば龍馬は海援隊ちゅーのを組織しとるらしいな。それにあやかって陸援隊を作ろうと思うとる」

 陸援隊というのが土佐の倒幕組織らしい。

 表向きは土佐の軍ではなく外郭団体。問題発生すればいつでも切り捨てられるという立場だ。まあ、それはお互い様で海援隊としてもいつでも土佐を捨てることが出来るけどな。


 いつの間にか倒幕熱血馬鹿になっていた中岡に大政奉還の話をするのは嫌だったが隠しておくわけにはいかない。いきなり斬りつけてくるほど脳筋にはなってないと思うが………。


「大政奉還か! 春嶽公が裏で動いちょるという話は聞いちょるが土佐も動か。これは面白いことになったのぉ」

「おんしは武力討伐を狙ってるんじゃなかったんか?」

「国を帰るには剛柔織り交ぜんといかんぜよ。最終的には武力で潰さないといかんが、その仮定で交渉の余地は十分あるぜよ。それに交渉には裏づけとなる武力がいるやき」


 がははははっ。と豪快に笑う中岡は一見すると脳筋豪傑風だが頭の切れは昔のままらしい。

 俺としては幕府内の勝先生や大久保さんと戦いたくはないから戦火は最小限にしたい。外国に付け込まれる隙になるからな。かといって戦無しで世が変わるというお花畑を信じてもいない。


「陸援隊には期待してるぞ」

「ああ、乾さんも頼りになるしいい人やき。おんしこそ後藤に気をつけや」

 中岡の台詞に頷く。

 後藤の奴は自己保身が第一だから後ろから撃ちかねない。下手に有能な味方だけに危険だ。

 乾って上士は話が分かる奴みたいで羨ましいわ。



「ところでこっちも話があるだが」

「陸援隊のこと以外でか?」

「ああ………」


 中岡は声をひそめた。


「薩土同盟を結ぼうと思う」





 慶応三年六月二十二日。薩土盟約が結ばれる。

 内容としては両藩で大政奉還を推し進めることが約束されていた。

 軍事同盟というほどのものではない。中岡としてはそこまでやりたかったようだが、容堂公は未だ公武合体に執着している。とはいえ四侯会議の失敗したということで慶喜公や幕府と協力して幕政に参加することは難しくなった。完全な討幕派の長州とは組めないが薩摩とは組めるという考えもあるらしい。

 後藤はそんな容堂公をうまくなだめて薩摩との提携を画策したとのことだ。

 もちろん武力倒幕ではなく大政奉還のための提携である。

 後藤はそのために京都の町を走り回っていたらしい。


 中岡が薩摩と連絡を密にして下地を作り

 後藤が大政奉還の必要性を解き薩摩を説得し

 西郷、小松がそれに同意して結ばれた盟約である。



 俺? 見てただけー。

 この話のタイトルに誤りがある? そんなのいつものことだ!





 そして薩長同盟の時と同じように薩摩の宴会が始まる。

 すぐに逃げれるようにしておかないと。土佐人も酒強いので有名だが薩摩は半端じゃねぇ。

 芋焼酎を水のように飲みまくる。


「そういえば坂本さんの奥さんはどうしています」

「今は長崎の信用出来る人に預けてるぜよ。坂本龍馬の妻となると狙われるかもしれんやき」

「仲が良いですね。。薩摩に連れてきてましたね、ハネムーンという奴ですか」


 小松と久しぶりに話をした。

 薩摩では世話になったしな。西郷も世話になったがどうにも西郷は苦手だ。

 小松は薩摩藩において大政奉還の工作責任者になるそうだ。薩摩藩の家老であり西郷なんかよりも身分が高い。それなのに付き合いやすい奴だ。


「ハネムーンか。すると俺が日本初のハネムーンを………」

「そういえば小松どんは安政3年に夫婦で新婚旅行に行きもうしたな。あれがハネムーンでごあすか」

 西郷に話を遮られた。小松は苦笑している。

 くそう、ハネムーンも先駆者がいたか。

 ぐぬぬ。





 薩摩藩との折衝を終えて長崎へと戻ってきた。

 大政奉還は土佐藩の方針として後藤がとりまとめていくことになる。俺も発案者の一人として後藤の手伝いをすることになるが、ひとまずは待機だということだ。

 少し手が空いたので海援隊の仕事でもしようと思ったのだが……。


「大洲藩の船の借り入れの実務で忙しいんです。話は後にしてください!」

 長岡が話を聞いてくれない。

 仕事を押し付けていたらいつの間にか俺のやることがなくなっていた。軒を貸して母屋を取られるというやつだろうか。


「師匠! 資料を用意しました。あっ、坂本さん邪魔です」

 陸奥の奴、いつの間に長岡を師匠と。

 つーか、お前の方が海援隊の先輩だろ。何を使い走りになってるんだ。


 大政奉還関係で政治的な仕事が多くて走り回ってたし、いろは丸の賠償問題で土佐商会に入りびたっていたから肩身が狭い。

 ええい、暇そうな奴はいないか。沢村とか?


「お前ら、陸援隊と協力して幕府を潰すぞ!」

 沢村は何やら軍事訓練をはじめている。

 相変わらず血の気の多い奴だ。


 海援隊の屯所は俺以外はみんな忙しそうだ。仕方が無い、出かけるか。


 俺は土佐商会に行った。



「龍馬、こんな忙しい時に何しに来たんじゃ。俺は後藤様から土佐商会を任されて大変なんやき!」


 キレ気味に弥太郎に怒鳴られて逃げてきた。

 どこもデスマーチだな。

 くそう、なんか俺だけ暇なのが負けた気がする。

 久々にお龍のところにでも言って来るかな。


 そう思い長崎の町を歩いていると見知った顔を見つけた。


「いいところで会った。溝渕さん!」

 これはいい鴨だ。

 奴は暇なはず。遊び相手になってもらおう。


 俺は京都での活躍を溝渕に語って悦に入ることにする。


「俺は薩摩と土佐の仲介をしてたぜよ。全部が俺の手柄やき。ああ、薩摩と何をするかは機密だから言えないがな」

「さすが龍馬じゃ」

 溝渕の感嘆に俺は調子に乗った。


「実は日本で初めてカンパニーを作ったのもハネムーンをしたのも俺だ。はっはっは!」

 

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