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第五十二話 俺はステマで賠償金を勝ち取る

 遊んだ。酒を飲んだ。綺麗なねーちゃんを呼んだ。金をばらまいた。

 そして歌を作った。


「紀州の船は~♪ 傍若無人~♪ 乱暴な航行で~♪ 船を沈めて金払わない~♪」


 この歌を流行らせろと金を握らせる。

 これぞ坂本龍馬のステルスマーケティング、龍馬ステマだ!

 がはははっ!

 ステマの恐ろしさを見せてやるぜ!



 次に知り合いに連絡を取り根回しをしておく。

 特に薩摩藩にはしっかりとな。土佐商会を通じて知り合った五代友厚とも連絡を取る。

 五代はヨーロッパに行って商売を学んだ武士という異色の経歴の男で商売上のトラブルに関しても詳しい。いろいろと話を聞いておいた。


 さて、下準備が終わったところで交渉開始だ。

 紀州藩の船を操舵していた船長に会ってこちらの要求を突きつけてやる!


 ・・・逃げられた。



 おいおい、どうなってるんだよ。船長にすっぽかされたじゃないか。

 これどうなっちまうんだ。

 焦る俺に対して五代は落ち着くように忠告した。


「相手にやましいことがあるから逃げるんだ。ここは強気でいけばいい」


 なるほど。その通りだな。

 俺は紀州藩の藩邸に対して強気で抗議した。

 こちらには航海日誌という証拠と生き残りの船員の証言があるのだ。どんとこい。

 へいへい、紀州藩、びびってる~?



 紀州藩の反撃。

 家老が登場していろは丸が悪いという証拠と証言を提出してきました。



 ね、捏造じゃーーー。


「そちらが引くなら見舞い金として100両くらい出そうじゃないか」


 憎たらしげに紀州の家老が言う。

 いろは丸の損失はそんなものじゃどうにもならん。

 交渉の根回しで既に100両くらい使ってるわ。

 交渉は平行線に終わった。


 しかし、交渉の席につく人物の貫目では完敗だ。

 御三家紀州藩の家老と土佐藩の外郭団体の責任者では前者の権力に押し切られる。

 ここは俺だけじゃ話にならん。

 どうにかして後藤を引っ張り出す。

 その為には――――話を大事にする!



 ステマが効いた。今やいろは丸の賠償金交渉は庶民の注目の的である。紀州藩の悪口も流布しているので今や紀州は悪者だ。そして話は土佐対紀州という藩同士の面子をかけたものだという噂が流れ始めている。全部俺のステマだ。

 根回しも効いた。大物志士や果てや大名までがこの事件に注目し始めた。そのせいで事件のことは山内容堂の耳にも入っているはずだ。



「――――大殿から貴様の尻拭いをしろと言われた」


 不機嫌そうに後藤が言う。

 ミッションコンプリート。


 責任を俺と弥太郎に押し付けて高みの見物をしたかっただろうがそうはさせないぜ。

 まあ、こっちもいろいろと作戦は練っている。

 今回はどっしりと構えて交渉の顔になってくれればいい。


 だが、予定外の事態も起こっている。


「龍馬、怪しいやつがうろついてるぜよ」

 沢村の言葉で気が付いた。

 もしかして俺って狙われてる?

 どうやらステマで紀州藩を侮辱した歌を流行らせたために恨まれているようだ。紀州藩の上層部は問題にならないように押さえつけているようだが、下級武士が俺を殺そうと狙っているらしい。

 やりすぎたか・・・・・・。


 そのせいで土佐商会や海援隊の屯所は護衛を増やして防備を固めている。

 なぜか沢村が楽しそうだ。




 さて、紀州藩との交渉が再開された。

 こちらは責任者として後藤を引っ張り出した。

 後はお互いの航海日誌を突きつけあい矛盾点を指摘してロンパするという戦いがまっている。

 だが、相手は紀州藩だ。権力でごり押しされたらたまらない。世間の注目をあびていて下手なことは出来ないとはいえ追い詰めすぎると危険である。

 なので紀州藩が文句を言えない審判を用意した。


「ワタシはイギリス海軍の提督デース。日本では海難事故の判例がノットということなので手助けにキマシータ」


 紀州藩は怪訝な顔をしている。


「では、国際法にのっとって話し合いするぜよ」

 俺は万国公法の本を取り出す。国際的な取り決めの本だ。

 もっとも日本の法では細かいことは決まっていない。慣習としては当事者同士の話し合いで示談するのが基本だ。それがまとまらないとお上の一存で決まる。

 今回の場合はもめてるのが藩同士なので幕府も強硬に沙汰をくだせない。今の権威の落ちた幕府ならなおさらだ。そうすると大藩の紀州有利となってしまう。

 そこでイギリス海軍の提督と万国公法という大義名分を持って勝負するのだ。


 不意をくらった紀州藩はのらりくらりと話を交わして交渉は次回に持ち越された。

 これも計算の内である。



 その次の交渉の席。

「我々は紀州藩の交渉担当を彼に依頼することにした」

 紀州藩の家老がドヤ顔で連れを紹介してきた。

 この国でもっとも国際法に詳しいと言われている人物の一人だ。彼が敵にまわれば俺らの勝ち目は薄いだろう。


()()()()()()。薩摩藩士の五代友厚と申します。このたびは紀州藩の交渉担当になりました」

()()()()()()。土佐藩士の坂本龍馬ですきに。詳しい話は横の岩崎に聞いてください」


 俺と五代はお互いに初対面の挨拶を交わした。


 いわゆる出来レースです。

 こちらの息のかかった五代を紀州藩が雇うように誘導していたのだ。

 一見すると五代は紀州藩の味方であるが、最終的にこちらが勝つように誘導してくれる手はずである。

 これの下準備にいろいろ駈けずりまわったり金ばら撒いたりで大変だったわ。


「それではこちらが航海日誌です」

 五代が紀州藩の航海日誌を取り出した。弥太郎がいろは丸の航海日誌を取り出す。

 後の細かい実務は弥太郎に丸投げだ。俺の仕事は終わった。

 交渉は終わってないが99%勝利は確定しているのだ。




「これで肩の荷が下りたぜよ。後は任せるぞ、弥太郎」

「龍馬も手伝え」

「そうだな、また飲み屋で紀州藩を馬鹿にする歌でも流行らせるかな」

「そんなことばかりしとったら紀州藩士に斬られるぜよ」


 交渉が有利に進んだ帰り道だ。

 弥太郎や護衛たちと土佐商会に向かって歩いている。

 俺はすっかり仕事を終えた気分で気が楽だ。弥太郎はまだまだ仕事が残っているから仏頂面であるが。

 そこへ前方に見たことのある男が歩いているのが見えた。


「おっ、溝渕さんじゃないか、元気じゃったか」

 上機嫌だった俺は声をかける。溝渕も俺を見てかけよってきた。


「実はの、龍馬。この間のおんしの話に感銘したんじゃ」

 なんの話だ?

 溝渕とは大した話はした記憶がないが。

 愛想笑いをしながら記憶を探る。


「ほらっ、実戦で一番役に立つのは刀でも小太刀でもなく銃やと言っておったろうが」

 ああ、そんな話をしてたっけな。

 昔、佐那から小太刀を教えてもらってた時に小太刀最強とか言ってしまったから、それを打ち消すために銃最強と言ったんだったな。確かにあの時は銃のお陰で命が助かった。


 俺がそのことを思い出して物思いに耽っていると、溝渕は自分の懐に手を入れた。

 そしておもむろに懐から短銃を取り出した。


「どうじゃ、長崎の武器商人から護身用に手に入れたんじゃ。高かったぜよ」

 溝渕は喜色満面である。

 俺に自慢したくてしょうがなかったらしい。


 そんな無邪気に喜んでいる溝渕を見ると少しいじわるしたくなる。

 俺はわざとらしくため息をつくと肩をすくめた。

「それは古いぜよ」

 俺は懐から本を取り出す。いろは丸事件を解決に導くことになるであろう万国公法が書かれたものだ。

「あらゆる戦いで一番役に立つのは知識ぜよ」


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