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第五十話 俺は海援隊を作る

 俺は後藤象二郎と組んだ。

 それは土佐藩と山内容堂公と組むことに他ならないのだ。


「土佐藩も意見が割れておっての。大殿は四侯会議の開催に心を砕いておる」

「四侯会議とはなんぜよ」

「先年の末に帝がお隠れになったであろう。それで先帝の反対により棚上げにされておった神戸開港について話し合いをすることになったんじゃ」

 後藤が説明する。


 今は慶応三年の一月である。一月ほど前である慶応二年の十二月末に孝明天皇が亡くなったのだ。

 今の尊皇攘夷運動は孝明天皇が病的な異国嫌いであることが発端であるともいえる。

 攘夷自体は欧米のごり押しの条約とか不景気とか天災とかで自然発生したものではあるが、それが尊王思想と結びついて尊皇攘夷というスローガンになり倒幕運動にまでつながる。尊王思想と攘夷思想を繋いでいたのが孝明天皇という存在であったと言っていいだろう。


 その孝明天皇が死ぬまで反対していたのが神戸開港である。京都から近い神戸を開港するのだけは絶対反対だったようだ。しかし幕府は神戸開港すると各国に約束しており調整に苦労していたのだ。

 孝明天皇が亡くなったのでこれ幸いとばかりに神戸を開港するのだろうか。


「神戸の開港は国際問題であるからな。幕府だけでは手に負えないということで松平春嶽公、伊達宗城公、島津久光公、そして我らが大殿の四賢候と呼ばれる方々が将軍と会議をすることになったんじゃ。これを皮切りに雄藩連合による政治を推し進めたいのが大殿の考え」


 それが上手くいけば俺の出番はなくなってしまう。

 薩摩の久光公が関わっているということは薩摩も手が出せない。西郷や大久保は一気に倒幕運動に持って行きたいところだろうが上が反対してるから身動き出来ないだろうな。

 長州としては幕府の力が制限されたとしても日本という国がまとまったら、異分子である長州がつまはじきにされる危険性はある。薩摩が長州を裏切る可能性もゼロじゃないしな。


「土佐の上士の中にも独自路線を進むもんがいる。乾退助が中心となって薩摩や長州に接近して倒幕を目指そうとしている。おぬしの同志の中岡慎太郎が乾の手足として走り回っておるそうじゃ」


 中岡の奴はそんなことをしていたのか。


「俺の仕事は長崎での貿易の手伝いじゃな。土佐商会を管理しているが政治的には勢力は強くない」

「つまりどういうことぜよ」

「俺に動かせるのは土佐ではなく土佐商会くらいだってことだ。大政奉還の案は大殿は聞いたこともないだろうな。まずは土佐の中での発言力を高めんといかん」


 がっかりだよ!

 後藤と組んだことで土佐藩を手中に収めた気がしたけれど、勘違いでした。


「だから薩摩の借金はなんとかせいや」

「それはなんとかなりそうぜよ」

 そう、借金はなんとかなりそうだ。

 亀山社中に金が回らなくなったのは薩摩の紐付きになったからだ。

 それが土佐も後ろ盾につくとなったことで商人達が金を貸してくれるようになった。薩摩への義理は残ってはいるけれど薩摩にだけ縛られることはない。

 借金が残ってはいるのだけど身動きがとれなくなっていた頃と比べるとずいぶん身軽だ。


「そうか。それなら安心して投資出来そうじゃな。土佐商会から亀山社中へ投資してやらんでもない」

「頼むぜよ。後藤さん」

「ただ、土佐商会は一筋縄ではいかんぞ。取り仕切っている奴が金にうるさいからな」

 後藤は口角を上げてニヤリと笑う。

 嫌な予感はするが望むところだ。

 返り討ちにしてやろう。




「おう。龍馬か。待ってたぜよ」

 尊大な態度で俺を出迎えたのは土佐商会のブレーンであり実質的に取引を仕切っていた岩崎弥太郎であった。

「お、おんしは栃面屋弥次郎兵衛!」

「誰が東海道中膝栗毛のヤジさんじゃ!」

「分かりにくいボケに突っ込んでくれてありがとう」


 久々の出会いを喜ぶ俺と弥太郎であった。



 土佐で弥太郎に商売のイロハを教えたのは俺である。

 あの頃の弥太郎は野心だけはあるが口先だけの青二才だった。

 それが土佐商会を仕切るまでになり…………。

「龍馬、こん荷物を神戸まで運べ。亀山社中の取り分はこれだけな」

 俺を顎でこき使うようになっている。


 弥太郎の奴は意外と商才がありやがり商品を転がすだけで利益をどんどん出している。

 亀山社中が今までに作ったコネも最大限に利用して商売を広げていきやがるし、俺と後藤の同盟で一番得をしているのは弥太郎だ。


 俺としても今は弥太郎の手足となって金を稼ぐしかない。

 大政奉還をどうにかするには山内容堂を動かさないといけない。そうするには後藤の土佐での立場を強化しないといけない。それには土佐商会を設けさせないといけない。

 その過程で亀山社中も利益を出して借金を減らし薩摩依存から脱却していくという計画だ。


 そんなわけでここ数ヶ月は商売人の真似事ばかりしている。

 なんだか自分が商人になった気分だ。

 それはそうとして一息ついて落ち着いたら弥太郎の奴はシメル。弥太郎のくせに生意気だ。



 一応は後藤と話し合いの場を持つことで自分が志士であることを思い出す。

 後藤との対談はむかつくことも多いが本音で話が出来るから盛り上がってくる。本当にこいつと俺は考えてることが似てるわ。立場が違うから目的は違うんだが。


 そんな折に後藤が話を持って来た。


「いい話が2つある」

「ほう。聞かせるぜよ」


「一つは亀山社中に船を用意できそうだ」

「本当かっ! 土佐藩が買ってくれるのか!」

 ようやく俺らの船が手に入るか。

 薩摩から大極丸を譲り受ける話はあるけれど伸び伸びになっている。これ以上借金を増やしたくないので話を進めていないのだ。

「用意するのは土佐藩ではない。大洲藩だ。大洲藩は船を買ったが操舵出来る水夫が用意できてないらしい。その船を亀山社中で借り入れる話が出てきた。船の名前は『いろは丸』だな」

 大洲藩か。

 どこでもいいや。船さえ手に入れれば。これで自由度がましていろいろ出来るぜ。


「二つ目は龍馬、おんしの脱藩の罪が解かれる」

「ほう。前にも勝先生の仲介で脱藩罪は許されたんじゃがの」

「その後に再脱藩したくせに。これで二度目の恩赦だ。三度目はないぞ」

 脱藩浪士だろうが土佐藩士だろうがやることには変わりない。

 まあ、武士相手に交渉するときに信用度が少しあがるかな。

「それにともない亀山社中を正式に土佐藩の外郭団体とすることに決めた」

「それはまずいぜよ。薩摩の手前もあるし亀山社中は独立性がないとあかん」

「落ち着け。建前だ。土佐藩の重役に話を通すために亀山社中を俺が牛耳っていると思わせないといかんのだ。安心しろ好きにしていい責任は俺が取る」

 容堂公を動かすには仕方ないか。

 いざとなれば後藤に罪を被せて逃げれば良いし。

 つうか後藤の奴は俺がそう考えるの見越して責任取るとか言い出したんだろうな。


「了解ぜよ。亀山社中は土佐藩との連携を強める」

「それで亀山社中の名前を変えることにする」

「ほう。なんという名前ぜよ」

 俺は後藤に聞く。

 亀山社中はその場の思いつきだし変えることに抵抗は無い。

 でも、変な名前は嫌だな。


「海援隊だ」


「海綿体?」


「違うわ。海援隊だ!」


「開演代?」


「海援隊だ! 武田鉄矢のフォークグループと同じ名前じゃ!」


「なるほど。海援隊か。そっから名前を取ったんだな」



 こうして亀山社中は海援隊となった。

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