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第四十五話 俺は念願の船を手に入れた・・・・が

 俺がお龍と新婚旅行を楽しんでいた間、長州藩は大変なことになっていた。

 幕府との戦争が始まろうとしていたのである。

 以前から緊張状態が続いていたが幕府がついに立ち上がったというこだ。薩摩がいろいろと工作していたんだけど上手くいかなかったらしい。



 体を十分に休めて休養も取ったし、そろそろ活動を再開しないといけないかな。

 いろいろと面倒ではあるが、俺がいないと始まらないからなー。

 薩摩も西郷もいざとなったら俺頼りか。


「坂本さんには長州にいって欲しいでごわす」


 西郷が俺にそんなことを言う。

 えーっ、戦争してるところに行くのかよ。


「長州が戦う時に助けると約束しもしたが、表立って援軍を送るわけにはいかんでごわす。なので坂本さーに兵糧を送っていただきたい」


 なるほどね。

 こういうときに亀山社中の船乗りの腕の見せ所というわけか。

 今までほとんど仕事してこなかった奴らに仕事がまわせるな。

 使う船はユニオン号でいいかな。長州名義だけど運用はまかされてるし。


「分かった。西郷さん、大船に乗った気でいるぜよ」

 俺は請け負った。




「龍馬さん、お友達から文が届いております」

 お龍が俺に手紙を渡してきた。亀山社中の沢村からである。

 薩摩を出て長崎に向かう準備をしていた俺はその手紙を受け取る。


 あと少しで戻るんだけどな。帰ってから話をすればいいのに。


 手紙を開いた。


 ”長州が戦争が始まったのでユニオン号の返還を要求しています。このままでは船がなくなり仕事が出来ません。どうしましょう”


 ぶーっ!


 ヤバイ。船がないと自力で稼ぐ手段がなくなってしまう。そうなると薩摩に給金もらうだけになる。

 薩摩とは手を組んでおきたいけれど、飼い犬みたいに縛られるのも嫌なんだよな。

 せっかく大きな仕事をしたんだから、もっといろいろ動きたいのに。


 俺は考えた。

 船が無くなるなら新しい船を買えばいいじゃない。

 購入資金は借金でいいや。薩摩に。




「西郷さん、話がやるやき」

「坂本さー、いいところに来てくれもした。亀山社中で船を買ってくれもはんか?」


 な、なんだって!

 そんな都合の良い展開っ・・・!


「支払いは後払いの分割でよか。これからも薩摩のために働いてくれもんそ」

 にこにこと笑顔で提案してくる西郷。

 これは善意が2割、打算が8割だな。

 借金でしばって亀山社中をいいように使うつもりか。


 ふっ、俺は金を借りてもまったく気にしない男だぜ。

 借りパクの龍馬と言われた男に不用意だな。


「感謝するぜよ。この恩は一生忘れんやき」

 よし、この船で北周りの貿易をやるぞ。北陸から蝦夷地まで行ってきてやる。

 昔、断念した蝦夷地の開発にも手がけるかな。

 いやいや、こうなったら香港まで行っての海外貿易!

 むしろ太平洋横断でアメリカまで行ってやる!

 夢が広がりんぐ。



 薩摩の金で購入した船はワイル・ウェフ号と言った。

 西郷が手を回して長崎で購入することになる。

 俺がそれに立ち会えなかったのは残念ではあるが、購入したワイル・ウェフ号は処女航海で薩摩にやってくるという。

 そこで日本風な名前を命名して俺を乗せて長州へ兵糧をつんでいくという手はずだ。

 楽しみだなー。



「ワイル・ウェフ号は洋式帆船で百五十トンもあるぜよ」

 俺は興奮してお龍に語る。

 船のことについてなら一晩中でも語れるぜ。


「それは千石船の何倍くらいの大きさですの?」

「せ、千石船と同じくらいの大きさ・・・」

「ユニオン号は?」

「三百トンだからワイル・ウェフ号の倍ぜよ」

「黒船は?」

「十五倍以上の大きさぜよ・・・」


 うん、海外行くのは無理!


 いやいや、これは最初の一歩。

 借り物の船でなく自分達の船がようやく手にはいったんだ。

 これで地道に国内貿易をやりつつ薩摩や長州に恩を売って、どんどん組織を大きくしてやるんだ。



 ワイル・ウェフ号の船長には土佐勤王党でいっしょだった池内蔵太が乗っているそうだ。

 船長は鳥取藩士らしくて俺は知らん。沢村が長崎で組織をどんどん大きくしてるらしいし。

 有能な人材を集めてるようで信用はしてるんだけど、俺の知らないところで亀山社中が大きくなってるのがなぁ。大丈夫かいな。




 ユニオン号とワイル・ウェフ号が長崎を出航して薩摩に来るという報を受けた。


 数日後、ユニオン号が薩摩の港へと到着した。


 ワイル・ウェフ号は来なかった。



 嵐にあって処女航海のワイル・ウェフ号は沈んでしまったのである。

 同士12人が海の藻屑と消えてしまった。


 こうして亀山社中が始めて手に入れた待望の船を、俺は一目も見ること無く失ってしまった。

 残ったのは借金だけであった。

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