第三十四話 俺は京都で桂や以蔵や新撰組と邂逅する
神戸の海軍塾が完成した。
とはいえ、幕府公認の神戸海軍操練所は建設中である。今回出来たのは勝先生の私塾である神戸海軍塾だ。俺たちは大阪の勝塾から神戸へと引っ越すことになった。
少し京都が遠くなったのがさみしい。俺のお龍が。
いや、まだ全然なびいて来ないんですけどね。手強い。
ただ最近は京も物騒で。前から物騒だったけど、今は少し違った形で物騒だ。新撰組という組織が尊皇攘夷派の志士を不逞浪士と言って逮捕してるのだ。政変で追い出された長州系の志士が、京に舞い戻って不穏な動きをしているとかなんとか。
俺は幕府高官の勝塾預かりの身だから大丈夫とはいえるが、土佐勤王党だし藩命に背いてる最中だし、心情的には尊攘派だしで、あまり新撰組にはかかわりたくない。
「坂本くん」
京の町を歩いていると声をかけられた。振り返ると汚い浮浪者だ。
「君も京で志士活動か?」
ん? どこかで聞いた声、見た顔・・・。
あっ、か、桂小五郎!
あのエリートがこんなに落ちぶれて。
「変装です」
いや、似合いすぎだ。誤魔化さなくていい。政変で浮浪者に落ちぶれたんだな。小遣いやるよ。
「ですから、変装ですって。長州の志士たちは未だに京で活動してるんです。そういえば土佐の人斬り以蔵も京にまだいるとか」
あー、忘れてた。以蔵か。
勝先生の護衛頼んでたけど、勤王党が弾圧され始めると逃げ出したっけ。いろいろと脛にキズを持ってたからな。
「坂本さんも気をつけて下さいよ。新撰組は恐ろしい奴らです」
桂はそう言って去っていった。
どうみても長州の上士には見えない。ただの浮浪者だ。
それに俺はお龍に会いに来ただけなんだどなー。
桂と別れてしばらく歩いていると、また声をかけられた。振り返ると汚い浮浪者だ。
汚い浮浪者だった。
知らない奴だ。
きっとそうだ。
「人違いやき。俺は伊達小次郎という紀州藩のサムライぜよ」
嘘は通用しなかった。
声をかけて来たのは以蔵だ。ホントに汚い浮浪者になってた。
助けを求められたがどうしようもない。実際、人斬りしてたんだもんな。京から逃げろとしか。
仕方が無い。少し金渡して京から逃がすか。
と、俺がそう考えた時に前方から薄い青の羽織を来た集団がやってきた。新撰組だ。
以蔵は慌てて逃げ出した。
あ。こら、すげぇ不審者だぞ。
案の定、新撰組は以蔵を追いかける。金渡せなかったな。大丈夫だろうか。
見送る俺に新撰組の奴が声をかけてきた。
「失礼ですがあなたは?」
「土佐藩の坂本龍馬ぜよ。今は幕府の海軍操練所で海軍の仕官生をやっている」
ふん、身分はしっかりしてるんだよ。
「では、あの男とは何を話してのでしょうか?」
「金を恵んでくれとしつこいから、金をやろうとしたらいきなり逃げちまった」
「・・・そうですか。あの男は指名手配の岡田以蔵という人斬りです。次に見かけたら新撰組の屯所までお知らせいただきたい。私は沖田総司と言いますので、御用の際は私を呼んでいただければ」
誰が新撰組の屯所とかあぶないところに近づくものか。
まあ、適当にお茶をにごしてその場を去った。
「・・・と、今日はいろいろなことがあったぜよ」
俺はお龍に今日の道中のことを話した。
「へぇ、坂本さんは凄いどすなぁ」
お龍は関心する。
「有名な長州藩の桂殿と懇意で攘夷について会談して、人斬り以蔵を命がけで逃がして、追いすがる壬生狼を蹴散らすなんて」
ほんのちょっとだけ話しを脚色したけれども。




