第三十三話 俺は勝塾で陸奥と出会う
歴史MEMO
文久三年七月 薩英戦争
文久三年八月 禁門の政変、七卿落ち
平井と間崎が切腹になった。
これは少なからずショック。まさか切腹させられるとは。
確かに間崎たちは容堂を裏切った形ではあるが、あっさりと切り捨てるところを見ると非情な男だ。それも自分に逆らう奴は容赦しないタイプだな。
土佐勤王党もどうなることやら。
一方、勝塾の方はそれなりに順調だ。
神戸の方に塾の建設が始まっている。俺が春嶽公から奪ってきた金でな。
塾生の方もだんだんと増えてきて活気が出てきた。大阪の勝塾も手狭になってきたし、早く神戸に移りたいぜ。
その増えた仲間におかしな奴がいる。
「土佐藩士の伊達小次郎です」
土佐で見たことが無い。
というか土佐弁じゃねぇし。紀州の方の方言だろ。
「まあ、いいじゃないですか。坂本さん。私は土佐藩が気に入ったので土佐藩士ということにしときます」
そんな勝手に藩士になれんっつーの。
どうやら脱藩浪士らしい。勝塾はこんなのばかり集まってるような気がする。
小次郎は学問が得意で優等生だったが、才を鼻にかけるところがあり、周囲から浮いていた。勝塾の嫌われ者TOP3に確実に入ってるな。ちなみに長次郎もTOP3の一角だ。あいつは元町人の癖に侍を見下すようなことろがあるから。
小次郎に長次郎、次郎という名前がついてるのは縁起が悪いのかね、変な共通点だ。
「共通点といえば二人とも坂本さんに懐いてますね」
こら、薄々気づいてたが、認めたくないことを指摘するな。亀弥太!
俺には変人を引き寄せるなにかがあるのか!
一方その頃、もう一つの出会いがあった。再開というべきか。
勝先生の使いとかで京都に何度か足を運ぶ機会があったのだが、京都で泊まった宿の飯炊き女が半年ほど前にヤクザ者とケンカしていた龍という娘だったのだ。
「いやぁ、奇遇やのぉ。むしろ運命ぜよ」
「どなたです?」
覚えられてねー。
説明すると。
「佐那之丞さまの隣にいた方ですね。佐那之丞さまはお元気で?」
なんか、佐那に負けてる!
男として何か悔しい!
俺は意地になって口説いた。あまり芳しくはなかった。
楢崎龍というこの娘、美人だが気が強くはっきりしている。どうも俺みたいなのをあしらうのに慣れてる様子だ。
長期戦じゃー。
俺は京都に行くたびに龍の宿に泊まることにした。
そんなこんなで日々は過ぎ。海軍塾も順調かと思えた。
だが、あるニュースが入ってきてそうとも言えなくなる。
武市半平太投獄!
土佐勤王党のトップが逮捕ってヤバイヤバイ。俺も勤王党だし亀弥太も沢村も太郎も勤王党だ。
案の定、俺たちに土佐から帰国命令が出された。
帰ったら逮捕だろうし、なんとか逃げたい。勝先生に頼む。
次々と勤王党のメンバーが逮捕されたという情報が入ってくる。
うーん。
「こんにちは、薩摩藩士の陸奥陽之助です」
小次郎が現れた。
おい、土佐藩士じゃなかったのかよ!