第三十話 俺は大阪へ行き仲間を集める
「勝先生の元で海軍を作るきに、大阪に行ってくるぜよ」
「龍さん、頑張って来いよ」
「お気をつけて下さい」
俺は出立の挨拶をして千葉家を後にした。
勝先生は海路で先に大阪入りだが、俺は長次郎と陸路で歩いて大阪へ向かう。途中で海軍の練習生を集められるだけ集めて来いという指示も受けた。
さて、江戸をたちこれから新たな門出だ。
「で、なんで一緒についてきてるんです」
「勝殿から用事を頼まれてね。龍さん」
重太郎がおかしそうに言う。
え? どういうこと?
「私は以前から勝殿とは親交があって、いろいろと協力してるんです」
ということはなんだ。
間崎に頼んで春嶽公に紹介状貰ってとか会う為にやった苦労は全部無駄かい。最初から重太郎に頼んでおけば一発だったわけかい!
「龍さんが勝殿に会いたいとか聞いたことなかったからね」
千葉家にいるときは仕事忘れてノンビリしたかったんじゃー。
ああ、何という灯台元暗し。
とはいえ、重太郎はいい。重太郎はいいんだ。
問題はもう一人の方・・・。
「佐那までなんで!」
「今は千葉佐那之丞とお呼び下され」
男装姿でついてくる佐那。
いやいや、おかしいだろ。どう見ても!
「まあ、俺の用事についてくるだけから気にするな」
「そ、そうです。別に龍馬さんのことが心配だからじゃないんですからね!」
なんだかなー。
京は天誅とかで治安が最悪だから、刀を持って自衛出来る男装姿がいいということらしい。まあ、佐那の実力なら刀あれば暴漢を返り討ちに出来るけれども。
「なんか相変わらず女性にもてますね。坂本さん」
その様子を見て呆れるように言う長次郎。
「長次郎さん、土佐での龍馬さんのことを詳しく」
余計なことを言うなよ! 長次郎!
大阪に着いた。
「では、俺は先に勝殿のところへ行く。では元気でな。龍さん」
重太郎とは大阪についてすぐに別れた。
「で、佐那は重太郎とは行かないのか」
「私は龍馬さんと一緒に行きます。後で兄上と合流してから江戸に帰るつもりです」
仲間集めで忙しいのだが・・・。
だが、なんか嬉しそうな佐那をみると付いて来るなとも言えない。
とりあえず長次郎と佐那をつれて土佐藩邸へ同志を募りに行こうとすると、道中で騒ぎに出くわした。なにやら若い女性がヤクザ風の男たちとケンカをしている。
「いいかげんに妹らを返さんか! 騙して連れ去ったのに、こっちは金を用意してきたんだ!」
「十両程度で返せるわけなかろう。二十両はいるな。それとも別嬪な姉ちゃんが身代わりになるかい」
激昂する女性に下卑た笑いを浮かべるヤクザ者。すると女性は懐から小刀を取り出す。それを見てヤクザ者たちも目を光らせ身構える。
整理するとあの娘の妹がヤクザ者たちに騙されて連れて行かれたから取り戻しに来てケンカになったということだな。刃傷沙汰はやばいな。止めるか。
と、さすがに俺も刃物はヤバイよと止めに入ろうとする。
別に娘が美人だったからじゃないよ。
しかし、俺が止めに入ろうとした手前で先に飛び出したものが居た。
「止めなさい!あなたも落ち着いて! ここは彼女の妹さんを返してやりなさい。それでケンカを収めましょう」
「ふん、ヤクザ者はなめられたらおしまいだぜ。お侍さん」
「では、北辰一刀流の免許皆伝の私が娘さんの助太刀にまわりますが、よろしいのでしょうか」
「・・・十両で許してやるよ!」
ヤクザ者は折れた、娘の妹を返す。
娘は二人の妹と再会すると涙を流して抱擁した。
「ありがとうございます。お侍さん、私は楢崎龍と申します」
「お龍さんね。妹さん達が助かって良かったですね」
「はい!」
満面の笑み。ふうむ、笑顔はより美人だ。怒った顔も可愛かったが。
「それでお侍さんのお名前は?」
「千葉佐那・・・之丞と申す」
「佐那之丞さま、私、あなた様に惚れてしまいましたわ」
白昼の往来での堂々とした告白に佐那は絶句した。
「いやあ、佐那之丞さまはもてますなぁ」
「りょ・う・ま・さ・ん」
佐那が睨む。
しかし、あれは傑作だった。慌てふためいて逃げる佐那とか滅多に見れないものが見れたぜ。
道中佐那をからかいつつ、大阪の土佐藩邸に到着した。
俺は脱藩中の身だが、勝先生の弟子ってことで話は通してある。吉田東洋一派も完全に失脚して俺に追手を出すこともないようだ。
「久しぶりぜよ。みんな元気にしちょったか」
ほぼ一年ぶりに会う勤王党の仲間たちである。
再開を懐かしがった後で、俺は勝塾へと皆を誘う。
「幕府の海軍塾というても、俺らは幕府の兵になるわけではないぜよ。幕府の金で軍艦の操縦を学んで将来は勤王党で海軍を作るぜよ」
まあ、こんくらいの方便は。
しかし、反応がイマイチ。やはり幕府嫌いが多いからな。
「いざとなれば俺が幕府の軍艦を奪って夷敵を討つぜよ。それを一緒にやってくれる仲間がいるぜよ」
口から出任せ。
「いやぁ! 偉い。さすが龍馬」
ふいに後ろから声が聞こえた。薄汚れた浪人・・・沢村だ。こんな汚くなって。
「攘夷のために幕府軍を利用するなど、良い案だ。俺も乗るぞ。ところで飯と給料は出るのか?」
落ちぶれたなぁ。沢村。
こうして、沢村を仲間にした俺は度重なる説得の上、望月亀弥太・千屋寅之助・ 高松太郎の三名を勝塾に引き入れた。
沢村、亀弥太ら、四人を勝門下生に引き入れた俺は勝先生の元へ挨拶しに行く。
「俺はまた江戸に戻るよ」
なんかいろいろ忙しいようだ。
全員で神戸に向かい船で江戸へ帰ることになった。
往復、二月ほどの旅だったが収穫は大きかったと思う。
神戸から出た船は下田に着いた。重太郎と佐那は先に江戸に帰ることとなり別れる。
「それでは元気でな」
ちょっと名残惜しそうに二人と別れる。
しんみりして、皆の元に帰るとなにやらヒソヒソと密談していた。
なんだ? ちょっと強引に騙して連れてきたから不満が溜まってるのか?
俺は聞き耳をたてた。
「龍馬の奴、男色の気があったとはな」
「佐那之丞さんと絶対できてますよね」
「あそこまで女好きだと突き抜けて男もいけるのでしょう」
誤解だー