第二十七話 俺は九州を巡り大阪へ行き京都を通る
歴史MEMO
文久二年四月 寺田屋事件。
文久二年八月 生麦事件。
薩摩の蒸気船やら独自の貿易やらの秘密が見たかったのだが・・・。
薩摩に入ることさえも出来なかった。さすが薩摩。
三ヶ月ほどの九州巡り(薩摩以外)をした後で、再び下関へ行き白石から金を貰い(今度は胡散臭そうな目で見られた)、俺は大阪へと向かった。
情報によると俺が脱藩した後で吉田東洋が暗殺されて、政敵がいなくなった武市が出世をし、殿様の参勤交代について大阪にいるようなのだ。少し様子を見に行こう。
そこで連絡を取ってみると、望月慎平がやってきた。
「よお、慎平、久しぶりじゃのぉ」
「龍馬、なぜこんなところにおる」
「脱藩後は諸国漫遊じゃ。俺なりの攘夷をするための準備ぜよ」
「しかし、お前は指名手配じゃろ」
「え、なんで? 今は脱藩はそんな罪では無いはずやが」
「吉田東洋暗殺したのお前じゃないのか」
ハァ?
なんで俺が?
「お、俺は殺してねぇ。無実だ。無実」
「しかし、国元ではお前が犯人や言うて追っ手も向けられてるぞ」
多分、勤皇党の過激志士の誰かが暴発しやがったんだろうけど、とばっちりが何で俺に。脱藩したタイミングが悪かったのか。
「まずいな。大阪にはおれんか。京都を通って江戸に行くか」
「気をつけろよ。東洋派の連中は失脚しつつあるから、暗殺犯の検挙にやっきになってるぞ」
なんか東洋派が失脚して武市が出世したの考えると、武市が暗殺指示しやがったんじゃないんだろうな。脱藩前にちょっと煽ったのがまずかったか?
とにかくこんなところで捕まったり斬られるわけにはいかん。
俺は大阪を離れることにした。
「じゃあ、俺の舎弟の亀弥太にもよろしくな」
「俺の弟はお前の舎弟じゃねーぞ」
こうして俺は悪友の慎平と別れ大阪を出る。
出る予定だったのだが、その夜。
「見つけたぞ。吉田様を暗殺した坂本龍馬だな!」
大阪を出ようと夜更けに出立したところで東洋派の二人組みの追っ手に見つかってしまった。
「違イマス。私、イギリス人のジョン・サイタニヤと言イマス。異人を斬ったら国際問題ゼヨ」
「イギリス人が土佐弁使うか! それに見た目が日本人だろ!」
「人違いやき!」
「いや、龍馬ぜよ」
ん? 追っ手は二人いたが、刀を構えて怒鳴っていた奴しか見てなかった。もう一人は知ってる奴じゃないか。
「や、弥太郎!」
岩崎弥太郎だ。あの野郎。
「じゃが、龍馬は北辰一刀流の名手じゃ。二人じゃ勝てん。応援呼ぶぜよ」
「臆したか、弥太郎! ワシは吉田様に取り立てられた恩を返すために相打ちになろうとも、こいつを斬る!」
追っ手の男は刀を構えて俺に突進して来た。
チッ、栄姉ちゃんから受け取った家宝の刀で斬り合いはしたくないな。逃げるか。
俺は踵を返して逃げる。
「待て、こら」
待てと言われて待てるか。
「おい、どけ・・・ぐわっ!」
ドサッと誰かが倒れる音。俺は足を止めて振り返る。
そこにいたのは追っ手を斬り捨てて、夜の闇にたたずむ以蔵だった。
助かった。いよ、さすが俺の犬!
どうやら俺を見送りに来て襲われてる場面に出くわしたようだ。
以蔵が俺に東洋を斬るのに誘ってくれたら良かったとかいうようなことを言う。
俺は斬ってねぇのに。
「今日のところはこれくらいにしといてやるぜよ!」
弥太郎が遠くから捨て台詞を吐いて逃げていく。
まあ、とにかく今はここから逃げるのが先だな。弥太郎が他に追っ手を呼んでくるかもしれないし。
こうして俺は大阪を後にした。
「龍馬さま」
ゾゾゾッ。
警報! 警報! 警報!
背後からの声に背筋が凍る。ここは京都だ。京都である。
そしてこの聞き覚えのある声は・・・。
「お久しゅう。加尾でございます」
ヤンデレストーカー、キター
振り返って引きつった笑みを浮かべる俺に、クスッと加尾が笑う。
「そんなに怯えられては困ってしまいます。加尾はもう子供ではありません。龍馬さまに遊ばれて捨てられてのくらいはわかってますきに」
さらりと棘のある言葉を言われてしまった!
でも、以前の狂気は全く感じられない。
ああ、助かった。
「いやあ、加尾も元気なようで、良かった良かった。久々にお茶でもせんか」
安心してくどく
「坂本さまに少しお願いがあります」
「ん、なんじゃ」
「死ね」
加尾は京の町に消えていく。
女というものは強いものだ。
手形を頬につけ物思いにふける俺であった。