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第二十五話 俺は久坂と会い脱藩を決意する

 「長州藩の久坂に親書を届けてもらいたい」

 武市のこの言葉により俺の剣術遊学の旅が決定した。


 文久元年の十月に、俺は旅に出る。

 とは言っても直接長州へ向かったわけではなかった。讃岐丸亀藩の矢野道場で修行することを名目に藩に許可を得たのだ。とりあえずそちらに行く。

 ほどほどに剣術を教えたり学んだりしながら折を見て出国して諸国漫遊を。

「坂本どの、今日は丸亀の花街に繰り出しましょう」

 もう少し残るか。

 おお、土佐では悪名が響いて遊び難いが丸亀の女は俺のことを知らないからいい感じにくどけるぜ! 楽しい!

 一ヶ月過ぎた。

 藩にもらった剣術修行の期限が切れた。

 ヤベェ。長州ところが四国から出てねぇ!

 いそいで藩に修行延長の許可をもらって丸亀藩を出国することにした。

 はぁ、土佐で少し禁欲生活送りすぎて溜まっちゃってたかもしれん。

 駄目だ、やはり適度にガス抜きしないと!


 こうして文久二年の正月少しすぎ、俺は長州に到着する。

 長州藩といえばやはり尊皇攘夷の総本山である。以前は水戸藩が尊王攘夷のメッカだったが、今は内紛でグダグダだからなぁ。

「遠いところをよくぞ長州まで。ごゆっくりして下さい」

 久坂(くさか)玄瑞(げんずい)は年若く少し頼りなさげな男だった。志士というより学者っぽいな。こいつが江戸で武市と共謀して勤皇党の結成に手をかしたとか。深謀遠慮(しんぼうえんりょ)な策謀家タイプか。

「もっと早く来るようなことを聞いてはいましたが」

「イロイロト問題がアリマシテ」

 俺の下半身の方の。

「坂本さんの話は武市殿から聞いていますよ。土佐で武市殿の一番の理解者であるとか。それから桂さんからも面白い人物だと聞いてます」

 そういや桂も長州藩だったな。桂と久坂が長州藩の攘夷リーダーってところか。

 でもなぁ、面白い男っていうのは褒めるところが無い場合とか変人とかいう場合に使う表現だぞ。桂の野郎はやっぱりムカつくな。

「ワシなんぞ大したことないぜよ。土佐は武市に任しているし、攘夷といえば長州藩ではないですか」

 その言葉に久坂の表情が若干曇る。

「我が長州も近頃は長井雅楽の開国政策が藩論になりつつあります。このままでは攘夷の火が消えかねません」

 ふむ、長州も長州で大変だな。

「だが、開国はもう既にしたし、今さら鎖国攘夷は無理ではないか。長井という人の意見にも一理あるぜよ」

「今のままの開国政策であれば日本は西洋に乗っ取られます! 清国は深刻な事態になってるではないですか! 攘夷の火を消してはいけません!」

 クスッ、清国と深刻はシャレか? うまいな。

「何がおかしいのです!」

 あ、マジか。

 でも、深謀遠慮タイプは前言撤回だな。こいつは激情型だ。

「いや、馬鹿にして笑ったのではないぜよ。おまんの情熱に関心して思わず笑みがこぼれたぜよ」

 シャレかと思って笑ったとか言えないしな。

「しかし、土佐は藩が幕府よりで武市も困っちゅう。なかなか攘夷は難しいぜよ」

「長州も近頃は長井が幕府に擦り寄ってます。場合によっては私は脱藩しても自分の意思を貫くつもりです」

 脱藩かよ。過激な・・・。

「日本の危機を救うためには幕府だの藩だのに頼ってるだけでは難しいのであります。そのためには脱藩も一つの選択肢としてはあります」

 剣術修行で旅をしたここ数ヶ月を思う。土佐に(こも)っていた時とは比べ物にならない充実感だった。土佐に帰って来てから四年。このまま土佐で燻っているよりは・・・。

 土佐藩を動かすのは武市の役目である。俺には俺の役目があるのかもしれない。

 脱藩という言葉に心を揺り動かされる。


 久坂から武市への返書を受け取り、俺は長州を後にした。


 土佐に帰ってきた俺は武市に久坂からの返書を渡す。

「長州はどうだった」

「いろいろと勉強になったぜよ、土佐はどうぜよ」

「難しいな」

 武市が顔をしかめる。

「藩の偉い方々とのつながりは出来たし、京の情勢も加尾から手に入る、他藩との連携もとれている。唯一つ、土佐藩の実験を握る吉田東洋が勤皇党を押さえつけて身動きがとれん」

 吉田東洋、土佐藩の参政である。藩政改革をして土佐藩を潤しているらしいが、佐幕開国派であり土佐勤皇党とは対立している。

「いっそ斬っちゃえ」

 俺は言う。

「気軽に言うな。勤皇党の過激な奴らは東洋を斬れ斬れ言うちょるが、お前は違うと思っちょったが」

「俺だって過激な志士ぜよ。旅をしてて少し思うところがあってな」

「どうした。龍馬」

「このまま土佐にいても吉田東洋やら上士やらに押えつけられて、思うように活動出来んぜよ。だから、いっそのこと脱藩も考えちょる」

 俺は深刻な顔で言った。まだ迷っているが、非常にデリケートな問題だ。

「なんだ、龍馬もか」

「他にもいるのかい!」

「吉村寅太郎 と沢村惣之丞が脱藩することになった」

 深刻そうに話してた俺がなんか恥ずかしいじゃないか!

「脱藩しても藩外に出ても勤皇党とは協力してくれ」

 軽っ。てか、止めないし。いや、止めてもらっても悩むんだけど。

「さっそく、龍馬の脱藩の準備を整えるか」

 いや、まだ決心してませんけど!


 間崎(まざき)哲馬(てつま)は土佐勤皇党でも有数の知識人である。勤皇党には珍しい学者タイプと言えようか。その間崎は江戸に向かうという。

 「龍馬が脱藩して浪人になった後でも、江戸の俺の元に来ればいろいろ協力してやるきに。勤皇党との橋渡しも俺がやっちゃる」

 そう言って間崎哲馬は江戸に立つ。

 なんか俺、脱藩することになってるんですけど。


 更に数日後、吉村寅太郎 と沢村惣之丞が脱藩した。土佐は少し騒然とした。

 だが、思ったほどの騒ぎにはならなかった。両家とも重い処分は受けなかったのだ。

 なんかびびってたけど、大したことないかもな、脱藩。

 俺は脱藩をようやく決意した。

 決行日は三月二十四日だ。俺の知らない間に決まってた。



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