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第十八話 俺は武市と琢磨を助ける策を練る

歴史MEMO

安政四年六月 安部正弘、病死。


 

 安政四年、俺は二十三歳になっていた。

 この次期の俺は絶好調だった。なんか前にも同じこと書いたかもしれんが気にしない。

 嘉永五年と安政四年前半の絶好調さは質が違いすぎる。

 安政四年に入り俺は剣も日々上達し、レベルの高い小千葉道場でも有数の剣士になりつつあった。佐那ともすこぶる順調で道場でついイチャイチャして他の練習生の嫉妬による殺意の視線を受けることもしばしば。武市や桂を通じての攘夷派との付き合いも密になってきた。この頃の俺はいっぱしの攘夷家である。

 夢と希望にあふれ、世情は少し暗いがそれを自分たちが打破するという熱気もあった。

 

 尊王攘夷(そんのうじょうい)について少し説明しよう!

 尊皇攘夷とは天皇を敬い夷敵を討つという意味である。だが、その思想は多種多様だ。

 ある意味でこの時代の志士は全て尊王攘夷だと言ってよい。開国派さえも開国で力を蓄えた上で異国と対抗するという大攘夷であり、佐幕派といえど天皇を敬う尊王敬幕であった。

 俺の尊皇攘夷は通商条約の引き伸ばしだ。アメリカ、イギリス等との性急な通商は他のアジア諸国のように国力の低下につながる。西洋列強はこの時代、明らかにアジアを食い物にしていた。だが、いつまでも拒否だけはしていられない。オランダを通して西洋の技術を取り入れ早急に軍隊の近代化、特に海軍の強化を行う海防策。これが為されれば異国に舐められ食い物にされなくなるだろう。それから段階的に通商条約を結んでいけばよい。

 われながら完璧!

 桂の意見が半分くらい入ってるけどな。後、海防策は水戸藩とか薩摩藩とか土佐藩も言ってるメジャーな策だ。オリジナリティが無いとか言うな。良いとこ集めとだ。

 武市の尊皇攘夷は少し観念的である。尊王を重視してるので、異人嫌いの帝の意を汲み異国を祓い鎖国を目指すというもの。そのために各藩が互いに協力し異国に負けない軍備を増強する。

 国防・・・という点は多種多様な尊皇攘夷派の意見はほぼ一致する。皆が日本を西洋列強の植民地政策から守ろうというのは共通しているのだ。

 だが、もっともメジャーな尊皇攘夷は単純攘夷だろう。

 嘉永六年以来の不景気、物価の上昇、天変地異、治安の悪化、それらを全て異人のせいにして、切り捨ててでも追い出すというものだ。

 俺が少し前まで持っていた攘夷派のイメージではあるが、残念ながら彼らが一番多い。

 開国通商も視野に入れている俺の攘夷策は彼らにとって開国派に見えないこともない。意見を述べるのもいちいち気を使って大変なのだが、桂や武市が催すレベルの高い志士の会合だと気を使わず意見を述べ勉強することが出来る。

 すっかり桂と武市に攘夷志士に洗脳されてしまったもんだ。

 

「参りました」

 俺の振るった竹刀が佐那の胴を払う。

 あ、初勝利。マジで?凄い凄い凄くね?俺?

「強くなりましたね、坂本さん」

 確かに俺は強くなった。ここ一年での上達ぶりは目覚しい。でも、佐那も大概のもんだ。二十歳になった佐那は小千葉道場で重太郎と互角の実力になっていた。力で男に劣る分、その技の冴えは神懸りだ。

 でもまあ、そんな佐那から一本とったということは俺はもう小千葉道場TOP三の一角だもんね。北辰一刀流の目録も近いし、そのうち免許皆伝も、そして佐那との結婚も!

「ではもう一本いきましょう」

 次に一本とるまで二ヶ月を要した。壁は高い。

 つか、強すぎるわ。鬼だ。鬼小町じゃー。

 

 そのような順調で絶好調な日々にある事件が起こる。

 夢と希望にあふれていた俺に現実をつきつける事件だった。

 土佐の現実、郷士の現実、日本の現実をである。

 

 山本(やまもと)琢磨(たくま)という男がいる。

 俺の従兄弟であり、武市の奥さんの従兄弟である。つまりは俺と武市両方の親戚だ。

 その琢磨が事件を起こした。

 

 ある晩、酒を飲んでの帰り道に拾った金時計を酔った勢いで質屋に売ってしまったのだ。それはすぐにばれて盗品を売ったということになり藩から罰をうけることになる。

 自業自得である。琢磨が悪い。

 しかし、その罰が重過ぎる。切腹である。

「武市さん、いくらなんでも切腹はないぜよ。琢磨は悪いことは悪いが謹慎とか減俸あたりでなんとかならんもんか」

「藩はこの事件をもみ消したいと思ってる。藩の恥だからな。時計は持ち主に返して見舞金も渡して事件をなかったことにしているようだ」

「それならなおさら、切腹はないぜよ」

「だが、事件をないことにするということは、琢磨を公式に罰することは出来ないということだ。内々で琢磨に切腹を命じ、公には琢磨が私的理由で勝手に切腹したことにするつもりじゃ」

 なんという勝手な理屈か!

 土佐藩の上役は人の命をなんだと思ってる。

「Help Me! Ryouma!」

 うるさい黙れ、琢磨!

「しかし、琢磨はなんか藩に目をつけられてのかいの。いくらなんでも厳しすぎる沙汰ぜよ」

「目をつけられているのは我々だ。攘夷派である武市道場の面々が藩は目障りらしい。琢磨は私の親戚筋というが不利に働いたぜよ」

「Oh! MyGod!」

 うるさい、死ね! 琢磨! あ、いや死なないように頑張ってるんだ。黙れ、琢磨!

「上士たちは下士の命をなんとも思っておらん。だから土佐は・・・」

 武市が苦しそうにうめく。

 実家が金もちで俺自身はあまり上士からの差別を感じたことはなかったが、確かに郷士が上士から受ける差別は他藩と比べても酷いのは確かだった。

 俺は琢磨を見る。馬鹿な奴だが死ぬのはかわいそうだ。

 苦しそうに泣いてる姿もいとおしい。

 あ、さっき腹たって俺がボディに三発入れたからか。顔は痕が残る、ボディ、ボディぜよ。

「なんとかならんもんですかの。武市さん」

「それを考えちょる。私も藩の上役にコネがある。上士と言えども一枚岩ではないぜよ。武市道場を敵視してる奴らもいれば協力している勢力もある。それで龍馬、おんしに頼みがある」

「なんでも言うてつかあさい!」

「金を用意だててくれ。先立つものは金だ。賄賂で琢磨の命を買う」

 武市がニヤリと微笑を浮かべる。

 その笑い方は悪役っぽいぞ。

 

 即座に用意出来たのは十七両だった。まあ、三日あれば坂本家ゆかりの知り合いの商人巡って五十両くらいは集められるが、今は時間がない。小遣い集めて質屋に道具を売って準備した。公言できることではないので、他の藩の仲間には相談できない。俺一人で集めた。

「十七両は半端かの、十五両を包んだらどうじゃ」

「いや、半端な方が全てを用意したという誠意が見せれるかもしれん。これを持っていくぞ」

 武市は土佐藩邸に出かけた。

 琢磨の切腹の期限は明日である。この交渉、もとい買収に全てがかかっていた。

 

 失敗した。


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