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第十六話 俺は江戸で佐那と正式にお付き合いを始める

 安政三年九月、俺は再び江戸についた。

「坂本龍馬、恥ずかしながら帰ってまいりました」

 二年ぶりだと道場の顔ぶれもかなり違う。定吉先生は鳥取藩に仕官が決まり、今は重太郎が道場を仕切っている。

 そして、佐那は未だ嫁にいかず、小千葉道場の鬼小町として名声を高めている。

 ちょっと顔が見れん。

 あ、向こうが俺見てる。気づいてないふり、気づいてないふり。

 

 同時期に江戸についた武市は江戸三大道場が一つ、桃井道場(士学館(しがくかん))に入門した。

 入門した早々で名を成しているのはさすがと行ったところ。

 武市はさっそく士学館の攘夷派志士と交流を始め、練兵館の桂とも同志となり江戸の攘夷派の中でも中心的な存在となりつつあるようだ。

 俺も一応は桂のやつに挨拶しておく。

「お久しぶりです。坂本龍馬です」

「これは坂本くん、ご無沙汰です」

 なんか前より貫禄が増したような。噂だと長州藩の顔役みたいな立場らしいからな。年あまり変わらないのに。この恵まれた奴め。マジでムカつく。略してマジムカ。

「今度また、会合に来てください」

 という桂に曖昧な返事をしておく、こっちはそれどころではない。

 

「坂本さま、稽古を致しましょう」

 小千葉道場で稽古してていつまでも佐那を避け続けているわけにもいかない。稽古に誘われてしまった。逃げるわけにもいかない。

 向かい合って打ち合う。あっさり負けた。

 あれ? 佐那はこんなに強かったっけ。

 むしろ俺弱くなった!?

「坂本さま、土佐で何をしておられたのです」

 冷たい声で佐那が言う。

 怖ぇ。やっぱりいろいろ怒ってる・・・。

 ああ、半年ほどニート生活してて、小龍先生とこで海外事情勉強して、ついでにオランダ語勉強しちゃうとか頑張ったり、親父危篤と死後の前後数ヶ月は家の用事で何もできなったり、ああ、婚約騒ぎの時もサボっちゃってたかな・・・とにかく剣術はろくに練習してませんでした。

 言い訳も思いつかんわ! 誰か助けて!

 絶句した俺に佐那はため息をつく。

「分かりました。どういう事情か分かりませんが剣の修行が滞っていたことは確かなようですね。では遅れを取り戻しましょう」

 佐那は俺にほぼつきっきりで稽古をつけ始めた。

 怒ったり冷たい言葉を投げかけてきたりと厳しい稽古で散々ボコられた。

 でも、なんか楽しそうだ。

 Sか佐那はSなのか!

 

 道場での稽古の後で重太郎に食事と晩酌の付き合いを誘われて、千葉家で酒を酌み交わしていた。

 重太郎と二人だけで酒を飲んでいると早々に酔った重太郎が口を開く。

「君は佐那のことをどう思っているのかね」

 グボッ。直球すぎるわ! 酒が気管支に入ってむせた。

「俺は佐那が可哀想だ」

 重太郎がじろりと俺をにらむ。

 悪い予感はしてたが針のムシロ。

「佐那は君がすぐに戻って来ると信じて待っていたのだ。花嫁修業もしていたし。色っぽくなったであろう」

 耳が痛い。

 それにしても・・・佐那のことを考える。

 今は十九歳、前よりも色気も増したが、道場での凛とした凛々しさも健在だ。やっぱり可愛いよな。あれを捨てたのはもったいない。でも、結婚はなぁ・・・。

「さ、か、も、と、君」

 ずいっと、顔を寄せて来る。

 重太郎、顔近い、顔近い、酒臭い!

「私はまだ未熟であり、佐那さまに対してどうかとおこがましく」

「未熟だの剣術が下手だのヘタレだのインポだのそういうことはどうでもいい!」

 いや、そこまで言ってないし、最後のはどうでもよくないし。

「君が佐那をどう思っているかがそれだけが問題なのだ!」

 武士の世界ではどうでもよくないんだけどなぁ。

「それは好いてますが、私の気持ちとかそれは・・・」

「よっしゃ言ったなぁ。佐那!」

 へっ?

 襖が開く。隣の部屋に佐那が待機してた。

 は、はかったなぁ!

「それじゃ、俺は野暮だし、もう寝るわ。後は二人でな」

 酔ってふらふらになりながら重太郎は去っていく。

 後には俺と佐那だけが取り残された。

 とりあえず酒を飲む。

 シラフじゃ耐えられん!

 

「坂本さま、どうぞ」

 佐那が俺の隣で酌をする。

 うわっ、近い、近い。

 近くで見るとホントに色気が増してるし。そもそも基本的に凄い美人だし。可愛い性格だし。俺にベタぼれだし。家柄良いし。なにこの完璧超人!

 あれ?

 酔って少し頭が回らなくなって来たのが、よく分からなくなってきる。

 どうして俺って逃げようとしてんの? こんな完璧な嫁他にいないぞ。結婚しても色町で遊ぶのは男の付き合いとか嗜みだ。完全に遊べなくなるわけじゃない。もう素人遊びはコリゴリだし調度いいかも。年貢の納め時かもしれないなぁ。

「はぁ・・・」

 ため息をつく。

「どうなされました?」

 怪訝そうに佐那が訪ねる。

「佐那さまが可愛すぎてため息が出ました」

「な・・・!」

 あ、顔真っ赤。やっぱり可愛いなぁ。

 その夜、俺は覚悟を決めた。

 剣術に生きると決めたのだ。江戸の千葉道場で剣術で生きてみるという人生を選ぶのも悪くないだろう。

 

 数日後、道場で殺気を感じる。稽古の時にみんなが俺に厳しい。イジメやイジメがあります!

 佐那とのお付き合いが公然の秘密となり、道場の皆に目の敵にされる俺であった。

「死ねー!」「腐れ野郎ー!」「消えろー!」

 無体な絶叫で打ち込まれる俺。

「龍馬さん、最近、道場が活気にみちてますね」

 楽しそうに笑う佐那。Sやろ、佐那は絶対Sやろー!

 


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