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午前中

「あーらぁ、今日も買いに来てくれたのかい?」


 雲一つない晴天の日、毎日ここの店で林檎を一つ買う。

若干下向きの心に林檎のみずみずしさが染み渡る。

まだ日が昇ろうとしている時間帯だが、ここのおばさんはいつもいる。

きっと早起きなんだろう。

私は買ったばかりの林檎を服で軽く拭き、一口食べる。

背中に背負った小さめの小袋の中からカードを手にし、大きな看板に【冒険者ギルド】と書かれた場所に着いた。

早朝にも関わらず、そこはにぎわっていた。

私は素早くカウンターに行き、カードを提示する。


「おはようございます。今日もお早いですね、カルさん。」

「あぁ、これが依頼書、それでこっちが品物。」

「......はい、確認しました。それと今回の依頼達成につきまして昇格試験の申し込みができるようになりました。今すぐに申し込みますか?」

「そうだな、そういうのは後回しにするのは面倒だ。今すぐ頼む。」

「今すぐはちょっと厳しいですが、今日の午後あたりからなら可能です。」

「では、その時間帯で頼む。」

「かしこまりました。」


 試験の申し込みもしたし、午後まで時間があるので、近くの喫茶店に行こうとした。


「おい、そこの...お前?か、おいこっち来いよ。」


声をかけられたので見てみたら、ヒョロヒョロの奴がなんか言ってきた。


「昇格試験受けるんだろ?俺が試験内容教えてやるからよ。」

「いやいい、結構だ。そういうのは事前に知ってしまうと試験の意味が無い。」

「情報が無くて落ちた時と、この情報があったからこそ合格できた時、保険をかけないか?」


 試験があるとこうやって情報を買わないかと誘ってくる奴がたまに湧いてくる。

正直言って邪魔だ。だから私は無視する。


「朝から、面倒ごとはごめんだ。それでは失礼させてもらう。」

「けっ、話にならねぇな。落ちちまえ。」


 なんか聞こえたが無視して、そのまま外に出た。

ふと目にした、掲示板にはたくさんの紙が貼られていた。


[特大ニュース!有名人、フィビス・タルク氏、亡くなる!]

[近頃魔物の動きが活発になるとの見込みあり、外出時は気を付けよう!]

[ローレリア国王、新たな発見!界隈に電撃が走る!?]

[街の喫茶店、新作メニュー発表。数量限定につきなくなり次第終了!]

[騎士団、人手募集中!元冒険者でも腕に自信があるやつでも誰でも募集!気になったら騎士団へ!]


などと、幅広くいろんな記事が掲載されていた。

その中でもやはり喫茶店の新作メニュー、これは食べなければならない。

喫茶店はもうすぐ開店予定、今から行くには走らなければならない。

人がまだ少ないこの時間に、私は全力ダッシュをして喫茶店に向かった。


「まじかよ。」


 思わず口に出たその言葉は、目の前の光景をみて零れ落ちた。

開店30分前だというのに、かなりの列ができており、数が足りるのか不安になった。

整理券が配られていたのでそれを貰う。

券には57番と書かれていた。

列には、お年寄りから子連れの家族や、近頃見なくなった、エルフの冒険者達も並んでいた。

空や街並みをぼーっと眺めながら並んでいると開店し、列が進むようになってきた。

しばらく並んで、あと5、6人当たりの頃、


「あと20個となりました。」


と言われた。大丈夫だ。私は食べられる。

そう喜び、確信した私は列の横を通り過ぎる人物を見て絶句した。


「ここが、例の喫茶店か。...なに?整理券?私にはいらないな。通せ。」

「いやでも...、お待ちいただいているお客様優先となりますので...。」

「この私に逆らうというのか?誰がこの街を導いて守ってやっているというのだ!?」

「でも、規則は規則ですので。」


 一向に下がる気のない店員VSこの街の我儘ぼんくら領主との口論が始まった。

この領主は政治面や、統治面では誰もが頷く、素晴らしい領主なのだが、その反面自分の思いは何でも突き通す、めんどくさい領主でもある。

それに対し、反撃するのはこの喫茶店のマスター、このあたりの地域のアイドル的存在ともいえるミューロだ。

この街では主に領主と、領民との口論が度々起こる飽きない街なのだが、大抵結末はいつも決まった通りとなる。


「ええい!分からず屋めぇっ!この喫茶店の営業停止処分をするぞ!領主命令だ。」

「っ!そ、それはずるいぞ!」

「私に逆らうということはそういうことだ!停止されたくなかったら今すぐその新作ある分寄越せ!」


 あー、最悪だ。私に関係ないときは別にいいが、厄介ごとが自分にも降りかかるとなるなら話は別だ。


「お客様、大変申し訳ありません!」

「まぁ、ミューロちゃんは悪くないよ。(クソ領主くたばれ!)」

「落ち込まないで!(石に躓いて怪我しろ領主)」

「また美味しいもの食べさせてくれ!(一人一個までだろうが!)」


 不思議と心の中の声が聞こえた気がするが私も同意だ。

渋々、お店存続のため新作は渡すことになったが、お店は営業しているので私はいつも通りのメニューを注文した。


「甘いコーヒーと、クリーム多めの街名物スイーツで。」

「新作メニュー、ご迷惑おかけして申し訳ありません。なので、コーヒーは無料とさせて頂きます。」


 この喫茶店はこういう切り替えのサービスが良いというのも人気の一つだ。

先ほどあんなことがあったにも関わらず、店の中は人でいっぱいで賑わっていた。

揉め事や食事を済ませていたら、気づけば太陽はすっかり上にあり、試験の時間が近づいていた。


「もうちょっとゆっくりとできないもんかね。」


思わず呟いてしまうほど濃厚な午前中だったが、試験に向け喫茶店を出て、冒険者ギルドに向かった。

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