プロローグ
この世界で一番に値する者は誰だろう、ふとした疑問は瞬く間に広がっていく。
ある者は、魔導王国随一の王、シュベルト・ローレリアだと。
別の者は、剣舞の姫、エール・クロだと。
通りかかった者は、知恵の種、エマリアーン・カリスだと。
さまざまな有名人の名が挙げられていく中、老いぼれた老人が言った。
「強固なる壁、フィビス、フィビス・タルクはどうじゃ...?」
見るからに若者は分からなそうな顔をしていたが、年老いた老人や老婆は納得のいく表情をしていた。
「当時の栄光は凄まじかったもんなぁ。」
「懐かしい名前だわぁ、今どうしているのかしら。」
「なんたって、この街の英雄だからな、忘れられないぜぇ。」
「墓守の爺さんが知ってるんじゃなかったかぁ?」
「私、彼の姿見たことあるのよぉ!」
「そりゃそうだろ。ここら辺の世代の人は、彼と同年代なんだからよぉ。」
突如として始まったご老人たちの雑談会に、通りかかった人も足を止めその話に聞き入っていた。
そんな中、若干汚れたフードを被った一人の人物だけがその場から離れていった。
話が盛り上がっていたので、誰も気にすることは無かった。
彼、彼女、いや性別は分からなかったが、着ている服に錆のような赤いシミが見えたような気がした。