↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
35/56

35話 赤ちゃん蜘蛛救出作戦・1

 部屋に残ったカトリーヌは、窓際のキャビネットの上に、拾い集めたマダラ薔薇を飾った。

 その表情は冴えない。

 

 ぱりん、と胸の中で何かが弾けた後にやってきた恐ろしいイメージが、心を捕えて離さない。

 

(まさかあんな恐ろしいことが起こるわけ無いわよね。雨の気配を感じたのは、偶然、だよね)

 

 そう思っていても落ち着かないのは、イメージがあまりに鮮明で、恐ろしかったことが理由だ。

 未来を見るたのだとしたら。そんな力が本当に自分にあるのだとしたら……。

 

(うーん、やっぱり気になって落ち着かない! 何も無ければそれで良いじゃない。うん)

 

 カトリーヌは無言のまま体を反転させて、扉に向かった。

 羽根ペンが、どうしたんだと言うようにカトリーヌの周りを飛び回る。でもカトリーヌはそれどころではなかった。

 

 見えてしまったあるイメージを思い出して、向かうべき場所を探る。

 

(あのとき見えたシャンデリアは、おそらく大広間のものだわ)

 

 ドアハンドルに手をかけた瞬間、カトリーヌは重大なことに気が付いた。一人で出歩けないのだ。

 

 そんなカトリーヌの隣で、羽根ペンは心配するようにふよふよと羽ばたいていた。

 

「そうだわ! 羽根ペンさん! 羽根ペンさんもアラーニェの糸にかからないのよね?」

 

 いかにもというようにペンがうなずく。しかし、突然ぴんと真っ直ぐになると、外を指し、カトリーヌの全身を上から下まで指し、最後には「だめだ」というように羽根を左右に振った。

 

「ああ、私と大きさが違いすぎるからダメって言いたいのね。大丈夫、私はここで待っているから、誰かを呼んできてくれないかしら。緊急なの! お願い!」

 

 始めは渋っていた羽根ペンだが、最後には扉の外へと飛んで出て行ってくれた。そしてすぐに、チェリーを一人連れて来てくれたのだ。

 もっとも、連れて来たというより、羽根にくすぐられて逃げるチェリーをカトリーヌの部屋の前にまで誘導したという風だったけれど。

 そうして、チェリーを抱えて、一緒に大広間へと向かったのだった。

 


 

「大変大変、たいへんだよー!」

 

 主塔の天守にある王子の自室に、一人のチェリーが飛び込んできた。カトリーヌが大広間へと向かってから、しばらく経った後のことだった。

 

「む。どうした? チェリーが一人で来るとは珍しい」

 

「大変なんだよーカトリーヌさまが大変なのー!」

 

 チェリーが泣き出しそうな声で言う。

 そこに、他のチェリーたちも次々に集まってきた。最初のチェリーに同調しているのか、みんな不安げな顔をしていた。

 

「カトリーヌがどうしたと言うのだ!」

 

「アラーニェの赤ちゃんがねー」

 

「大広間にね、カトリーヌさまが椅子に乗ってねー」

 

「シャンデリアがぐらぐらしてねー」

 

「助けなきゃってー」

 

 記憶を共有しているチェリーたちが興奮して口々に言うものだから、要領を得ない。

 

「とにかく、大広間なんだな? すぐに向かう!」

 

 焦れた王子は、そう叫ぶと部屋を飛び出した。

 

「フェリクス様なにしてるんすか?」

 

 いつの間にかサージウスが後ろについて走っていた。

 

「知らん! だがカトリーヌが大広間で大変なことになっているらしい! アラーニェの赤ん坊がどうとかも聞いたが、チェリーたちの話では良く分からん」

 

「へ? アラーニェの坊やとカトリーヌ様が? あ! アマデウス将軍だ。しょうぐーん!」

 

「うぉい! 王子殿なにをされておりますかぁ! 我もお供つかまつりますぞぉ!」

 

 サージウスが手を振る先には、曲がり角を曲がってきたところのアマデウス将軍がいた。

 黒衣の将軍の声は相変わらず雷鳴のように大きい。

 

「勝手にしろ!」

 

 走りながらどんどんと膨れていく集団に向けて、王子はやけくそで声を張り上げた。



 

 一同は連なって大広間へと突入する。

 

「カトリーヌ!」

 

 転がり込むように大広間に足を踏み入れた一団。その先頭に立つ王子が、悲鳴に近い声を上げた。

 

「フェリクス様! ちょうどよかった! シャンデリアに、アラーニェの赤ちゃんがぶら下がってるんです! おくるみの糸がほどけて、引っかかったみたいで!」

 

 架台を運び、その上に椅子を乗せた不安定な足場に立つカトリーヌが、頭上のシャンデリアを見上げて言った。手にはホウキを握っている。

 カトリーヌがホウキの柄を伸ばす先、赤ん坊がシャンデリアにぶら下がっていた。

 織り込まれたスパイダーシルクが、お腹のところに輪になっている。元はおくるみになっていたものなので、ほかの部分はほどけてしまったのだろう。そのほどけた糸がシャンデリアに絡んでしまったのだ。

 

 キイキイと鳴く赤ん坊が手足を動かすと、糸がくるくるとねじれ、宙吊りのまま回転する。赤ん坊を吊り下げている細い糸は頼りなく、今にも落下しそうだ。

 赤ん坊は天使のように可愛らしい顔で笑っている。しかし手足は短く、また、生え方も本数も蜘蛛のそれだ。八本の手足が体の脇から生えていた。

 

「一刻を争うんです! ……わっ、ととと」

 

 カトリーヌがホウキをシャンデリアに向けて伸ばすと、足元の台がぐらぐらと揺れる。

 

「ヒュッ」と王子が、喉から息を漏らす。

 

「ひぇ」「なんと!」「いやー!」

 背後の面々が思い思いの悲鳴を上げるなか、王子はカトリーヌの元に駆けて行った。台のもとに到着すると、王子はしがみつくようにして椅子を支える。

 

「分かったから、降りてくれ! 椅子を抑えるから、慎重にだ! 後は僕たちがやるから!」

 

 王子の叫びには、切実な焦りと苛立ちが表れていた。

 

「あと少しなので、椅子を抑えていてくれれば大丈夫です! いつ糸が切れるか分からないんですよ⁉ さっきから何度か、ブチブチって嫌な音がしてるんです」

 

 カトリーヌも譲らない。

 

 彼女が見たのは、シャンデリアから落下して大けがを負う赤ん坊のイメージと、アラーニェと王妃が涙を流す光景だった。絶対に、あんな悲しみを現実になんかしてはいけない。その思いがカトリーヌを頑固にしていた。

 それに、赤ん坊が痛いとか苦しい思いをするなんて、耐えられない。

書籍好評発売中です!

下のバナーから書籍情報リンクに飛べます。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

-


無才王女、魔王城に嫁入りする。 ~未来視の力が開花したので魔族領をお助けします!~

無才王女、魔王城に嫁入りする。 ~未来視の力が開花したので魔族領をお助けします!~

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。