青の龍とゲーム・ナイト④
「サイコロ……? 青龍君様、なんでサイコロなんか持ってらっしゃるんですか?」
サイコロは、人間が遊戯や賭博に使う道具だ。
偉大な龍が持つ道具としては、なんとも似つかわしくない。
なんて私が疑問に思っていると、青龍君様はぱあっと表情をほころばせて、こう言ったのだった。
「使い方、知ってるんだな!? あー、えへん。……実はちょっと前に、人間の集団が近くを通りかかったことがあったんだ。僕らの領土に入ってきたら懲らしめてやろうと思って、見張ってたんだけど。夜になるとあいつら、火を囲んで、これをコロコロ転がしながら、なんだか楽しそうにしてたんだ」
なんと。
龍の言う『ちょっと前』が一週間前なのか一か月前なのか、それとも一年か数十年前なのかは不明だが、こんな山の中を行くとは、気合の入った人たちもいたものだ。
行商人かなにかだろうか。
「それで、朝になったらそいつらはどこかに行ったんだけど、これを忘れていったんだ。危険がないか確認するために拾ったんだけど、どうしても使い方がわからない。これって、どう使えば面白いんだ? なにをしてあいつらは笑ってたんだ」
と、不満げな顔で続ける青龍君様。
なるほど。どうも青龍君様は、人間が楽しんでいた理由を知りたいらしい。
まあ、彼らがしていたことは大体察しが付く。たぶん、サイコロを使って賭け事をしていたのだろう。
龍はとても知性が高く、道具は大体見ただけで使い方がわかるみたいだけれども、おそらくギャンブルという発想がないので、こればかりは理解できなかったのだろう。
さて、どう伝えたものか。
「そうですねえ……では、実際に使ってみましょうか。今から私がこれを転がしますので、見ていてください」
そう言って私はサイコロを受け取ると、トレイの上で転がして見せた。
すると3の目が出たので、私は青龍君様にこう告げる。
「私の目は印が3でした。次に青龍君様も転がしていただいて、3以上の目……つまり、4,5,6のどれかが出れば青龍君様の勝ちになります。やってみてください」
「えっ? あ……うん」
それに青龍君様はやや戸惑っていたけれど、私からサイコロを受け取ると、シツジが見守る中、ドキドキした表情でそれをトレイに放り投げた。
するとそれはコロコロと転がって、やがて、6の目を上にして止まったのだった。
「わっ、おめでとうございます、6です! 青龍君様の勝ちですよ!」
と、大げさに祝ってみる私。
だけど、それに青龍君様は反応を示さず、無表情で固まったのだった。
(ああ、まあ失望するよね……)
きっと、人間はこんなつまんないことしてたのかって、がっかりしているのだろう。
実際はこれでお金が動くから、バクチ好きはそこが面白いんだろうけど、貨幣を持たない龍には理解しがたいだろうなあ。
「と、まあ。サイコロはこうやって、お互いに競い合う『ゲーム』というものに使う道具なんです。基本的には、一人で持ってても意味がないので、使い方がわからなくても当然かと思います。はい」
と、一応のフォローを入れる私。
さて、この空気、これからどうしたものか。
と、私はどうにも困ってしまったが、だけどそこで、予想外のことが起きた。
なんと、無表情だった青龍君様の表情が、ゆっくりと笑みへと変わっていき。
そして彼は両腕を高く掲げると、飛び跳ねながら叫んだのであった。
「やっ……たあああああああああ勝ったああああああああああ! 僕は、勝ったんだ!! 人間に、勝ったぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
…………はい?
「勝った勝った、凄いぞ、僕の勝ちだって! おい、シツジ、見てたか!?」
「はい、若君、バッチリ見たですなっ! 我らが若君が、憎きニンゲンを見事に討ち取られたですなっ! 今夜は祝勝パーティですなっ!」
と、手をつないで大盛り上がりの龍と妖精。
ああ……なるほど。どうも、呆れていたんじゃなくて、感動のあまり、動きが止まっていただけのようだ。
予想外も予想外、どうも青龍君様は、この遊びがたいそうお気に入りあそばせたようだ。
まさか、龍がこんな単純なことで大喜びとは。
まあ、なによりなんだけど……でも、ちょっとだけ悔しいのはなんでだろう。
「そっか、そっか! これって、こうやって勝ち負けを決める道具だったんだ! すごいすごい、おもしろーい! なあ人間、もっとやろう!」
「ええ……」
と、サイコロをつかんで、満面の笑みで言う青龍君様と、若干引き気味の私。
こんな転がすだけの勝負、何回もやるものじゃないのだけども。
しかし、青龍君様がここまで気に入るとは、本当に予想外だ。
高等種族である龍が、こんなもの本当に楽しいのだろうか……と、そこまで考えて、ピンと来てしまった。
そっか。たぶん、青龍君様は娯楽に飢えていたんだ。
青龍君様は、龍の兄弟の中でも歳が離れているように見える。
見えるだけで、実際はそんなことないのかもしれないけど、精神はどう考えても未熟な子供だ。
そんな子が、このろくに娯楽もない瑠璃宮にずっといると、こうなるのかもしれない。
精神が成熟しきっている兄君たちみたいに、穏やかな毎日を楽しむという域にまだ達していないのだろう。
なら、私で良ければ遊び相手ぐらいならいくらでもなろう、と思うけど……さすがに、サイコロをただ転がし続けるのは退屈だ。
人間の娯楽には、もっと良いものがいくらでもあるのだから。
せめて、トランプやボードゲームがあれば話は別なのだけど。
そう考え、私は思い切ってこう切り出したのだった。
「青龍君様。このサイコロはこのように、転がすだけでも遊べますが、他の道具と組み合わせるのが真骨頂にございます。そういう人間のゲームを手に入れられたら、もっと面白いですよ」
「そっ、そうなの!? こ、これより面白いものを、人間は持ってるのか!?」
「はい。やってみたくはありませんか?」
「やっ、やりたい! 絶対やりたい! どうやったら手に入る!?」
よし、乗ってきた。
なら、ここはやりきるしかない。
なので私は、わずかにつばを飲み込むと、作った笑顔とともにこう告げたのだった。
「それはもう。人間の道具を手に入れるのならば……人間の街にいくしかありません」




