四話 青の龍とゲーム・ナイト①
昼下がりの、穏やかな瑠璃宮。
秋の陽が差し込むその廊下に、まるで似つかわしくない私の絶叫がこだました。
「……どうして!? どうして、どこにもいないのよぉ~~!!!」
それは、まさしく魂の叫びであった。
赤龍帝様にカツ丼を出してから、はや一週間。その間、私はこの瑠璃宮で、とある方を探し続けていた。
その、とある方とは、つまり。
「どうして!? こんなに探してるのに、どうして『末の弟様』はどこにもいないのっ! 瑠璃宮の隅から隅まで探して探して、探しつくしたのに、まるで姿が見えないじゃないっ!!」
そうなのである。
私はどうにか末の弟様にご挨拶し、この瑠璃宮に住む許可をいただくため、開いている時間すべてを使って必死の捜索を行った。
だというのに、どこにもそのお姿が見えないのである。
お部屋に行ってもいつもいないし、シツジの出す食事の時間に付き添っても姿を見せないし。
夜にこっそりとその寝室にも行ってみたけど、やっぱり駄目。
どこにも、影も形もないのだ。
「……おかしい。こんなはずがないわ。いくら瑠璃宮が広いとはいえ、ここまで会えないわけがない。もしかして……考えたくないけど、私、避けられてる?」
いったん落ち着きを取り戻し、そうつぶやく私。
そうだ、あまりにもおかしい。
普通ではありえない。認めたくない事実だけど、これは、末の弟様が私を避けていると考えるのが妥当だろう。
このことに関しては、赤龍帝様と白龍公様にもすでに相談済みだ。
だけど、私がそう言うと、赤龍帝はいつものように眉根を寄せて、そして白龍公様は困ったように笑って、こう答えたのである。
「あいつは、少し手間がかかる奴でな。気長に頑張れ」
「あの子は、気難しいのです。申し訳ありませんが、じっくりと距離を近づけてあげてください」
……気長やじっくりもなにも、そもそも姿を捉えられないのだが。
気分は、密林で珍獣を探すハンターだ。
まず見つけるのが難しく、捕まえるのはもっと難しい。
このままでは、おばあちゃんになるまで探し続ける羽目になりそうだ。
しわしわになるまでこんなことを続けるのは、さすがに避けたい。
なにか手を打たないと。
「どうする……? 罠でも仕掛けようかしら。いや、それじゃ見つけることはできても、間違いなく怒られるわね」
そもそも、高等種族である龍が、私の作るような罠にかかるとは思えない。
それに、万が一上手くいって落とし穴にでも落とせたとして、その時はそれこそ、怒り狂った龍にぱくっと食べられちゃうかもしれない。
「ああ、相手がわからないと媚びの売りようもないし。どういうものを気に入って下さるかも想像できない。なんとかして、まずは発見しないと……」
とはいえ、空間を移動したり、私にあらゆる言語を理解する能力を与えたりと、やりたい放題な龍のことだ。
本気で逃げられたら、捕まえられるものではない。
いまだって、不思議な力で私を見張っているのかも。
それだと、どうにもお手上げだ。
さて、どうしたものか……なんて、手土産の載ったお盆を手に、途方に暮れる私。
だけどそこで、シツジの一体が通りかかり、そして、私を不思議そうな顔で見上げながら言ったのだった。
「ニンゲン。おまえ、毎日毎日なにをしてるですな? 遊んでるなら、ワガハイも混ぜるですな」
……遊ぶ……? 何を言っているのだろう。
こっちはこんなに本気で弟様を探し回っているというのに。
「あのね、シツジ。私は今めちゃ忙しいの。遊んでるわけじゃないのよ」
「そうなんですな? この一週間、ずーっと下の弟君に後を追いかけられてるから、そういう遊びなんだと思ってたですな」
「……はい?」
下の弟様に、私が追いかけられてる?
何を馬鹿な。追いかけているのは私のほうだ。
そもそも、下の弟様が私を追いかけるって意味が分からない。
そんなはずないでしょ、と思いながらも、いちおう背後に目を向ける私。
すると……なんとそこには、確かにいたのであった。
そう、廊下の角からじっと私を見ている、頭に巻き角をはやした、小柄な男の子が。
「…………」
「…………」
目と目が合い、私たちの間に走る、一瞬の沈黙。
そして、事態を理解したとたん。
私たちの口から、一斉に絶叫が上がったのだった。
「ひぎゃあああああああああああああああああああっ!!」
「ひょわあああああああああああああああああああああっ!?」




