白き龍と憧れの香辛料料理⑥
「ほ、本当ですか!?」
この料理なら、お出しできる。
私がそう伝えると、ぱあっと、子供のように表情をほころばせる白龍公様。
……ああ。もしかしなくても、この方、ものすごーく可愛い性格なのでは。
「ただ、いろいろと準備もありますので。数日、お時間をいただきたいのですが……」
「ええ、それはもちろん。いつでも、あなたのタイミングで大丈夫ですよ」
私がおずおずと切り出すと、彼はにっこり微笑んでそう言ってくれた。
ああよかった、そう言ってくれると思った!
その料理を作るのは久しぶりだったし、この城の設備でどこまでやれるかわからない。
それに赤龍帝様のご飯も作り続けないといけないし。万全を期すために、準備時間が欲しかったのだ。
だって、憧れの料理を食べてもらうのだから、最高に美味しいって思ってもらいたいしね。
なんて、私がもう成功した気分でいると、赤龍帝様がそこで口を挟んできた。
「そうか、ではウルリカ。ついでに俺の分も作ってくれ。食事会にしよう」
「えっ。赤龍帝様も、同じものをお召し上がりになるのですか?」
予想外の言葉に驚き、赤龍帝様のお顔をじっと見つめる私。
すると彼は、私からスッと視線を逸らし、こう言ったのだった。
「ああ。そのほうが、お前も手間が省けるだろう?」
「はい、それはもちろんですけれども」
「それに、ちゃんとしたものが出されたか、俺も確認せねばならん。白は優しすぎるから、お前に同情して簡単に許す可能性があるからな」
なんて言って、うんうんと頷いて見せる赤龍帝様。
失礼な、私は手なんか抜かないぞっ! と思いつつも、気になるのは別のことだった。
……赤龍帝様、白龍公様のことを白って呼んでるんだ。
なんだか妙に可愛い。
兄弟ならではの、特別な関係性を感じるというか。
白龍公様はとてもしっかりなさっているけれど、こうしているとやはり兄と弟なんだなって感じてしまう。
小さいときは、兄上、兄上と甘えていたりするのだろうか。ああっ、小さかったころのお二人を見てみたいっ!
……いや、そうじゃなくて。今やるべきことが決まったのだ。
妄想してる場合じゃない。動き出さねば。
そう考え、私はお二人に深々と頭を下げて、言ったのだった。
「では、これより取り掛からせていただきます。どうぞ、最高の料理をご期待ください!」
◆ ◆ ◆
「ああっ、違う違う! それはこっちに持ってきて! あっ、そこのシツジ、気を付けて! お皿が落ちそう!」
もはや支配権を得つつある、瑠璃宮の台所。
そこに、私の大きな声が響き渡った。
それに合わせて、執事服のシツジたちが慌ただしく駆け回る。
「あっ、そこ、火が強すぎよ! 薪を調整して!」
「了解ですな、シェフっ!」
「そこっ! お皿をガチャンと置かない! お皿は料理の一部なのよ、ヒビが入ったお皿で料理を出すつもり!?」
「ひいいっ、申し訳ないですな、シェフっ!」
調理しながら全体を見張り、シツジたちに指示を入れる私。
こいつらは目を離すと滅茶苦茶するので、どうにも気が抜けない。
特に、今日は大事な一日。いよいよ、白龍公様に例の料理をお出しする日なのだ。失敗は許されないのである。
なんて、私が鼻息荒く考えていると、そこでシツジの一人が突如として床にへたり込み、ぜえぜえと荒く呼吸をしながら言ったのだった。
「ううっ、厳しすぎる……。鬼、鬼ですな。ニンゲンはワガハイたちをなんだと思ってるですな!?」
すると、それを聞いた他のシツジどもが、作業の手を止めて一斉にわめきだす。
「まったくでありますなっ! シツジ遣いが荒すぎるですなっ!?」
「そもそも、お前の料理をなんでワガハイたちが手伝わなければいけないですなっ!? おかしいですなっ!」
「人権団体に訴えるですな! 労働基準法と動物愛護法違反ですなっ!? おとなしくお縄につけですなっ!」
後に続けとばかりに、わーわーぎゃーぎゃーと不満をぶちまけるシツジたち。
うるさいこと、この上ない。
しかも、どこで知ったのか、変な人間の用語を使ってくる個体までいる始末。
ていうか、こいつら、自分を保護されるべき動物だと認識してるんだ……。
このまま無視しようかとも思ったけど、いつまでも収まる気配がないので、仕方なく私は振り返ると、にっこり微笑んでこう言ってやったのだった。
「あら。人間の料理を教えて欲しいって泣きついてきたのは、どこの誰だったっけ?」
「うっ……!」




