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事実無根の獄中生活

 ドッキリではなかった。

 正真正銘の拘束で拘留だった。

お上からの沙汰はまだない。


 お縄を頂戴してから3日が過ぎた。一度事情聴取のような物を受けたが、何か大きな事件が起きたみたいで衛舎にいる者は留守を残して全員出払ってしまっていた。

 

 その間は何をされることも無く、また何もすることも無く、ただただ、床の染みの数を数えるだけだった。

 僕は染みの数を数えながら、どうしてこうなったのだろうか、これからどうなるのだろうかとずっと考えていた。朝起きたら全裸で、何処かも分からない場所にいて、色々あってお縄を頂き連行され、頑強な牢の中にもう3日全裸で拘留と言う名で放置されている。

  食事はでるが、朝と夕の1日2回で水と硬い黒パン1つのみ。温かい物が食べたい。


 衛舎は木製建築の建物だけど、牢だけは鉄と厚いレンガで作られているので結構寒い。今はタオルケットを一枚借りることが出来たので、幾分か尊厳と寒さをしのげている。


 不思議なことに、こんな状況に陥っても僕は何故か落ち着いている。 

 恐怖はあまり感じていない。心配の種はあるが、体には特に変調は無い。まあ、少し寒いけれども、死ぬほどではない。僕って精神的にも肉体的にもこんなに強かったのだろうか?


「会社のみんなはどうしているかな」


 何の連絡のなく3日間の無断欠勤。何の情報も無く連絡を取る事も出来ずに時間だけが過ぎていく。 

 心懸かりはパソコンだ。このまま行方不明のままだといずれは会社から親に連絡がいき、親が大家さんと共に僕の部屋を訪れ、失踪の捜索願が出されて、警察の捜査の手がパソコンに伸びてしまうかもしれない。

 

 アウトな動画は一切ないが、マニアックな性癖研究は、親族友人はアウトだろう。


 ゾゾゾッ、背中に悪寒が走る。




 更に2日が過ぎた。沙汰はまだない。しかし、変化はあった。


「災難だったな。同情するぜ。しかし、命だけでも助かって本当に良かったな、明」


 衛舎の留守番エドモンド氏と交流を持つことが出来た。拘留されてからの5日間、全裸で放置され続けていた僕に興味と同情を覚えて、本当は駄目だけど思わず声をかけてくれたらしい。

 

 僕はエドモンドさんに少し事情を話してみた。


 起きたら全裸で外に眠らされていた。自分が寝る迄の記憶がなく、どうしてそうなったのかが全然わからない。と。


 幸いと深い事情までは聞かれることは無かった。彼の中では、追いはぎに合って、取る物取られて捨てられた、哀われな若者と落ちついたようだった。


 エドモンドさんからは情報を得ることも出来た。それは想像を超えるものだった。


 僕が今いるのは、ファストリア大陸の東にあるサンライーズ王国の辺境都市ライズ。人口7千人程で近くにある鉱山からの採掘、鉱物の選鉱や製錬などを主な生業にしている町だそうだ。


 当然、僕の知識の中にはない大陸と町だ。見たこともないし、聞いたこともない。それに大きな驚きもあった。ここには電気もガスも水道すらもない。

 スマホどことか、テレビやラジオもない。家電製品が、現代文明や文化を感じされる物が見当たらない(音楽や歌はあるらしい)。   

 

 衛舎でも、火を起こして蝋燭に灯りをつけ、暖炉に薪をくべて暖を取っている。報連相もわざわざ衛舎に戻って来て全部直接口頭で行っている。


 エドモンドさん曰く、この都市では父親が朝早く仕事に行くと、子供達は町の井戸に水を汲みに行く。母親は家事に勤しみ、父が仕事から帰ると家族全員でご飯を食べ団欒し、夜の帳が降り始めると燃料節約のために就寝する生活を送っていると言う。


「魔法も存在するし、エルフや亜人種種族、悪魔や魔族もいるぜ」


 なんと! もはや、言葉が出てこない。ここは剣と魔法の世界だったと言うのか!


 正直に言うと、ドッキリではないと確信した3日辺りから、なんとなくは気がついていました。


 ここは自分がいた世界ではないのではないかと。これが噂に聞く異世界転移と言うやつではないかと。


 信じられないが、でもそれならば納得いく点が多い 。僕が全裸で公共の場にいたのは僕の意志ではなく、神様の意志だった。神様が僕を転移する際に、邪魔な衣服をはぎ取ったのだ。 


 昔見た映画でも、衣服は転移の邪魔になるとの理由から、800型は全裸で過去に送られ、服から武器から食料から、何から何まで全部現地で調達していた映画があった。今の状況はまさにその映画、そのままだ。


 良かった。本当に良かった。心のつかえが一つ消えた。


 僕は変態でも変質者でもなかった。「公然わいせつ罪」、あれは無実無根で、僕は性加害者ではなく、性被害者だったのだ。


 


 

 その日、僕は初めて黒パンを美味しく感じ、心晴れやかに、日暮れとともに床に就くことが出来た。




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