健気な方
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
本当はオマケっぽいものを書く予定でした。
彼女と僕は駅の出口をぼんやりと見詰めていた。外では雨が降っていた。しとしとと、しとしとと。傘は差すほどのものじゃないと高を括ると、全身びしょ濡れになる様な、微妙な天気だった。生憎、持っているのは彼女の小さな蝙蝠笠一つ。二人で入るには、少々心許ない。
だからこうして少しでも落ち着く様に、雨止みを待っていた。
「予測は着いていたの。お呼ばれしているって。だからこれは私が招いた油断。歓迎の意だわ」
そう言うと、僕の顔を見据えながら、無表情で『ごめん』と言った。
『予測は着いていた』というのは、今からお会いする神様のこと。彼女の話によると、目が潰れる程の美形で、健気な御仁なのだそう。神様とは総じて、人の精神とと異なる理で世をお過ごしかと思うが、どうにも人間臭いところがあるらしい。
「天候を変えてくる時点で、やっぱり神様なんだ」
そうぽつりと呟いた僕の一言に、彼女はふと横を見た。
「確かにあの方は人外であらせられるけれども、かなり汲んでくれる方だと思うけどね。まぁ私が言いたいのはそこではなく、生まれもお育ちもゴリゴリの神様なのに、それが出来るってのは、なかなか例外的だと言う話なのだけど」
話のズレを感じる。しかし彼女はただ思うがままに口を動かす。
「あの方の逸話で好きな話。村に大層な美人がいたそうで。そこに毎晩、大変な美丈夫が夜な夜な訪れて来そうで。そうして彼女は身篭った」
にいっと口角を上げて、小指を立てる。
「普通しないわ。そんな事。その人に恋をしたならば、神隠しをするなり、夢に現れるなり、自分から来させる手法なんて五万とある。けれどもあの方はそれをなさらなかった。態々人に化けて、夜な夜な訪れて愛を囁いた。健気で愛おしい。あら」
彼女の声と共に前を向く。雨が大分優しい霧雨へと変化していた。一歩前に出ると、しっとりとした雨粒が頬を濡らす。
「さぁ、参りましょう」
全く関係ない話
「来ないから、呼んじった」
「貴方様らしいです」
神様にとって、人間というのは取るに足らない存在。興味のない奴の生き死になんか歯にもかけない。でも愛でるべき存在になったら、対等ではなくとも愛情を注ぐ。愛でて可愛がるだけの存在。それ以上でもそれ以下でもない。そこに自らの理解を求める事などあるはずもなく。
「でもきっと、それくらいが良いのではないでしょうか? 子供に親の苦労を分からせようなんて、思わない方がいいのと同じ様に」
お前を育てるのに幾らかかったと思ってるんだ。なんて言葉、私はあまり好きでは無い。
私がやたらめったに『健気』と言うには理由がありまして。
上でも述べたように、自分から無意識に来させる事だって、神隠しだってきっと出来ると思うんです。
でもそんな強引に事を運べる方が、わざわざ人に変化して毎晩会うって、相当人間らしいし、健気だと思います。
強制的に呼べないって事は、相手からの拒絶だってあるわけですし。
優しいと、思います。
おまけの話。
どう頑張っても、神様と人間は分かり合えないだろうと思って書いてます。
元々人間だった神様は、情緒が感覚的に分かると思うんですけど、そうじゃないとどうしても。
分かりあっているように見えるのは、多分一種の振り、演技じゃないかなと。
多分、頑張っても愛でるべき、守るべき存在。
そんな相手に自分の苦労を分からせようとは思わないと思います。
『親の苦労を知れ!! 社会に出て働いて見ろ!!』
なんてお説教で言うことはあっても、実際に子供にさせる事はないと思うんですよ。
だって子供だから。大人じゃないから、苦労は分からない。
子供を産む苦しさも、育てる大変さもきっと分からない。
実際にさせたら、相当不味い事だと思います。
それくらいの隔たりがあると思ってますよ。