表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

わがまま夫人は届けたい

本日異世界転生転移ランキングにて6位になっておりました(n*´ω`*n)

とても嬉しいです!

どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!

 しかし、リステアードにはその気持ちは届かなかったらしい。


 彼は目の奥を揺らし、完全に動揺していた。……どうやら、ヴィヴェカが転びかけたことにかなりの恐怖を抱いていたようだ。


(……まぁ、少しの間に二度も転んでいるのだから、当然といえば当然なのかも)


 それに、一度目は階段からの転落だった。リステアードはヴィヴェカを本気で愛している。ならば、こうなるのもある意味当然なのだ。……彼は、ヴィヴェカを失って闇落ちするほどに、ヴィヴェカを愛しているのだから。


「いえ、旦那様が庇ってくださったので、特にけがはありませんわ」


 一応冷静を装って、ヴィヴェカは淡々とした声でそう言葉を発する。


 そうすれば、リステアードがほっと息を吐いていた。彼は、そんなにもヴィヴェカを想ってくれていたのか。


(それに気が付かず、あろうことか嫌うなんて。ヴィヴェカ・ヘルベルガーは相当傲慢な女だったのね……)


 そうは思うが、ヴィヴェカは今までの自分でもある。それすなわち、自分も相当傲慢な女だったということだ。


 その真実に気が付き、ヴィヴェカは頭が痛くなる。思わず額を押さえれば、リステアードが狼狽えたのがわかった。なので、笑っておく。


 ヴィヴェカが無事だと確信したからだろうか。リステアードがゆっくりとヴィヴェカから離れていく。


 ……どうしてだ、なんて聞くまでもない。


(そりゃあ、今まで嫌われていたのだものね。近くに寄りたくないのは、当然だわ)


 今までのヴィヴェカは、リステアードを毛嫌いしていたのだ。近づかれるのも嫌だと言っていた。


 きっと、その言葉はリステアードの心の中に深い傷を残している。思い出せば思い出すほど、ヴィヴェカは最低な女だ。


「旦那様。……その」


 けれど、どう声をかけようか。


 その一心でヴィヴェカが躊躇いがちに彼のことを呼べば、彼はヴィヴェカから視線を逸らす。


「い、いや、悪かった。……勝手に、触れたりして」


 彼が目を伏せながらそう言ってくる。


 だからこそ、ヴィヴェカは彼の方に一歩足を踏み出す。それを見て、彼が一歩足を引く。


(もうこうなったら、押せ押せで行くしかないわね……!)


 そう思い、ヴィヴェカは一歩一歩確実にリステアードに近づいて行った。もちろん、リステアードは一歩一歩、後ずさっていく。


 オルガはそんな二人の様子を、ひやひやとした表情で見守っていた。口を出さないのは、ヴィヴェカの真意を測りかねているからだろう。


「どうして、逃げますの?」


 でも、さすがにここまで逃げられると傷つく。


 そのため、ヴィヴェカは少し寂しそうな表情を浮かべて、リステアードに向き直った。


 ……どうして、なんて理由はヴィヴェカにも痛いほどわかっている。彼は、これ以上ヴィヴェカに嫌われたくないのだ。


「どうして、とは。どういう意味、だ?」


 彼のその言葉には、自分は当然のことをしているというばかりの気持ちがこもっていた。


 ヴィヴェカはリステアードに触れられたくない。それを、疑っていない。


(あぁ、こんなにも拒絶していたなんて。……前世を思い出すまでの私を、ぶん殴りたいわ)


 到底貴族の夫人が思わないようなことを思いつつ、ヴィヴェカは勢いよくリステアードにとびかかった。


 ――こうすれば、さすがの彼も逃げられない。


 その一心で行動すれば、予想通りと言うべきかリステアードはヴィヴェカを受け止めてくれた。


「……ヴィヴェカ」


 リステアードの声が、露骨に震えている。


 驚愕と、心配。あとは微かな喜びが、声に含まれている。彼は、ヴィヴェカに触れられることに確かな喜びを覚えているのだ。


 ……少しでも、近づきたい。


 無意識のうちに、ヴィヴェカの心の中にそんな感情が芽生える。


「私、旦那様に少しでも近づきたく思っております」


 彼の顔を見上げて、ヴィヴェカははっきりとそんな言葉を口にした。


 その瞬間、開いた窓からふわりとした風が吹き抜ける。その風は、ヴィヴェカの長い髪を揺らす。


「……どういう、つもりだ」

「どういうつもりも、こういうつもりもありません。私は、旦那様としっかりと向き合いたいと、思っております」


 彼の目を見つめて、ヴィヴェカはしっかりと自分の気持ちを言葉にしていく。


「今までの私は、どうかしていました。……こんなにも愛してくださる方を、毛嫌いしていただなんて」

「……それ、は」


 その言葉には彼にも心当たりがあるのだろう。その証拠に、彼の頬が仄かに赤くなる。


「ですから、どうか、もう一度私にチャンスをくださいませんか? 今度は、今度こそ。私は、間違えませんから」


 今までのヴィヴェカは自分勝手だった。自分本位で、人のことなんて後回し。それどころか、思いやりの一つもないような女だった。


 そして、後にも先にも。こんなヴィヴェカ・ヘルベルガーを愛してくれるのは――。


(旦那様しか、いないわ)


 リステアード・ヘルベルガー。彼以外、現れないだろうから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ