わがまま夫人と侍女頭
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結局、ヴィヴェカが寝室の外に出る許可を得たのは、着替えを済ませ髪の毛をまとめ、軽い化粧を施した後だった。
オルガは戸惑いがちに、ヴィヴェカの世話をしてくれる。彼女の手は震えていたが、それは嫌悪感や恐怖からではない。
ただ、どういう風にかかわればいいかが、分かっていないのだ。
「ありがとう、オルガ」
売り払う予定のドレスを抱えながら、ヴィヴェカはオルガに笑顔を向ける。
すると、彼女は俯いて黙り込んでしまった。
もしも、今までのヴィヴェカならば。こういう反応を取られれば、怒り狂っただろう。
でも、今のヴィヴェカは違う。……というか、中身が平凡な会社員になってしまったのだ。理不尽に怒られることの辛さは、よくわかっているつもりだ。
(そうなれば、私はいわばパワハラ上司ってことね)
そう思ったら、何となく納得できた。……とはいっても、これっぽっちもいいことではないのだが。
「ところで、奥様。こちらのドレスを売り払うとおっしゃっておりましたが、伝手はあるのでしょうか?」
ふと、オルガがそう声をかけてくる。伝手。そんなもの、考えてもいなかった。
(そうよ。前世では古着屋やら何やらに持っていけばよかったけれど、この世界にそういうものはないものね……)
貴族はお古のドレスなど着ない。それすなわち、買わないということだ。
俯いて黙り込んだヴィヴェカを見つめて、オルガが少し早足になる。そして、ヴィヴェカの隣を通り越す。
「よろしければ、私の知り合いに売り渡しますか?」
「……え」
「貴族はお古のドレスを嫌いますが、商家の娘ならばこういうものを好んで購入しますので」
その提案は、ヴィヴェカにとっては目からうろこである以上に、とても嬉しいことだった。
そもそも、一度も着られないままドレスがダメになるのは悲しい。……これもそれも、ヴィヴェカではなく美陽の考えだが。
「えぇ、お願いするわ!」
興奮してオルガに顔を近づければ、彼女はそっと後ずさった。かと思えば、何かブツブツと一人で呟いている。
「……奥様は、一体どうなさったのでしょうか?」
少しだけ聞こえてきた彼女の言葉は、そんな感じの言葉だった。
(まぁ、そりゃそうよね。今までわがまま三昧の夫人だったもの。いきなり心を入れ替えたと言っても、納得してくれるわけがないわ)
頭を打って少し考えが変わったと言ったところで、疑われるのがオチだ。もちろん、前世の記憶を思い出したよりはマシだろうが。
「ところで、オルガ。……旦那様と共にお食事を摂ろうと思うのだけれど、何処に行けばいいかしら?」
今までヴィヴェカとリステアードは食事さえ共に摂っていなかった。さすがに客を招いた晩餐会などはそうはいかなかったが、普段好き好んで共に食事を摂ることはなかったのだ。
だからこそ、ヴィヴェカは食堂を使い、リステアードは執務室で食事を摂っていた。……これは、本当に夫婦なのだろうか?
「えぇっと……そうですね。旦那様は普段、執務室でお食事を摂られるので……」
「それは知っているわ」
オルガの言葉に、そう言葉を返す。そうすれば、彼女は真剣に考え込んでいた。
しばらくして、彼女は顔を上げる。
「旦那様は、婚姻前からお一人のときは執務室でお食事を摂られておりました。……多分ですが、執務室でお食事を摂られるのが落ち着くのかと」
オルガは淡々とそう言うが、それではヴィヴェカは納得できない。
……彼を孤独にしては、ならないのだから。
(一人で食事って、孤独の代名詞とも言えないかしら?)
少なくとも、美陽はそう考える。一人で食事を摂っても、美味しくない……とも。
もちろん、これは美陽個人の考えであり、そうはいかない人物もいるだろう。……でも、試してみる価値はある。
「よし、オルガ。……私、旦那様と共に執務室でお食事を摂ってみるわ」
「……え?」
ヴィヴェカの言葉に、オルガが驚いたような声を上げる。……当たり前だ。ヴィヴェカの今の提案は、突拍子もないことなのだから。
「な、なんと、おっしゃいました……?」
「だから、旦那様と一緒にお食事を摂るために、執務室に突撃させてもらうわ」
オルガの問いかけに、ヴィヴェカはさも当然のようにそう言葉を返す。
「もちろん、無理強いはしないわ。……旦那様が嫌だとおっしゃったら、今日は大人しく引かせてもらうもの」
「今日は、ということは……?」
「今後、定期的に旦那様とお食事を共に摂れないか、交渉してみるつもりよ」
うんうんと頷いて、ヴィヴェカは納得する。が、どうやらオルガはそうはいかなかったらしい。
目をぱちぱちと瞬かせ、ヴィヴェカを見つめてくる。その目には「正気ですか?」という感情が宿っているようだ。
「私、とりあえず心を入れ替えることにしたわ。……今後、旦那様を孤独にはしないわ」
「……はぁ」
ヴィヴェカの決意を聞いても、オルガの言葉には覇気がない。……多分、信じていないのだ。
(そりゃそうよね。言葉よりも行動。有言実行よ)
だからこそ、ヴィヴェカはそう思う。行動してこそ、信じる価値があるというものなのだから。
案外、美陽はこういう考えが好きだったりするのだ。