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わがまま夫人と侍女頭

日刊ランキング異世界転移で19位になりました(n*´ω`*n)ありがとうございます!


どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!

 結局、ヴィヴェカが寝室の外に出る許可を得たのは、着替えを済ませ髪の毛をまとめ、軽い化粧を施した後だった。


 オルガは戸惑いがちに、ヴィヴェカの世話をしてくれる。彼女の手は震えていたが、それは嫌悪感や恐怖からではない。


 ただ、どういう風にかかわればいいかが、分かっていないのだ。


「ありがとう、オルガ」


 売り払う予定のドレスを抱えながら、ヴィヴェカはオルガに笑顔を向ける。


 すると、彼女は俯いて黙り込んでしまった。


 もしも、今までのヴィヴェカならば。こういう反応を取られれば、怒り狂っただろう。


 でも、今のヴィヴェカは違う。……というか、中身が平凡な会社員になってしまったのだ。理不尽に怒られることの辛さは、よくわかっているつもりだ。


(そうなれば、私はいわばパワハラ上司ってことね)


 そう思ったら、何となく納得できた。……とはいっても、これっぽっちもいいことではないのだが。


「ところで、奥様。こちらのドレスを売り払うとおっしゃっておりましたが、伝手はあるのでしょうか?」


 ふと、オルガがそう声をかけてくる。伝手。そんなもの、考えてもいなかった。


(そうよ。前世では古着屋やら何やらに持っていけばよかったけれど、この世界にそういうものはないものね……)


 貴族はお古のドレスなど着ない。それすなわち、買わないということだ。


 俯いて黙り込んだヴィヴェカを見つめて、オルガが少し早足になる。そして、ヴィヴェカの隣を通り越す。


「よろしければ、私の知り合いに売り渡しますか?」

「……え」

「貴族はお古のドレスを嫌いますが、商家の娘ならばこういうものを好んで購入しますので」


 その提案は、ヴィヴェカにとっては目からうろこである以上に、とても嬉しいことだった。


 そもそも、一度も着られないままドレスがダメになるのは悲しい。……これもそれも、ヴィヴェカではなく美陽の考えだが。


「えぇ、お願いするわ!」


 興奮してオルガに顔を近づければ、彼女はそっと後ずさった。かと思えば、何かブツブツと一人で呟いている。


「……奥様は、一体どうなさったのでしょうか?」


 少しだけ聞こえてきた彼女の言葉は、そんな感じの言葉だった。


(まぁ、そりゃそうよね。今までわがまま三昧の夫人だったもの。いきなり心を入れ替えたと言っても、納得してくれるわけがないわ)


 頭を打って少し考えが変わったと言ったところで、疑われるのがオチだ。もちろん、前世の記憶を思い出したよりはマシだろうが。


「ところで、オルガ。……旦那様と共にお食事を摂ろうと思うのだけれど、何処に行けばいいかしら?」


 今までヴィヴェカとリステアードは食事さえ共に摂っていなかった。さすがに客を招いた晩餐会などはそうはいかなかったが、普段好き好んで共に食事を摂ることはなかったのだ。


 だからこそ、ヴィヴェカは食堂を使い、リステアードは執務室で食事を摂っていた。……これは、本当に夫婦なのだろうか?


「えぇっと……そうですね。旦那様は普段、執務室でお食事を摂られるので……」

「それは知っているわ」


 オルガの言葉に、そう言葉を返す。そうすれば、彼女は真剣に考え込んでいた。


 しばらくして、彼女は顔を上げる。


「旦那様は、婚姻前からお一人のときは執務室でお食事を摂られておりました。……多分ですが、執務室でお食事を摂られるのが落ち着くのかと」


 オルガは淡々とそう言うが、それではヴィヴェカは納得できない。


 ……彼を孤独にしては、ならないのだから。


(一人で食事って、孤独の代名詞とも言えないかしら?)


 少なくとも、美陽はそう考える。一人で食事を摂っても、美味しくない……とも。


 もちろん、これは美陽個人の考えであり、そうはいかない人物もいるだろう。……でも、試してみる価値はある。


「よし、オルガ。……私、旦那様と共に執務室でお食事を摂ってみるわ」

「……え?」


 ヴィヴェカの言葉に、オルガが驚いたような声を上げる。……当たり前だ。ヴィヴェカの今の提案は、突拍子もないことなのだから。

「な、なんと、おっしゃいました……?」


「だから、旦那様と一緒にお食事を摂るために、執務室に突撃させてもらうわ」


 オルガの問いかけに、ヴィヴェカはさも当然のようにそう言葉を返す。


「もちろん、無理強いはしないわ。……旦那様が嫌だとおっしゃったら、今日は大人しく引かせてもらうもの」

「今日は、ということは……?」

「今後、定期的に旦那様とお食事を共に摂れないか、交渉してみるつもりよ」


 うんうんと頷いて、ヴィヴェカは納得する。が、どうやらオルガはそうはいかなかったらしい。


 目をぱちぱちと瞬かせ、ヴィヴェカを見つめてくる。その目には「正気ですか?」という感情が宿っているようだ。


「私、とりあえず心を入れ替えることにしたわ。……今後、旦那様を孤独にはしないわ」

「……はぁ」


 ヴィヴェカの決意を聞いても、オルガの言葉には覇気がない。……多分、信じていないのだ。


(そりゃそうよね。言葉よりも行動。有言実行よ)


 だからこそ、ヴィヴェカはそう思う。行動してこそ、信じる価値があるというものなのだから。


 案外、美陽はこういう考えが好きだったりするのだ。

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