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わがまま夫人の決意

 結局、その日のヴィヴェカはリステアードにもう一度対面することは叶わなかった。


 彼の言葉通り部屋に食事を運ばれたので、そこで夕食を摂った。リステアードとヴィヴェカの寝室は別なので、もちろん眠る前に会うことも叶わない。


 そして、寝台に潜り込みもう一度眠りに落ちる。


 夜が更け、朝を迎え――ヴィヴェカは、目覚めた。


「ふわぁ」


 大きく伸びをして、ヴィヴェカは寝台から起き上がる。そうすれば、部屋の扉がタイミングよくノックされた。


 そのノックに返事をすれば、ヴィヴェカの寝室に一人の侍女が現れる。長い黒色の髪をきっちりとお団子にした彼女に、ヴィヴェカは確かに憶えがあった。


「……えぇっと、オルガ?」

「はい」


 よかった。正解だったらしい。


 そう思いほっとヴィヴェカが息を吐くのもつかの間、彼女はずかずかと寝室に入ってくる。


 その後、サイドテーブルにぬるま湯と真新しいタオルを置いてくれた。


「奥様。おはようございます」


 まるで用意された言葉をそのまま話しているかのような。そんな淡々とした声だった。


 彼女の声を聞いて、ヴィヴェカは眉を顰める。


(……でもまぁ、嫌われているし当然と言えば、当然なのよね)


 でも、すぐに眉を元に戻した。


 オルガ・ネーフ。彼女はこのヘルベルガー侯爵家の侍女頭であり、ヴィヴェカの癇癪の被害を最も受けてきた侍女でもある。


 きつく見える顔立ち通り、彼女は割と性格がきつい。だが、仕事に関しては真面目であり、ミス一つないのでヴィヴェカは彼女のことを苦手としていた。


「本日の予定ですが……」


 オルガが抑揚のない声でヴィヴェカの予定を話す。


 内容としては、宝石商やデザイナーが来るというものがほとんどだ。むしろ、それしかない。


(これ、よくお金がまだあるわね……)


 自身で決めたこととはいえ、あまりにも贅沢ばかりで頭が痛い。……これもそれも、前世の記憶を思い出した所為なのだろう。


(まぁ、旦那様は有能な侯爵様だし、女の趣味が悪い以外は完璧だものね)


 その女の趣味が原因で、最悪の結末を迎えるのだけれど。


 心の中でヴィヴェカがそう付け足していれば、オルガが怪訝そうに「奥様?」と声をかけてくる。


 なので、ヴィヴェカは首を横にゆるゆると振った。


「いえ、何でもないわ。……ところで、その予定なのだけれど」

「はい、何かご不満でも?」


 まるで、ヴィヴェカに不満があるとでも言いたげな口調だ。


 そりゃそうだ。今までのヴィヴェカは、自分が決めた予定でも気に入らないと喚き散らす性格だったのだから。


 ……言葉にすると、何と最低な人間だろうか。


「えぇ、全部キャンセルして頂戴」

「……は?」


 ヴィヴェカの言葉を聞いて、オルガがまるで「正気ですか?」とでも言いたげな目で、見つめてくる。


 だからこそ、ヴィヴェカは彼女をまっすぐに見つめた。彼女の茶色の目が、色濃く驚きを宿している。


「ドレスも宝石も、アクセサリーも。山のようにあるわ。もう、必要ないもの」

「ですが……」

「無駄遣いは、止めるわ。……そうじゃないと、いつか誰かに恨みを買って殺されてしまうから」


 ライトノベルの中のヴィヴェカは、恨みを買って殺された。


 ならば、出来る限り恨みを買わないのが正しい選択だろう。……まぁ、手遅れかもしれないが。


(実際、使用人たちにも嫌われているし、きっと旦那様の親族からもいい評価は得ていないものね)


 そう思うと、項垂れそうになる。


 けれど、殺されないためには今からでも改善するしかないのだ。


 それに、死んでしまったらリステアードが必ず闇落ちしてしまう。それは、避けたい。


(そうよ。一晩しっかりと考えたじゃない。……私は、旦那様を闇落ちさせない)


 ぎゅっと手のひらを握って、ヴィヴェカはそう内心で呟く。


 リステアード・ヘルベルガーは孤独な生い立ちだ。それゆえに、闇落ちしてしまう。


 幼少期から両親に愛されず、挙句愛した妻にも相手にされなかった。しかも、愛した妻は自身の親族によって殺されてしまう。


 ……闇落ちする理由は、十分ともいえる。


「今後、私は心を入れ替えるわ。……だから、とりあえず本日の予定はすべてキャンセルして頂戴」

「……かしこ、まりました」


 深々と頭を下げて、オルガが部屋を出ていく。


 一人残されたヴィヴェカは、とりあえずとばかりに顔を洗う。その後、だだっ広い部屋に備え付けてあるクローゼットを開く。


 クローゼットの中には、色とりどりのドレスが入っていた。


(……このドレス、半分以上着ていないのよね)


 有名デザイナーに自らのためにデザインさせても、ヴィヴェカは身に付けなかった。


 そりゃそうだ。社交の場に参加するよりも、仕立てる頻度の方が高いのだから。身に着ける用事もないのに、仕立てていればこうなってしまう。


 しかも、それが結婚して二年間ずっと続いていたのだ。……よくもまぁ、財産を食いつぶさなかったな、と思ってしまう。


「よし、片づけるわよ!」


 前世は平凡な会社員なのだ。こんなにドレスがあっても無駄だと思ってしまう。


 ならば……リサイクルするべきだ。そう、すなわち――売る。以上。

ブクマが100を超えました(n*´ω`*n)

誠にありがとうございます! 引き続きどうぞよろしくお願いいたします……!

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