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わがまま夫人と夫の密会 1

 その後、夕食を済ませたヴィヴェカは一旦部屋に戻った。


 リステアードはこのまま来てくれても構わないと言っていたが、一応頭の中を整理したかったのだ。


(……旦那様は、アイシャの境遇についてお話しするとおっしゃっていたわ)


 それすなわち、アイシャの境遇はオルガの言っていたこと以外にも、何かあると言うことなのだろう。


(……まさか、ね)


 ふと、アイシャの顔が脳内に浮かぶ。優しくて、賢い女の子だと思った。


 もしも、リステアードがアイシャが孤独だからということ以外の理由で引き取ったとすれば。


 そんなことを思って、ヴィヴェカはゆるゆると首を横に振った。


「奥様。旦那様の元に向かわれますか?」


 しばらくして、近くにいたオルガがそう問いかけてくる。そのため、ヴィヴェカは頷いた。


「ただ、髪の毛を三つ編みにしようと思うの。……少し、鬱陶しいから」


 淡々とそう言えば、オルガが手早くヴィヴェカの髪の毛を三つ編みにしてくれた。


 その手つきは本当に手慣れており、何となく心地いい。


「では、行きましょうか」


 三つ編みが終わったのを見計らって、ヴィヴェカはそう声を上げた。




 リステアードの執務室の前に立ち、ヴィヴェカはゆっくりとその扉をノックした。そうすれば、「いいぞ」という声が聞こえてくる。この声は、間違いなくリステアードのものだ。


「失礼いたします」


 そう声をかけて、ヴィヴェカは扉を開けた。執務室の中は割と殺風景だった。ただし、壁際には棚が所せましと並んでおり、その中にも本がたくさん詰め込まれている。執務室の中で一番視線を引くのはやはりというべきか、重厚な執務机。リステアードはその前にある執務椅子に腰かけており、ヴィヴェカが入ってきたことに気が付くと立ち上がる。


「そこに座ってくれ」


 彼がそう言って指さした先には、来客用のソファーがあった。なので、ヴィヴェカは静かにそこに腰を下ろす。


 そして、リステアードがヴィヴェカの対面の場に腰を下ろす。それから、ヴィヴェカについてきたオルガに視線を向けた。


「オルガ。悪いが、ここからはヴィヴェカと二人で話したい」

「……かしこまりました」


 それは遠回しにオルガに出て行ってほしいと言うことだ。


 だからだろう、オルガは何のためらいもなく執務室を出て行った。残されたのは、リステアードとヴィヴェカの二人だけ。


「……なにか、飲むか?」


 しばらく沈黙が場を支配していたものの、不意にリステアードがそう問いかけてきた。なので、ヴィヴェカは頷く。


「じゃあ、準備をする。少し待っていてくれ」


 彼はまた立ち上がり、執務室の端にある簡易キッチンに近づいて行った。


 しかし、ヴィヴェカからすれば疑問がある。どうして、執務室の中に簡易キッチンなどがあるのだろうか。


「……あの、旦那様」


 肩をすくめながら声をかければ、リステアードの視線がヴィヴェカを射貫く。それに少々怯みながらも、ヴィヴェカは口を開いた。


「執務室に、キッチンなど必要でしょうか?」


 そもそも、お茶を淹れるのだって使用人の仕事だ。なにも、リステアードがする必要などこれっぽっちもない。


 そういう意味でそう問いかければ、彼は視線をティーポットに向ける。


「……俺は、一人になりたいときがある。そういうときは、ここにこもっていたからな」


 今にも消え入りそうなほど、小さな声だった。しかし、その言葉はしっかりとヴィヴェカの耳に届く。


「ずっと一人だったんだ。だから、一人でいるときの方が気楽なときもあってな」

「そう、でしたの……」


 確かに人間だれしも一人の時間が欲しいと思うときはあるだろう。ヴィヴェカだって、それは同じだ。


 リステアードがお茶を淹れるのを、ヴィヴェカはそっと見つめていた。彼は慣れた手つきでお茶を用意する。


「……なにか、お手伝いしましょうか?」

「いや、構わない」


 沈黙が辛くて一応そう言ってみるものの、リステアードはヴィヴェカの言葉を一蹴した。


 なので、ヴィヴェカは黙ることにした。


 ちくたくと時計の針が進む音だけが、耳に届く。さすがに、そろそろ気まずい――。


 そう思っていれば、リステアードがティーセットを持ってきた。


「少し熱いから、やけどに気を付けてくれ」


 彼はヴィヴェカにそう声をかけると、ティーポットからティーカップにお茶を注ぐ。とてもきれいな色合いのお茶は、いい香りがした。


「……とても、美味しそうです」


 ティーカップの中で揺らめく水面を見つめつつ、ヴィヴェカはそう呟く。


 少しだけ息を吹きかけて口をつける。……確かに、熱い。


(っていうか、熱すぎて味がわからないわ……)


 そう思いヴィヴェカが眉をひそめていれば、リステアードがくすっと声を上げて笑ったのがわかった。


「……旦那様」

「いや、悪い。……熱くて味がわからないんだろう? ヴィヴェカは、猫舌だったからな」


 そういえば、そうだった。


 心の中で過去の記憶を引っ張り出して、ヴィヴェカはそう思う。


 ……というか。


「旦那様、私のことをよく見ていらっしゃったのですね……」


 リステアードがこのことを知っていることが、驚きだ。

どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!

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