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わがまま夫人、前世の記憶を思い出す

早速ブクマや評価ありがとうございます(n*´ω`*n)

どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!

 ゆっくりと重たい瞼を開ける。


 すると、一番に視界に入ったのは見慣れた天井。


 そして、自身の顔を覗き込む、年若い侍女の姿。


「お、奥様!」


 侍女は微かに声を震わせながら、ヴィヴェカの様子をうかがう。


 それを見つめつつ、ヴィヴェカは寝台から起き上がった。ふかふかの寝具と、広々とした寝台。


 ここは、確かにヘルベルガー侯爵家の屋敷にあるヴィヴェカの私室のようだった。


「……わ、たし」


 ずきずきと痛む頭を手で押さえ、ヴィヴェカはそう言葉を発する。


 そうすれば、侍女が慌てて立ち上がる。どうやら、彼女は椅子に腰かけていたらしい。


「奥様。なにか、必要なものはございませんでしょうか? お水でしょうか? それとも……」


 彼女は相当怯えている。それを悟りつつ、ヴィヴェカは笑った。その姿に、侍女が目を真ん丸にする。


「いえ、特にないわ。……とりあえず、一人にしてもらえるかしら?」

「か、かしこまりましたっ!」


 ヴィヴェカの指示を聞いて、侍女がドタバタと駆けていく。……どうやら、少しそそっかしい侍女らしい。


(……あぁ、一体、どうなっているの?)


 まだずきずきと痛む頭を押さえ、ヴィヴェカは心の中でそう零す。


 周囲を見渡すと、この部屋には確かに見覚えがある。侍女の顔にも見覚えはあるし、この国やヴィヴェカ自身のこともしっかりと記憶に残っている。ヘルベルガー侯爵家に嫁いだきっかけだって、覚えている。


 なのに……何故だろうか。まるで、自分が自分じゃないみたいだ。


「わた、し、死んだ、の……?」


 ボソッとそう言葉を零し、ヴィヴェカは自らの手のひらを見つめた。美しく、傷一つない手だ。爪に塗ってある紅も、大層よさそうなものであり、光沢が良い。大方、高級品だろう。


(……いいえ、私は死んでいない。ヴィヴェカ・ヘルベルガーのままだわ)


 内心でそう呟きつつ、ヴィヴェカは寝台の近くに置いてある手鏡を手に取った。


 鏡の中には、美しい女性が映っている。緩く波打つ銀色の長い髪。ぱっちりとした、大きな青色の目。


 一言で表せば大層な美女である。けれど、ヴィヴェカは自身が社交界で『悪女』と呼ばれていることを、知っていた。


「ヘルベルガー侯爵家を食いつぶす悪女、か」


 手鏡を元の場所に戻し、ヴィヴェカはそう言葉を発する。


 心無い言葉には、慣れている。侍女たちが、使用人たちが、自分のことを裏で悪く言っているのも知っている。


 でも、今までならばなにも思わなかったはずなのに。……何故だろうか。今は、無性に苦しい。


「というか、美陽って誰なのかしら……?」


 そういえば。頭の中に突然浮かび上がってきた美陽という女性の記憶が気にかかる。


 頭を打った拍子に思い出した、知らない女性の記憶。……もしも、ここが『ライトノベル』の世界ならば。


 これはきっと――異世界転生とか、そういうものなのだろう。


「って、ライトノベルってなによ……」


 自分の心の中の発言に突っ込みつつ、ヴィヴェカはぼんやりと周囲を見渡す。


 ……夫であるリステアードは、今頃なにをしているのだろうか?


 とはいっても、自分たちは不仲だ。見舞いをし合うような関係ではない。……この二年、ずっとそうだったじゃないか。


「あれ? でも、ヘルベルガー侯爵家の……リステアード?」


 なんだろうか。この名前には、確かに聞き覚えがある。それも、ずっとずっと昔。ヴィヴェカとして生を受ける前のような――。


「もしかして、やっぱり異世界転生したっていうこと……?」


 なんとなく、ヴィヴェカとしての意識が薄れていくような感覚だった。


 そんなことを思っていれば、ふと部屋の扉がノックされる。その後、怯えたような声が聞こえてきた。


「お、奥様……。旦那様が、お会いしたいということなのですが……」


 この声は、大方先ほどの侍女のものだろう。


 それを悟り、ヴィヴェカは思った。一体、どういう風の吹き回しなのだろうか、と。


「旦那様、今まで私が風邪を引こうがけがをしようが、無視だったじゃない……」


 それは、ヴィヴェカが来てくれるなと言っていたのも、関係していた……いや、間違いなくそれが原因だ。


 そう考えれば、ヴィヴェカは随分と傲慢な女性だったらしい。いや、傲慢で、わがままで。だから、社交界で『悪女』とまで囁かれているのだ。


「まぁ、いいわ。今後は、旦那様との関係も改善したいし」


 今までのヴィヴェカはリステアードのことを毛嫌いしていた。


 父が勝手に決めた結婚の相手。それも、七つも年が離れている。顔立ちは少々怖くて、表情は無。


 そんな彼を、ヴィヴェカはどう頑張っても好きになれなかったのだ。


「奥様~?」


 いつまで経っても返事をしないヴィヴェカに、しびれを切らしたのだろうか。侍女が、恐る恐るもう一度そう声をかけてきた。


 そのため、ヴィヴェカはハッとしてコホンと咳ばらいをした。


「えぇ、いいわよ。旦那様を、お呼びして頂戴」


 凛とした声でそう言葉を返せば、部屋の外からガタガタというような音が聞こえてきた。そして、バタバタという慌ただしい足音。


「やっぱり、そそっかしい子だわ」


 何故か、ヴィヴェカはそう呟いてしまった。

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