わがまま夫人と夫の夕食 2
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誠にありがとうございます!
「……アイシャが、どうした」
リステアードがヴィヴェカを見つめてそう問いかけてくる。
その声音には何処となく慈愛のようなものがこもっており、大方彼はアイシャを大切に思っているのだろう。
(そりゃそうよね。癇癪持ちの妻に会わせないようにし、親族にも黙っていたのだもの)
もしかしたら、リステアードはアイシャと自分の過去を重ね合わせているのかもしれない。孤独な自分と、孤独となってしまった少女のことを。
(ならば、尚更アイシャをしっかりとした淑女に育てなければ)
それを実感すると、ヴィヴェカの心の中に芽生えたその感情が強くなる。
そして、ヴィヴェカはリステアードをまっすぐに見つめた。
「アイシャを、私たちの正式な養女として、育てたいと思っているのです」
ヴィヴェカははっきりと自分の要望を口にした。
すると、リステアードの目が大きく見開かれる。当たり前だ。今までのヴィヴェカならば、こんな言葉絶対に口にはしなかった。
子供を嫌い、疎ましがっていたヴィヴェカならば――。
「……どういう、風の吹き回しだ」
さすがにリステアードとて不審に思ったのだろう。彼は低い声でそう問いかけてくる。
だからこそ、ヴィヴェカはカトラリーを置いて胸に手を当てる。
「アイシャは、とてもいい子でございます。それに、とても賢い子です」
「……あぁ」
「なので、あの子に輝かしい未来を与えたいのです」
ヴィヴェカのその言葉に、側に控えていた使用人たちがぎょっとするのがわかる。
でも、ヴィヴェカは気にしない。ただ、リステアードをまっすぐに見つめ、胸に手を当てるだけだ。
「……ヴィヴェカ」
「そして、共に食事もしましょう。家庭教師もつけ、立派な淑女にしたいと私は望みます」
リステアードから視線を逸らさずにはっきりとそう伝えれば、彼がごくりと息を飲んだのがわかった。
彼はそれを誤魔化すように水の入ったワイングラスを口に運び、のどを潤していた。
「……そうか」
彼は、それしか言ってくれなかった。だが、すぐにヴィヴェカを見つめてくる。
「アイシャの境遇は、聞いているか?」
しかし、いきなり話が変わったことにヴィヴェカは驚かざる終えなかった。
アイシャの境遇。それは、ある程度は聞いている。
「ある程度は、オルガから聞きました」
しっかりと頷いてそう言えば、リステアードは「そうか」とだけ声を上げた。
「だが、アイシャの両親については詳しくは聞いていないだろう。……食事の後、執務室に来てくれ」
「……え?」
「アイシャの今後について、二人で話そう」
まさか、リステアードからこう言ってくれるなんて。
そう思い、ヴィヴェカの胸の内に嬉しさがこみあげてくる。リステアードは、少しずつでもヴィヴェカを認めてくれているのかもしれない。無意識のうちに、そう思ってしまう。
「……あとは、何かあるか?」
リステアードがヴィヴェカにそう問いかけてくる。……あと、後は……。
(まずいわ。先ほどの感激で、何をお話しようか忘れてしまった……!)
執務室に誘ってくれた感激で、何もかもが頭の中から吹っ飛んだ。
だからこそ、ヴィヴェカはゆるゆると首を横に振る。
「……いえ、特にありません」
「……そうか?」
「えぇ、いろいろと思っておりましたが、すべて吹き飛んでしまいました」
にっこりと笑ってそう告げると、リステアードの視線が露骨に逸らされる。……相変わらず、彼はヴィヴェカの笑みをなかなか直視できないらしい。そういうところが、最高に――可愛らしい人だと思う。
そんな風にヴィヴェカが思っていると、リステアードが不意に「ふぅ」と息を吐いたのがわかった。
「……変わったな」
そして、彼はそう呟く。……変わったとは、ヴィヴェカのことだろう。いや、それ以外に変わったことなどない。
「はい、詳しいことはお話できませんが、私は新たなヴィヴェカ・ヘルベルガーとして生きていきたいと思っております」
「……そうか」
「旦那様のことを、必死にお支えしますわ」
はっきりとしっかりと。自分の気持ちを伝えれば、リステアードの頬に微かに朱が差す。……やはり、とても可愛らしい人だ。
(このお方をラスボスになんて、させない。闇落ちなんて、させないわ)
そのためならばヴィヴェカは恥を捨てて彼に縋るつもりだ。だって、こんなにも優しい人なのだ。……ヴィヴェカのことを、見捨てなかったのだ。本気で、愛してくれたのだ。
(今度は、私が旦那様のことを救う番だもの)
ヴィヴェカは、心の底からそう思っている。今度は――自分が、リステアードを愛する番だと。
どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!




