わがまま夫人と夫の夕食 1
(あら!)
食堂の中では、すでにリステアードが待機していた。そのため、ヴィヴェカは彼を見て目を丸くする。
万が一、約束をすっぽかされたら……ということまで考えていたので、それは嬉しい悲鳴だ。
……もちろん、ヴィヴェカを本気で愛しているリステアードが約束をすっぽかすなんて思えない。ただ、仕事が忙しく気がついたら時間が過ぎていた……ということを考えていただけだ。
「……ヴィヴェカ」
リステアードがヴィヴェカの姿を見て、少しだけ安堵したような表情を浮かべる。
あちらも、どうやらヴィヴェカがここに来るか不安だったらしい。
「旦那様。お約束を守ってくださり、とても嬉しく思いますわ」
ニコニコと笑ってそう言うと、リステアードが露骨に視線を逸らした。その頬には微かに朱が差しており、やはり彼は照れ屋なようだ。……もしくは、ヴィヴェカに対してだけ照れ屋なのか。そこは、ヴィヴェカが知る由もない。
そう思いつつ、ヴィヴェカはオルガに椅子を引いてもらいそこに腰掛ける。
すると、メイドたちが料理を運んできた。今日の夕食のメインはステーキのようだ。あとはスープとサラダと、いくつかの前菜。それからデザートにフルーツの盛り合わせが運ばれて来た。
(……これ、相当お金がかかっているわよね……)
料理人が夕食のメニューを説明している間、ヴィヴェカは料理を見つめる。
メインやスープ。サラダは外せないだろう。でも、前菜はこんなにも必要ないような気がする。そもそも、ヴィヴェカは少食だ。すべてを平らげた記憶など、一度もない。
(フルーツは大好きだから食べたいけれど……こんなにたくさん盛り合わせられてもねぇ)
きれいにカットされたフルーツを眺めつつ、ヴィヴェカは考え込む。そうしていれば、料理の説明が終わったらしく、料理人が口を閉ざした。
なので、ヴィヴェカはリステアードに微笑みかける。その瞬間、料理人が息を飲んだのがわかった。
「……食べようか」
リステアードが低めの声でそう告げてくる。そのため、ヴィヴェカは頷いてフォークとナイフを手に取った。
サラダはとてもみずみずしく、新鮮なものだとわかる。スープも野菜のうまみがよく出ている。ステーキなどは、とても柔らかくすぐにナイフが入っていく。……大層美味な食事だった。
しかし、ヴィヴェカは純粋には楽しめなかった。なんといっても、リステアードと共に二人きりで食事をするなど、初めてのことなのだ。さらに言えば、この食事にどれほどのお金がかかっているのかを想像するだけで、冷や汗ものだ。
(とりあえず、旦那様にはお食事の量を減らしていただくように言わなくちゃ)
食べ物を無駄にすることは許されない。
そう思うからこそ、ヴィヴェカはリステアードに顔を向けた。彼は、とてもきれいな仕草で食事を摂っている。その仕草はヴィヴェカとは比べものにならないほどに、美しい。
「あの、旦那様」
彼の仕草に見惚れていたものの、ハッとしてヴィヴェカが声をかける。
その瞬間、リステアードが驚いたように目を見開き、フォークを床に落としてしまった。からんという音が食堂に響き渡り、何とも言えない微妙な空気が場を支配する。
「……あ、あぁ、悪い」
しばらくして、リステアードがそう謝罪をしてくる。彼の近くにいたメイドが、新しいフォークをリステアードに渡す。
その光景を見つつ、ヴィヴェカは微かな不安を抱いてしまう。
……もしかしてだが、リステアードはかなりのポンコツなのではないだろうか?
(いいえ、そんなはずはないわ。だって、旦那様はラスボスよ?)
記憶にある限り、ライトノベルの中のリステアードは恐ろしい人物として描かれていた。
……けれど、今はその面影もない。もしかしたら、彼はヴィヴェカを失ったことにより、恐ろしい人物へと変貌したのだろうか?
あり得る話だ。
「いえ、お気になさらず」
出来る限りにっこりと笑って、ヴィヴェカはリステアードの言葉にそう言葉を返した。
その瞬間、リステアードが今度はナイフを落とす。……なんとなく、彼との今後の会話に一抹の不安を抱いた。
「……ヴィヴェカ」
リステアードがヴィヴェカの目をまっすぐに見つめようとして……また、視線を逸らした。
それにいたたまれなくなり、ヴィヴェカは一度だけ咳払いをする。とりあえず、用件はさっさと話してしまおう。
「あのですね、旦那様。いくつかお話がありますの」
「……あぁ」
少し間が空いたものの、彼はしっかりと返事をしてくれた。ならば、問題ないだろう。そう、ヴィヴェカは判断する。
「まず、一つ目。アイシャのことなのでございます」
なので、ヴィヴェカはしっかりとはっきりと、用件を述べることにした。




